見出し画像

ギックリ腰

腰痛は日本人の80%の人が経験している症状であり、生活の質に大きく影響を及ぼすことが考えられています。腰痛の原因となる原因疾患は数多くありますが、突然痛みが襲ってくる、いわゆるギックリ腰と言われる急性腰痛は、痛みによって生活に支障をきたしやすく、一度患うと1/4の人が1年以内に再発すると言われています。

今回は、そのギックリ腰にフォーカスして、コラムを書きたいと思います。


一度発症すると、くせになるギックリ腰


ギックリ腰の原因となる機序はまだはっきりとわかっていませんが、重いものを持ったときに、突然腰に痛みが出現し動けなくなってしまう場合や、咳をしたときに急に腰が痛くなり、動けなくなるなど、原因となる動作は様々です。痛み自体は突然襲ってくるため、欧米では「魔女の一撃」とも呼ばれています。

そんなギックリ腰ですが、1週間から2週間程度で痛みは改善していくため、安静にして動けるようになってから仕事などに復帰するという方も多いのはないでしょうか。

ギックリ腰に関連する研究の報告は古くから存在し、1951年にKraftらが、椎間関節のインピンジメント(関節に挟まれるという意味)、1952年には、Newmannらの腰椎後方支持組織の断裂、1967年には諸富らの筋肉などが原因だとする筋・筋膜性の腰痛などが原因とする報告がされています。

また2005年にはHyodoらが、突然発症した耐え難い腰痛で、神経痛や神経学的な障害がない急性非特異的腰痛症患者、いわゆるギックリ腰の患者に対して、椎間板にブロック注射を行った結果、73%の再現痛を得られ、70%の改善率であったことから、ギックリ腰の多くの要因に椎間板が関与している可能性を報告しています。これらのことから、ギックリ腰には様々な要因があるが、多くは椎間板由来の痛みが多いのではないかと考えられています。


ギックリ腰の原因の一つは、椎間板の亀裂!?


椎間板は、脊椎と呼ばれる背骨に存在し、首の骨の頚椎の間に6個、胸の骨の胸椎の間に12個、腰の骨の腰椎の間に5個、あわせて23個の椎間板があります。

椎間板は、内側に髄核とそれを取り囲む線維輪、脊椎終板で構成されています。髄核は椎間板体積の40-60%を占め、主成分はプロテオグリカンとⅡ型コラーゲンで構成されており、髄核組織の80%は水分で構成されています。

線維輪は髄核の外側に同心円状の層板とよばれるコラーゲン線維から構成されており、前方で厚く後方で薄い構造になっています。また、後方線維輪は層板同士の結合も弱いため脆弱で,退行性変化は後部に亀裂が生じで始まることが多いとされています。


椎間板の役割は、体重の支持と脊椎の分節的な可動性を補助することにあります。体重支持は脊柱に加わる衝撃を緩衝させるクッション機能のことで、分節的な可動性の補助は、様々な動きに対する圧縮ストレスに対し、柔軟に変形する機能であるとされています。(工藤 2017)

正常な椎間板の線維輪内層と髄核には、痛みを感じる神経はないとされていますが、変性した椎間板では線維輪の内層部分や髄核にも神経終末が存在することが報告されています(高橋 2007)。

椎間板に過剰な負荷が加わった状態や老化による変性などで、椎間板由来の疼痛が発生すると考えられています。椎間板の線維輪は脊髄洞神経と交感神経の2重、多髄節支配です。そのため、椎間板由来の疼痛は、痛みの範囲が限局しない、やや広い範囲での痛みを訴える場合が多いと言われています。


椎間板に負担がかからない動作は、様々な書籍や雑誌でも紹介されているように、屈んで重いものをもったり、捻ったりすることで、過度に負担がかかることになります。また、ずっと同じ姿勢でいることも椎間板にかかる負荷は増えることはわかっています。

そして、朝方は椎間板の内圧が高まっている状態のため、その状態で前屈みで重いものをもったりすると、余計に負荷は高くなることが考えられます。雪国で早朝の雪かきは特に注意が必要な動作となるため、時間を変える、融雪剤を使うなど工夫することが大切だと思います。


椎間板由来のギックリ腰を発症したら。


整形外科のクリニックでレントゲンのみで椎間板由来のギックリ腰(急性腰痛)はわからないことが多いと呼ばれています。

臨床上の経験や整形外科医らの著書(菊地2020)では、ギックリ腰の中でも、前屈すると痛みが再現できるのが、椎間板由来のギックリ腰の可能性が高いと言われています。

発症した2~3日は痛みが強く動けないことが多いので、まずは無理せず痛みがでないよう安静にすることが大事です。

痛みが治まってきたら、少しずつ普段の生活を心がけましょう。2週間もすると痛みはだいぶ改善し、1ヶ月もするとほとんどの人が痛みが改善します。そして、再発しないよう、椎間板の圧が高くならないような工夫が大切です。

雪かきなど椎間板の負荷が高くなる動作をするときは、腹圧が椎間板の内圧を減らす働きをしているので、コルセットや腹巻きをすることもギックリ腰のリスクを減らすことにつながります。特に、朝方や疲れているとき、食べ過ぎた後、ストレスが過多のときは要注意なので、先ほどの道具を使用することをおすすめします。また、症状がないときから腹圧を高める腹部の筋肉を使うエクササイズも行うとなおよいでしょう。

わからないことや、不安なところがあれば、お気軽にご相談ください。

最後まで、読んでいただき、ありがとうございました。


【参考文献】

Kraft GL, Levinthal DH. Facet synovial impingement: A new concept in the etiology of lumbar vertebral derangement. Surgery Gynecology and Obsterics. 1951, 93: 439–443.

Newmann PH. Sprung back. J Bone Joint Surg. 1952, 34-B: 30–37.

諸富武文.筋,筋膜性腰痛症について.臨整外. 1967, 2 : 603–610.

Hironori Hyodo, Tetsuro Sato, Hirotoshi Sasaki, and Yasuhisa Tanaka, Discogenic pain in acute nonspecific low-back pain. Eur Spine J. 2005 Aug; 14(6): 573–577.

工藤 慎太郎. 運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略. 医学書院 2017.

高橋 弦. 大鳥 精司. 青木 保親. 高橋 和久. 椎間板性腰痛の基礎. J. Lumbar Spine Disord. 2007.

菊地臣一. 腰の激痛 椎間板ヘルニア・ギックリ腰・すべり症・分離症・圧迫骨折 腰と脊椎の名医が教える 最高の治し方大全 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2576-2577). Kindle 版. 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?