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トレンドを追い風に、想定外のターゲットにウケた「こだわり酒場のレモンサワー」

昨今のレモンサワーブームを牽引するブランド、サントリーの「こだわり酒場のレモンサワー」について、ブランディングトレースを実践。

今回は、商品開発当初には想定されていなかった層に、商品が受け入れられ人気になったことが面白いと思った。
何が正解なのかは、市場が教えてくれるんだなぁと思わされた。

昨今のレモンサワーブームとは?

昨今では、若年層を中心にレモンサワーがブームになっている。
若者の酒離れと言われている中で、なぜレモンサワーが流行っているのだろうか。

そもそも、レモンサワーは1950年頃に大衆居酒屋の「おじさんの飲み物」として生まれた。
焼酎にレモンと炭酸を加えれば簡単に作れるお酒として、多くのサラリーマンに親しまれ、飲まれるようになったそうだ。

そこから50年以上経った今、レモンサワーは若年層を中心にまた人気を集めている。
その理由として、下記のようなブーム・潮流が考えられる。

●レトロブーム/大衆居酒屋ブーム
→昭和感のあるもの、昔ながらの街並みなどが、ある種のトレンドとなった。レトロな写真はインスタ映えすると人気になったこともある。
例:Instagram「#レトロ(260万件)」

●価格志向
→可能な限り、価格は安く済ませたいという、いつの時代でもある消費者心理。

●美容・健康意識の向上
→「美容男子」という言葉が生まれるほどの、女性・男性というジェンダーを超えて広まった美容意識。そしてさらなる健康意識の向上。それに対して、レモンはビールよりもカロリーが低く、ビタミンCも摂取できるということに対して反響が寄せられた。

上記3つの大きな社会的潮流に加えて、人気音楽グループのEXILEがレモンサワー好きであるということから、「かっこいい男の飲み物」として、若年層を中心に認知されたことも、トレンドを後押ししたようだ。

以上から、若者の酒離れという大きなトレンドがあるにもかかわらず、
レトロブーム、価格志向、美容・健康意識の向上、さらに人気音楽グループというインフルエンサーからのお墨付きを得て、一気にトレンド化したと考えられる。

商品開発・発売時の戦略

「こだわり酒場のレモンサワー」は、こうしたレモンサワーブームを追い風に、売り上げを伸ばしていくことになるが、発売前には既に、下記のようなレモンサワー商品が市場に出回っていた。

・タカラcanチューハイ(by宝酒造)
・極上レモンサワー(by宝酒造)
・氷結レモン(byキリン)
・レモンザリッチ(byサッポロ)

この状況で、類似のRTD商品・缶商品として攻めるのはハードルが高い。
そこで、大きく3つのこだわりをもとに商品を開発した。

①家庭でも居酒屋の味が楽しめること
仕事の帰りに居酒屋で飲みたいけど飲めないサラリーマンがいることを踏まえ、
家庭でも居酒屋の味が楽しめるお酒を開発するに至ったのだそう。

家庭でも居酒屋の味が楽しめるレモンサワーの開発のために、下記3つの条件にこだわったとのことだった。
「しっかりとレモンの味を楽しめる」
「甘くない」
「料理に合わせやすい」

②レモンサワーではなく「レモンサワーの素」
家庭で居酒屋の味を楽しむ方法として、「レモンサワーの素」に自分で炭酸水を入れて割って飲むというやり方を提案した。

その当時、自宅に炭酸水を置いて自分で割って飲む人がいることを見て考案したとのことだったが、これが市場に出回っていた競合のレモンサワー商品との差別化ポイントになった。

また、DIYのブームに見られるように、自分独自にアレンジすることが世の中的なトレンドになっていたことも、この商品の売り上げを後押ししたのかもしれない。

③「居酒屋感」の演出
商品のデザインは、居酒屋のメニューを彷彿とさせるような手書き文字で作られている。ターゲット世代が思わず手に取りたくなるようなデザインに工夫されていると言える。

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商品発売後の戦略

商品発売後は、商品開発時の40〜50代をメインターゲットとしつつも、若年層を巻き込んでいく戦略が取られていると考察できる。

発売当初は、40〜50代男性をメインターゲットとしていたが、実際に市場に出してみると、若年層からの反響が想像以上に多く、当初の計画を何度か上方修正し、計画の13倍の商品が売れたそうだ。

そこでマーケティング戦略としては、商品発売から1年後、梅沢富美男さんをCMに起用し、タレントを「レモン沢富美男」としてビジュアル的なインパクトのあるCMを制作。

梅沢さんを起用した意図は、商品の大衆感・居酒屋感を演出しつつも、幅広い世代から愛されるブランドに育てていきたいという意図があったと考えられる。

このCMが若年層から反響を呼び、2019年以降の売り上げの伸びに貢献したようだ。

今後のブランド戦略は?

今後は、このブランドが、レモンサワーブームという一過性のブームに乗じたブランドとして終止してしまうのか、それとも長期的なトレンド商品として売れ続けるのかは、今後2、3年のブランド戦略によって決まってくるように思う。

①ブランドのターゲットについて
当初は、40〜50代男性をターゲットとして想定していたとのことだったが、
市場に出してみると、若年層を含めた幅広い層から購入があったとのことだったので、これからは、どの層をメインターゲットとしていくのか、そしてそのターゲットごとのコミュニケーション戦略を設計していく必要がありそうだ。

②SNS戦略について
Instagramは公式アカウントを保有していないが、Twitterは公式アカウントを2020年夏に設立していた。Twitterの運用自体は、現在は行われていないようだ。

一方で、CMタレントとして活躍している梅沢さんは、ご自身のInstagram・Twitterでも「レモン沢」の姿で登場しており、ブランドのプロモーションに積極的に関わっていることが見受けられる。

さらに、公式ブランドサイトでは、商品のファンによる投稿サイトや交流ページが設けられており、オンラインでのファンマーケティングに注力していきたいという戦略が読み取れる。


以上から、今後、デジタルネイティブ世代である若年層もターゲットとして巻き込んでいく可能性が十分にある。
その際は、CMで反響の多かった梅沢さんの継続起用、公式Twitterアカウントの運用再開の可能性もあると考えられる。

学び&気付き

①トレース対象商品について
今回のように発売から5年程度の新商品だと、当時の市場環境・外部要因を整理しやすかった。
また、ブランドリニューアル前のタイミングであることが多く、ブランドの成長過程がシンプルなため、初心者としては考察しやすかった。

②発売時の意図と市場でのウケ方の差分を捉える
今回のブランドは発売時の意図と、市場に出してからの結果が明確に異なった。その場合、商品開発時と市場に売りに出した後で、どのようにブランド戦略が変化したのかを読み取ることが重要だと感じた。

以上!!

またやります〜!!

<参考資料>
ホームページ
Wikipedia
「こだわり酒場のレモンサワー」新発売
「こだわり酒場のレモンサワー」、“国民的レモンサワー”ブランドに/サントリースピリッツ
「酒離れ」の若者たちが、なぜかレモンサワーを支持するワケ
サントリー レモンサワーの素 計画10倍超の大ヒット



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