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【掌編】温め続けて “小さな口福”

卵がひとつ。
ここにある。

いつからか、大事に大事に温めている。

殻の色は時々変わる。
白や、黒や、なんとも言えないまだら模様にも。

中からコツコツ音がする。
気がする。

よく見ると、周りにも同じように卵を温めている人がいる。

もっと大きなものだったり、小さくてもたくさんだったり。

そして時々、その卵から、生まれる。

大きく綺麗な羽を広げて。
強そうな鎧に身を固めて。

温め続けたその人は、その背に乗ったり、仰ぎ見たり。
時に生まれたそのものに、パクリと丸呑みされてしまったり。

生まれそうに震えても、
その直前に割れてしまったり、中から形にならないものがドロリと溢れてきたり。

この卵からは何が生まれるのだろう。
ちゃんと生まれてくれるだろうか。

ほら、今、震えている。
掌の中でコトコトと。

生まれる!!!



コツコツとひびが入った。
つるりとした白い肌。
ゆで玉子が出来上がった。
きれいに剥けて上出来だ。
塩をつけて食べようか。
それともマヨネーズと和えてパンに挟んで、君の好物のタマゴサンドを作ろうか。


心の中の卵は、まだまだ大事に温めている。

これだけは割れないように。
これだけはボイルしないように。

いつか孵ると信じている。


ーーーーー了

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