2022年7月の記事一覧
ビール傘③/毎週ショートショートnote
急な雨に慌てて、シャッターの下りた軒先に駆け込む。
時計を見ると夜の10時過ぎ。
また今日もこんな時間。諦めて濡れて帰ろうか。
ふと横を見ると、傘立てがあり、何本か傘がある。
借りて帰ってしまおうか。
早めに返しておけばわからないだろう。
そう思って手を伸ばした。
チカッ!…ガシャッ…
小さな稲妻が走ったかと思ったけれど、雷の音もせず、明るいまま。
防犯用のセンサーライトか。
ちょっと驚い
【SS】ビール傘②/#毎週ショートショートnote
「昨日、ビールがさ」
通り過ぎる人の声が一部分だけ耳に止まった。
雨がぱらつく夕暮れ時。
傘にあたる水の飛沫の間に聞こえた、たぶんもう一度会っても分かりっこない通りすがりの人の声。
きっとあの人は昨日ビールを買うか飲むかしたのだろう。
ただそれだけとわかっていても、頭の中には「ビール傘」とインプット。
ビール傘……
いったいどんな傘だろう。
「雨傘」は雨を避けるもの。
「日傘」は日差し
【SS】ふりかえるとよみがえる②/#毎週ショートショートnote
「あれ?どうしたの?」
「別に」
その言い方も素振りも、確実に怒っている。
でも残念ながら心当たりがない。
ここで「いや怒ってるよね?どうしたの?」なんて聞いたら大変だ。
「なんでもない」とイラついた声のトーンが上がり、部屋の空気はずんと重くなること間違いなし。
さて、なんとか察しなくては。
あからさまにきょろきょろするのも感じ悪いので、目線だけであたりを伺う。
あ、あの隅っこ、埃溜まって
【SS】ふりかえるとよみがえる/#毎週ショートショートnote
私の後を、彼女は本当についてきているのだろうか。
ある時、黄泉の国に妻は連れ去られた。
私は狂ったように泣き、憔悴し、妻が戻ってくるのであれば、何でもすると、古今東西全ての神に祈りを捧げた。
気がつくと私は見渡す限りの闇の中にいて、どこからともなく声が響いた。
「お前が決して振り返らずに、真っ直ぐ帰れたら、よみがえるだろう。」
神話か何かで聞いたことがある。
本当にそんな奇跡があるという
【SS】サラダバス②/#毎週ショートショートnote
最近、彼女は“CicPoc“かなんとかで紹介されている美容法にハマり中。
「〜beauty food cosme〜食べられるもので、体の外からも綺麗になれる!」
また見てる。
彼女のスマホから聞こえてくるのは、明るいハイトーンボイス。
あまりに早口すぎて声だけ聞いてると、あの頭にバンダナ巻いた眼鏡でショートカットのあの愛好家みたいだな。
「今日はまず、オイル!サラダ油はダメ!オリーブオイルが
【SS】サラダバス/#毎週ショートショートnote
ああ、今日もダメだ。
小さなサラダボウルは、食品サンプルのように完璧なビジュアルで、そのままテーブルにある。
娘の夢生はサラダを食べてくれない。
「俺も生野菜嫌いやからなぁ」
夫ののんびりした声。背が高いがゆえに伝家の宝刀「お野菜食べないと大きくならないよ!」も全く歯が立たない。
おまけに夢生は保育園ではお残しせずに食べているらしい。まだ4歳だと言うのに、外面と本音を使い分ける術を覚えてい
【掌編】こんな日だからこそ食べるのだ “小さな口福”
「よし、やるか!」
台所に立ち、エプロンを締める。
テレビのコンセントを引っこ抜き、スマートフォンの通知も全てオフにする。仕事の連絡も今日は聞かなかったことにすればいい。
ふた昔前、お互いまだ小学生だったあの時は、よく意味もわからず、それでもいてもたってもいられなくなって、「コンビニ行ってくる!」と叫んで、財布も持たずに家の前まで自転車をぶっ飛ばした。
遅くなって家に帰って、こっぴどく親に怒ら
【SS】カミングアウトコンビニ/#毎週ショートショートnote
「なんでこんなことしたの?」
雑多なコンビニの事務所の無理やり広くした机の上に、品物が並ぶ。
机の向こう側に、生真面目な顔の少年が1人。
これらを手に持ち、鞄に詰め、レジも通らず外に出ようとしたところを、雇われ店長の僕が捕まえた。
いかのくんせい
次郎系ラーメン
綿棒
高菜むすび
スイカバーは溶けてしまうしすぐに戻さなきゃ
毛抜き
ティッシュ
なぜこんな脈絡なく、すぐにバレるものを。
少し俯