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2022年6月の記事一覧
【SS】涙鉛筆/#毎週ショートショートnote
ふと、本当に、ふと思い出したのだ。
あれは小学校の低学年の頃、よく隣に座った嫌な奴がいた。
髪がざっくばらんなことも、着ている物が子供っぽくないシンプルなTシャツにショートパンツなのも、文字ばかりの本をいつも小脇に抱えているのも、先生にあてられた時にすました顔して答え、そして先生に褒められてもにこりともせずにすましていることも、何もかもが気に食わない奴だった。
そんなある日、自分が先生にあて
【SS】ショートショート王様③/#毎週ショートショートnote
昔々、色んな王様がいました。
ある国の王様は背が低く、ある国の王様は小柄でした。
ある国の王様は無愛想で、ある国の王様は素気ない人でした。
ある王様の国は、歴史が短かく、ある国の王様には必要なものも、人も、何もかもが不足していました。
ある国の王様は、自分のお気に入りばかり大臣にしました。
ある国の王様は、自分のお城に人を集め、花を見たり、ご馳走を食べたりしました。
ある国の王様は、自分の国に
【SS】ショートショート王様②/#毎週ショートショートnote
「いつか作家になるんだ。」
君は目をキラキラさせながら言った。
実際、君がしてくれる話は面白かった。
ミステリー、コメディー、ラブロマンス、ホラー。
何でもござれと言わんばかりに、次から次へと、その口から語られる話。
きっと君は天才に違いない。
ある日、君がしてくれた話とよく似た話を、私は見かけた。
そう話すと、君は、ハッと表情を固くし、私と飲みかけのコーヒーを置いて帰ってしまった。
2、
【SS】ショートショート王様/#毎週ショートショートnote
ショートショート。
それは短い言葉で摩訶不思議な世界を紡ぐ究極の創作。
少なくとも俺はそう思っている。
ショートショートの帝王、ショートショート王様と言えば、もちろんあの先生。
憧れて、尊敬して、作品丸ごと暗記するくらい、何度も何度も読んでいる。
枕元にも、鞄の中にも、スマホの中だって、あの大々先生の物語でいっぱいだ。
いつかこんなふうになれたら。
というか、そろそろ創作の女神様、微笑んでく
【SS】動かないボーナス/#毎週ショートショートnote
もうどのくらい前になるだろう。
「それ」は体の割に大きな頭をもち、4本足で歩こうとすると前のめりに転びそうになっていた。
それがふと気の毒になった私は、ボーナスのつもりで私は「それ」に2本足で歩く力を与えた。
手を使えるようになった「それ」は、次第に道具を使うようになった。
様々な道具は、時に他のものを傷つけたが、生きとし生けるもの達が互いに影響し合う軋轢の中では、ある程度は仕方のないことで
【SS】消しゴム顔②/#毎週ショートショートnote
朝から最悪の日だった。
寝過ごして、乗り遅れ、次に乗った電車も人身事故で遅延し、結局大遅刻。その上、傘を忘れた。
朝イチからの大事な会議に遅れ、資料のコピーを間違えて、顰蹙を買う。
昼ご飯に入った店が嘘みたいにまずく、未だに胃もたれ。
外回りで犬の糞は踏むし、雨に降られるし、どこかで愛用のペンを紛失。
戻ってから書類に不備が見つかり、午後いっぱいその手直しに忙殺。
残業
【SS】消しゴム顔/#毎週ショートショートnote
数年前くらいからだろうか、気づいたことがある。
周りの人の顔が少しずつ薄れていくのだ。まるで消しゴムで消したように。
それはわりと顔全体からすれば一部分だけで例えば頬の辺りだけだったり、眉毛の端っこだったり、髪の生え際だったり、おっとこれは消しゴムのせいではないかもしれないが、とにかくそういう部分だけなので、声の調子や服装でなんとなくは誰だかわかるのだ。
それが、最近では、目の
【SS】君に贈るランキング②/#毎週ショートショートnote
その声が好きだ。
カタカナを読むのが苦手で、時々舌足らずになるところも。
その瞳が好きだ。
好きなものを見つけると、子供のようにキラキラ輝くところも。
その手が好きだ。
柔らかくて、優しくて、指輪が似合わないと嘆く節のない様も。
その髪が好きだ。
しっとりと柔らかく、思わず撫でたくなるところも、撫でたら喜んでくれるところも。
その笑顔が好きだ。
整った顔を臆面もなく、くしゃっと歪めるそのて