【SS】涙鉛筆/#毎週ショートショートnote
ふと、本当に、ふと思い出したのだ。
あれは小学校の低学年の頃、よく隣に座った嫌な奴がいた。
髪がざっくばらんなことも、着ている物が子供っぽくないシンプルなTシャツにショートパンツなのも、文字ばかりの本をいつも小脇に抱えているのも、先生にあてられた時にすました顔して答え、そして先生に褒められてもにこりともせずにすましていることも、何もかもが気に食わない奴だった。
そんなある日、自分が先生にあてられた。
答えられず、俯いた自分の横で、そいつはなにも言わず、口の端をちょっと上げた。
「なんで笑うんだよ」
そいつがなんと返したか覚えていない。
頭の中がカッと真っ白になった。
ドンッグニッブツリ
この手に残る感触。
そいつの頬に鉛筆が刺さり、自分の手の中には芯の折れた鉛筆があった。
その後、どうなったのかは覚えていない。
怒られたのか、謝ったのか。
もうそいつの名前も顔も覚えていない。
ただそれは青鉛筆で、その頬にささった色は、まるで一粒の涙のようだった。
(415字)
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