9個下の彼女に振られて失恋しました。
えー、タイトルの通りなのですが、失恋しました。
京都での七分咲きの花見に始まり、誰もいない雨の日のプールで終わった恋でした。
ブログを始めて今年で9年目なのですが、失恋について書くのは初めてで、そわそわしてとても気持ちが悪いですし、誰が読むんだと思うのですが、たまには自分の気持ちの整理のために書いてみます。
それなりに引きずっていたのですが、実体験をもとにシンガーソングライターが失恋ソングを作るように、ライターらしく失恋をネタにエッセイを書いてこの気持ちを成仏させたいと思います。
それでは破滅までの失恋エッセイの始まり始まり。
彼女は、Z世代では珍しいくらいテレビっ子でいつもドラマばかり見ていた。
そして、少々、言葉に弱かった。
付き合う前、僕は共通の話題を作りたくてすぐに彼女にオススメのドラマを聞いた。
「えっとですねー、今は『真犯人フラグ』っていう家族失踪もののサスペンスドラマが一番楽しみですかね。あ、『あなたの番です』ってドラマ見たことありますか?これと同じ人が脚本書いていて。え、知らないんですか!このドラマすっごく面白くて、"怪奇現象"になってたのに!!」
"社会現象"だ。
怪奇現象て、ドラマ流行りすぎてポルターガイストでも起きたん?聖地巡りしてたら心霊写真撮れちゃった?なに?
そして、何度か聞き間違えかなと流したのだが、間違いなく「Hulu」のことを「フーリュー」と呼んでいた。天然、ドジっ子、お茶目100%。今まで誰も指摘してくれなかったらしい。
僕は彼女の好きなものを好きになりたくて、NetflixとAmazonプライムとDisney+にはすでに入っていたものの、『真犯人フラグ』と『あなたの番です』を見るためだけにすぐに"フーリュー"にも加入した。
何の流れでかは忘れたが、ある都市伝説の話になり、「俺も好きな都市伝説があってさー、まぁ完全に嘘だと思うんだけど、大学生の頃にネットで知ってから忘れられない話があるんだ」とこんな話をした。
「フィギュアスケートの織田信成っているやん?織田信成が飲酒運転で捕まったとき、そこで取り締まった警官の名前がなんと"明智"だったらしいんよ!」
こう滔々と話すと、完全にぽかんとされた。驚くほどウケなかったのである。
これは「もしや!」と思い、聞いてみると、やはり織田信長が明智光秀にやられたことを知らなかったのだ。
彼女の世界では「本能寺の変」が起きていなかったのである。
おああああああ。おんなじくらい目を丸くした後、すぐに「その明智光秀ってね、"三日天下"って言われてるんだけど、じゃあこの三日天下って意味わかる?」と聞くと、
「三日で天下獲った!?」
早押しクイズかってくらい即答された。
惜しい!!!!!いや、惜しくない。
三日で天下獲れたら苦労しないぜ。
大笑いした。
それはまるでリアルヘキサゴンを見ているようで、ハーフぽい顔立ちから「○○のスザンヌ」と僕は呼んでいた。
農業高校出身で、日本史なんぞ勉強したことがなかったらしい。
「でも綺麗な花束の作り方なら知ってますよ」と言われた。
「誰よりも早く薔薇のトゲ捌いてたので」
「軍手はめてー、シュッてやると、ドゥラーって取れるんです」
お互い今まで付き合ったことのない人種。まったく違う生き方をしてきたのだと知る。
それがとても新鮮で楽しかった。
若さゆえに少々驚かされるところはあったが、しかし、それに余りあるくらい、
いつも笑顔で愛嬌があり、ネガティブな話や人の噂話は一切せず、気遣いができとても気が利き、誰にでも分け隔てなく優しく接し、仕事もできる、そしてすごく可愛らしい子だった。
初めてのデートはお互い好きなドラマであった『劇場版コンフィデンスマン』を見に映画館へ行き、カフェでご飯を食べた。
僕たちが注文したお酒には小さな白桃がたくさん入っていて、それ用に小さなスプーンが付いていた。
しかし、僕のスプーンは他の空いていたお皿の上に置いていたせいで、使う前に店員さんに持っていかれてしまった。
僕がその白桃をマドラーで取りにくそうにしていたら、すぐに察し、
「私の使いますか?」と小さく気遣った声で彼女は言った。と同時に、
「なんちゃって。い、嫌ですよね……」
とすごく照れながらすぐにスプーンを引っ込めた。僕が何かを言うのを蓋をするように。
この絶妙な距離感!!!!!!!
これを文章でうまく表現できていないのが本当にもどかしいのだけれども、もしかしたら小悪魔と思われた方もいるかもしれないがそんなことは一切ない、まごうことなき"完璧な間接キス未遂"だった。
私の使いますか?ってそのまますっとスプーンを渡されていたら、だめ。貞操観念ゆるゆるのビッチ認定。スリーアウト、チェンジ。
なぜだかお互い照れてしまい、しばらく目も合わせられなくなった。
それからしばらくしてデートを2回重ね、4回目のデートの日、桜を見に京都へ行った。
そこで彼女は初めて僕の前でタバコを吸った。どうやら探り探りだったらしい。
「森井さんってタバコ吸ったことありますか?ねぇ、ちょっとタバコ吸ってみてくださいよっ」
そう言うと、自分の吸っていたタバコをすっーと僕の口に添えた。
「あー違う違う、もっとこうやって煙を肺に入れるんです!」
僕の口にあるタバコを再びとって、また自分で吸ってみせた。
間接キス。完璧な未遂が既遂に変わる。
こんなにドキドキした間接キスは生まれて初めてだった。この世に完璧な間接キスって存在するんだなぁと思った。
この日の帰り道、無事に付き合うことになった。
お互い予定も合ったし、本当はあと1週間待てば京都で満開の桜が見られたのに、一日でも早く会いたくて、桜はどこも七分咲きだった。それでも二人でなら満開に見えた。
彼女とは、好きな服装の好みが180度違い、いつも僕の好みの清楚で可愛らしいものに合わせてもらっていた。
しかし、いつからだろう、彼女が可愛いと思うものが僕は可愛いとは思えず、また僕が良いと思うものが彼女は嫌いだということに気付いてからすれ違うことが増えていった。
一緒にショッピングへ行っても、「これいいんじゃない?」というものがことごとく違った。
「それはないわー」
「私はそうは思わないけど」
そういう会話が自然と増えていった。
ある日のデート終わり、「これ読んでみてよ」と『禁煙セラピー』という本を渡したらちゃんと嫌な顔をされた。
「私、別にタバコやめたいと思ってないから!!!」
けっこう強めに言われた。
「森井さんって自分の理想を押し付けるところあるよね」
あーやっちゃったな、と思った。
この本は出版業界ではけっこう有名な本で、これを読めば必ず禁煙できるらしく、僕は純粋にこの本の力を知りたくて、半分冗談のつもりで渡しただけだったのに。
つい最近まで満開で輝いていた世界が、あっという間に真っ暗闇の地の底にまで突き落とされる。
その時、僕たちの間で何かがジュッと消えて無くなる音が聞こえた気がした。
次のデートの予定はプールだった。その日の天気予報は降水確率90%。
もう最後だとわかっていたから、延期せずにどしゃ降りの中、二人でプールへ行った。
当たり前だが、お客さんはほとんど誰もいなく、貸し切り状態だった。
それはまるで僕たちのもう離れてしまった心理的距離を表しているようで、とても哀しかった。
本来なら1時間待ちの絶叫で有名なウォータースライダーに8回は乗った。
吊り橋効果なんて嘘だ。楽しいのか楽しくないのかよくわからなかった。ただただ寒かった。冷めた心にもう火は灯らなかった。
次付き合う人と結婚するつもりだったらしく、「素でいられない」「いつかいなくなっちゃう人なんだろうなと思ったら気持ちが冷めていった」と言われて、驚くほど呆気なく終わった。
一緒にいて楽しいだけじゃ一緒にい続ける理由にはならないんだなと思った。
京都での七分咲きの花見に始まり、誰もいない雨の日のプールで終わった儚い恋だった。
まるで拳銃でバンッと撃ち抜かれたかのように心にぽっかり大きな穴があいて、寂しさと後悔が襲ってきた。泣く、泣く。
次からは両想いという奇跡ってやつを忘れないでおこうと思った。
別れ話をした日、夜の河原で、
「もう、タバコ、吸ってもいいからね」
と僕は言った。
彼女は僕がタバコ嫌いなのをすぐに察したのか、付き合っている間、僕の前で一度もタバコを吸ったことがなかった。
彼女からはもう咲いたばかりの小さなお花みたいな笑顔は消えていて、作られた笑顔で「うん」とだけ頷いて、「私たち合わなかったね」と一言乾いた言葉が出るだけだった。
もう最後だからと、彼女のタバコを一口だけ吸わせてもらうと、京都でもらったときはあんなにも胸が踊ったのに、
今の僕にはそれがどうしようもないくらい受けつけられなくて、そこには茫漠とした距離が、埋めようのない隔たりがあるように感じ、本当に残念なことに、
彼女の好きなモノは、僕の嫌いなモノだった。
※追記(2022年12月27~31日)
この失恋をきっかけに「性の科学」シリーズを5本書きました。良かったらこちらもどうぞ!!
振られる前に読んでおけば何かが変わったんだろうなぁ……と思わされた恋愛本の名著↓↓
大学生の頃、初めて便箋7枚ものブログのファンレターをもらった時のことを今でもよく覚えています。自分の文章が誰かの世界を救ったのかととても嬉しかった。その原体験で今もやらせてもらっています。 "優しくて易しい社会科学"を目指して、感動しながら学べるものを作っていきたいです。