智慧という女(+18の方のみ読んでください)
「…髪の毛が子供らしい」
と言われた。こんな褒め方は初めてだけど、嬉しかった。
私は年末年始が苦手だ。年に最も憂鬱な時期である。家族との関係が乱れて、仕事もないから、アパートの屋内でボーっとして、寂しさに呑み込まれる。「さびしい」という岩が身体を潰そうとおもっているのか、重くて起きる、動く、食べる、なにのやる気も出てこない。
3年前、トラウマになった大晦日の事件についてはまだ書いてない。書く力がないから。その後、毎年12月になると思い出す。思い出すたびに、魂が細くなる。
でも、その前からもお正月は耐えれない悲しさが襲ってた。冬の寒さと心が折れそうな鬱がこの季節に寄ってくる。
今年は鬱と戦うことにした。2,3回はやったことあるけど風俗会社を電話した。苦肉の策だ。
電話を受けた方は中年の女性らしい声をしてる。今日中、空いている方の案内する。私は年上の女性を望む。
「智慧という方が本日います。40代で優しい方です。午後から参ります」
3時間を待つことになった。その時間は、単純な暇つぶし。アパートの掃除とバーガーを食った。そしてスマホをいじる。
寒さとさみしさの圧迫感を短い時間だけでも忘れようと思って、ここまで来た。肉体の貪欲もおさめる理由もある。性欲は低い方だけど、私だって血が流れている神ならぬ身の男だ。たまには、肉欲に応えなければ生きられない。
オーストラリアのことを遡る。一年、ニューイヤーズイブに一人っきりになったことがあった。バイトが入って、友達のお家に誘われたけど、忙しいから断った。お店の掃除して、終わったのは夜遅かった。帰り道のバスは独り。シェアハウスに戻ったら独り(ハウスメイトは他のパーティー参加した)。それでも平気だった。のんびりして、静寂を楽しむ。南半球では、12月は夏だ。夕暮れでもまだ暑苦しい。この古屋敷ではエアコンが効いてない。窓開けて、隣のソファでじっとしてると、風がときに吹いてくる。その涼しさ、最高だった。
ホテルルーム。智慧とベッドに座ってて喋ってる。ただ普通の日常的な話し。突然、会話が止まって智慧が唇を近づける。キスする。智慧の唇は柔らかい。私の口はタバコ、安いコーヒー、ミントの味がするのか。ベロを激しく動かして、自分の手が本能的に彼女のミミをやさしく掴む。
智慧は夫と子供二人いる。
でも、『週末結婚』で夫とはあまり顔合わさない。
この仕事は最近からで、年下の客は初めてで緊張しちゃう。
緊張しなくていいよ…
あなた、息子と歳が近い。
ああそう。息子、可愛いがってあげてね。
(笑う)
あなた、チャーミングだね。
そうでもないけど…
裸の肌がすりあって、興奮というか安心する。
背中と、
首筋と、
おっぱいと、
手のひらと、
この温もりはひさびさに感じるものだ。
智慧という女とこのホテルルーム、一時間の天国。
「…髪の毛が子供らしい」
笑っちゃった。
「そうなの?」
智慧はうなずいた。
「お客様だけど、気に入っちゃう」
2年前の自殺未遂のことを思い出した。精神病との闘いを思い出した。生きててよかったと。錯綜な現実に向き合ってても、少しだけは世間のことを忘れて、喜べることは大事なんだ。今年もがんばって、ときどきはこうやって遊ぼう。これが、さみしさの治癒かもしれない。
智慧はつぎのお客がある。早く着替えをしているあいだ、私は一休憩すると伝えた。疲れてた。
「仕事はいつから?」
「ああ。明後日だ」
「おつかれさま」
「さいきん、やる気が出なくてねぇ」
「がんばって」
「うん。ありがとう」
智慧の自然な笑顔に惹かれる。曲がった歯と煌めく瞳がステキ。いつも否定的なわたしに元気をすこし貸してくれる。
「もしよろしければ、もう一度頼んでね…」と言って、エレベーターへ向かって去った。
ルームでは、またひとり。ベッドに座ってタバコ2本吸った。テレビをつけて、なにかアメリカン映画を流して、一人でじっくり考えてた。何を考えてたかは覚えがないが、映画は無視して残りの時間を瞑ってすました。
明日から仕事だ。憂鬱の年末年始のおわり。やる気がぜんぜん浮かび上がらない。金稼いで、その分遊ぼうだけしかモチベーションにならない。昔みたいに、全身全力で働けることはムリかも。それで、病気になったんだもん。
でも、頑張ろう。智慧のためにも。
*イメージはインスタグラムのアーティストWendy(darkcat9967)から借りました。是非ともフォローしてください。
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*本名は使っていません