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ハサミ1本でラオス・ロンドン・スペインを渡り歩き 「フリーランス出張美容師×ライター」の生き方を見つけるまで
スペインで子育てをしながら、フリーランスで出張美容師とライターという異なる2つの働き方をしている日本人女性がいる。早川きえさんは北スペインカンタブリア州在住、スペイン人の夫と2人娘の4人家族。長年美容師として働き続けてきたきえさんが見つけた「出張美容師」とはどのような働き方なのか。フリーライターとしても働き始めた理由とは。きえさんの「場所にとらわれない」働き方に迫った。
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早川きえさん(写真提供:早川きえ)
美容院に直接電話をして就職を決める
オシャレがずっと好きだったことから美容師を志したきえさんは、高校3年生のとき、憧れていた大阪の美容院にいきなり電話をした。
「働きたいんですけど、どうやったら働けますか?」
面白い子だと思ってもらえたのか、採用となる。高校卒業後、働きながら通信の専門学校に通い美容師免許を取得。忙しい日々ながらも、海外への憧れを持ち続け、23歳のときに、働いていた美容院に頼み込んで休みをもらい、イギリスへ2週間行った。
「それまでは、海外へ憧れていたけど、どこか自分には遠い世界の話だと思っていました。でも、行けた。行って帰ってこれた。新しい扉が開いたと思って、アドレナリンがすごくたくさん出るのを感じました」
どこかまた海外へ行きたい!といてもたってもいられなくなった。好きだった作家、たかのてるこさんの旅エッセイの中に「ラオス」の言葉を見かけた。どうせなら、周りの人があまり行ったことのないような場所が良い。タイやカンボジアなどに比べて、あまり知られていない。バックパックを背負って「ラオス」へと旅立った。
道端で髪を切る!?
「せっかくラオスに行ったんだから、何かしたいなと思ったんです。私にできるのは髪を切ることだけ。はじめはホテルにいた人たちの髪を切っていたら、あれよあれよと友達や知人へと広がって、道端で髪を切ることもありました」
こうしてラオスで友人が増え、何度も通った。行くたびに髪を切っていた。すると、ラオスで女性の自立支援活動を行う日本のNGO団体の担当者から「美容師の専門家を探している」と声をかけられたのだ。こうして、ラオスの専門学校で、ヘアカットの技術を教えるようになった。
このとき、きえさんの本業は大阪の美容院でのサロンワーク。日本とラオスを行き来する日々が始まった。
「ラオスでの講師業も、日本でのサロンワークも、どちらも楽しかったですよ!大変だったのは言葉の壁。はじめは通訳の方をつけてもらっていたんですが、美容師の専門用語は、通訳の方がいてもなかなか難しくて」
そこで、ラオス語を学ぶべく、拠点を東京へ移した。ラオス語を学べる場所が当時東京にしかなかったためだ。年に2~3回ラオスへ通い、東京でサロンワークをし、さらに語学の勉強をする。目まぐるしい日々を数年過ごした。
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ラオスの道端で髪を切っていた(写真提供:早川きえ)
憧れのイギリスへ
きえさんが初めて行った海外がイギリスであったように、もともとはイギリスへ強い憧れを抱いていた。28歳のとき、ロンドンにある、元ヴィダルサスーンの方が独立し立ち上げたサロンへの就職が決まる。
「イギリスのサロンだと、年に1か月ほどホリデーがあるんです。この期間があれば、ラオスに行けるな!と思って。イギリスへ行ってからも、ラオスでの講師業も続けていました」
やりたいことは諦めない。美容師としてのサロンワークと、ラオスでの講師業。異なる仕事のようで、どちらも幼いころからのきえさんの好きなことと繋がっていた。
オシャレが好きな子ども時代で、勉強は好きではなかったが地図を見るのが大好きだった。学校でも他の教科の授業中にこっそり地図帳を眺めるほどで、地図を眺めて海外への憧れを募らせた。保健室でもらう赤十字のパンフレットを眺めるのも好きだったと言う。
「自分では行き当たりばったりの行動だなと思っていたけど、振り返るとどこか繋がっているのかもしれませんね」
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ロンドンのお店で日本人美容師としてデモンストレーションしているきえさん(写真提供:早川きえ)
美容師としてどこを目指すのか
ロンドンで2年間働く間に、スペイン人の男性(ご主人)と出会った。結婚を意識し始めた頃、自分自身の将来や価値観に向き合った。ロンドンのサロンでは、パリコレなど大舞台への憧れを持つ同僚や、独立を考える同僚が多い。今ではその夢を叶えている友人も多くいる。
「私は、サロンでお客様と会話をしながら髪を切るのが好きで、さらに上を目指そう、お店を持ちたい、とまでは思えなかったんです。『子どもを産んで、のんびり過ごしたい』という自分の気持ちに気づきました」
結婚を機にスペインへ移住した。美容院で働きながら、たまに友人の髪を切りに行っていた。すると、「うちにも来て」と次々と声がかかった。「ひょっとしたら、サロンで働かなくても美容師としてやっていけるかも?」との思いが頭をよぎる。
出張美容師として歩き始める
とはいえ、15年間美容院で働いてきた。自分の身一つでやっていけるのだろうか。ちょうどその頃、2人目のお子さんの産休に入るタイミングだった。「仕事はしたいけど、子どもとの時間もほしい」葛藤しながら、自分なりの道を探す。
『美容院に髪を切りに行ってるんじゃない。あなたに髪を切ってほしくて行ってるの。』
とあるお客さんの髪をカットしていたときに言われた言葉に、背中を押された。産後は育児手当もしばらく出る。出張美容師として独立してやってみよう。うまくいかなかったらまたその時考えればいい。
HPを作ろうと思いながらも必要のないほど、口コミでお客さんが増えていった。出張美容師という働き方は、『誰かの特別な瞬間に携われる仕事』だときえさんは話す。サロンワークが好きでプレイヤーでありたく、人と深くかかわるのが好きなきえさんには天職だと思えた。
「病気で先が長くない友人の髪を切りに通っていた時期がありました。病気の方にも、おしゃれをあきらめてほしくないなと思って。このときにウィッグをカットしたり、抗がん剤の副作用で短くなった髪をどう扱えば良いのかなど、友人とたくさん話しながら一緒に考えました」
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きえさんが暮らすスペインカンタブリアの景色(写真提供:早川きえ)
「ライターと美容師は似ている」
これまで、美容師として学びと実践を繰り返しながら走り続けてきた。何かもう一つ収入の柱がほしいと思っていたころ、偶然、ライターの働き方を知った。
「初めはクラウドソーシングで活動を始めました。日々書きながら、学ぶ。続けているうちに、ライターは美容師と同じ、技術職だなと感じるようになりました。どちらも学ぶのが楽しくて、私の肌に合っていたんです」
SEO記事を中心に執筆するなか、ライターとしての幅を広げたいと感じ始めていたころ、ライター向けのコンサルを行う中村洋太さんに出会う。「書きたいものを書いて良い」と背中を押され、インタビュー記事や自分の体験談の執筆を始めた。
「ライターは奥が深く、まだまだ自信が持てません。美容師としてならハサミを持つのも、人前に立つのも平気なのに、ライターとして記事を送付するときは手が震えるんです」
きえさんの生き生きとした文章からは、緊張しているとはとても思えない。ライターとして初めて書いたインタビュー記事は、note編集部のおすすめに選ばれ、メディアの目に留まり寄稿。感想が多く寄せられた。きえさんの人を見る目や切り取る技術は、長年の美容師で身につけた確かなものだ。
「私も夫も、旅や移住をドンドンしたいと考えているタイプ。次はどこへ行こうかな?とよく話しているんです。フリーランスの美容師とライター。この2つの仕事を磨き、どこにいても仕事ができる自分でありたい。数年後には日本の家族も呼んで、みんなでニュージーランドを1周するのが、今の夢です」
人とのつながりで、ラオスでの講師業や国を超えた転職、出張美容師と次々に新しい働き方に巡りあってきたきえさん。「英語が話せないから海外は行けない」「お母さんだから仕事をセーブしなきゃ」そういったものにとらわれずに、軽やかに道を切り拓いているきえさんの姿に、大きな勇気をもらった。
インタビュー・構成・執筆:片岡由衣
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