03 : 祭りのあとはサマーヌード
※クリックして曲をBGMとして流しながら読んでみてください♪
※曲はすべてお借りしています。
----------
もう、好きになっていた。
打ち上げられた花火がヒューと細く音を立てて、黒い空を高く登っていく。
高く高く、数秒かけて登った先で
ドーンと大きく花開いた。
花が開いた瞬間は強い光を放ち、となりにいる彼を明るく照らす。5秒に一度のペースで顔が映る。
キラキラとした瞳で見上げているその顔は
かわいい、と思わざるを得ない。
夏休みは長い。
学校がないので入れるだけバイトに入っていた。
バイト先は駅前の居酒屋さんで、とても居心地がよく働くことが楽しく、楽しい上に稼げるなんて一石二鳥の場所だった。
夏休みは近くで花火大会が行われる。
花火大会は一気に人が押し寄せるため、店も稼ぎ時だ。店内はもちろん混むのだが、花火大会会場に焼き鳥の屋台も出していたのでいつも以上に人手が必要だった。
「誰か屋台出れる人いるー?」と店長に聞かれたので「はーい。わたし出れますー。」と手を挙げた。花火が近くで見れる、ラッキー♪くらいに思っていたのだが、残り2人の屋台メンバーに彼が入ったことを聞きつけた。
あれ。一緒か。ラッキー♪
同じ歳の彼は某アイドルによく似た顔をしており、発言も行動もとても穏やかな人だった。
一目惚れ、というほどではないけれど
一瞬で興味をもっていた。
なんだかかわいい人がいる。
同じ歳は他に何人かいたけれど、わたしと彼は徐々に、本当に徐々に仲良くなっていった。
お互いに人見知りだったので3ヶ月はかかったはずだ。
古着が好きで音楽が好き。
彼は一番好きな曲を教えてくれた。好みが合いそうだと思った。
屋台の準備は荷物運びから。
店長はあとから来るため3人で台車を押し
屋台用のおそろいのTシャツをはためかせ
重い、重いと言いながらまだまだ明るい空の下、ぬるい風とともに会場へ向かう。
文字通りのお祭り感は、はしゃいで浮足立った心でどんなパワーでも出せそうなほど。汗をかきながらたっぷりと働く。
多少の疲れなんて気にならないほど、一緒に居られることがうれしかった。
焼き鳥を売り、ビールを売り、花火の時間が近づいていた。
ヒューーー。。。。
ドーン
最初の花火が上がり、その場にいた全員が空を見上げ、まるで一時停止ボタンを押されたかのようだった。
花火の音が体中に響き、ビリビリする。
その数秒後には焼き鳥売りを再開し、一瞬止まったのは幻だったのかもしれないと思うほど、花火どころではなくなってしまった。早く見たくてうずうずしていたので、お客さん途切れないかなと不謹慎にも思ってしまう。再生ボタン、押さなくても良かったのに。
花火大会も中盤に差し掛かったところでやっと誰も来なくなり
わたしたちは一息ついて空を見上げた。
視界いっぱいに広がる大輪の花。
こんなに至近距離で花火を見たのは初めてだ。
心臓に突き刺さるように響く花火の音はきっと、となりの彼に向けられたドキドキと混ざっていただろう。
彼は穏やかな口調なのにわたしはずっと落ち着かなくて、花火の大きな音であまり多くを話せなかった。チラチラと見た彼の顔からいつもの柔らかい笑顔よりもちょっとだけ高揚を感じて、それは幼い少年のようだった。
もう、わたしは好きになっていたのだ。
ようやく認めたという方が正しいか。
大輪の花火に感化されて気持ちを伝えたくなってしまったが、告白なんてできるのかな。
企んだ顔は気づかれているだろうか。
ドキドキしていたらあっという間に花火大会が終わってしまい、後片付けをした。
そこには燃え尽きてからっぽとなった高揚感の残り火と、大きな仕事を終えた充実感が漂っている。
まさに、祭りのあと。
すると店長が言った。
「〇〇(彼)。Yuuu、送ってやって。」
もう一人の子は自分の荷物を持ってもらうから、と言って、店長はわたしたち2人を先に店へ返した。
突然やってきた2人だけの時間だった。
企みは実行できなかったものの、
その日わたしたちはただのバイト仲間ではなくなった。
それはMDに好きなうたを詰め込んでプレゼントするのが流行っていた時代。
その後、彼からたくさんのMDを貰った。
わたしの好きな彼の味のある字は、彼の大切な作品だと言わんばかりに、一つ一つ丁寧に曲の名前を記す。
もちろん彼が一番好きと言っていたこの曲も。
これは誰のことでもない、彼のことしか思い出さない曲。
♪「サマーヌード / 真心ブラザーズ」
よかったらこちらも。
音楽好きなわたしのマガジンです📖♪♫
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?