01 : 我らの夏は長く短い
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「誰も恋愛感情とかないのがラクでいいよね」
わたしたちはよく遊んだ。
それぞれが社会人になってからもその関係性はあまり変わらず、休みの日には遊びに繰り出した。
朝から車に乗り込み、窓を開けて風を浴びながらの行き先は、未定。
ひたすら海沿いを走り、カニを食べに行く歌だとか、波乗りが片想いする歌だとかを聞きながら
思いつきでサービスエリアに下車をした、我らの夏。
サービスエリアの奥には海が見えた。
すぐさま砂浜に降りる。
「海に入ろう」
誰かが言った。
誰だったかな、わたしだったかもしれない。
靴を脱ぎ、サンダルを脱ぎ
足首までを浅瀬でチャプチャプ浸かりながらはしゃぐ、少し大人になったわたしたち。
服装もすっかり変わった気がする。
固定グループというわけではないのでたまにメンバーは増えたり減ったりするが
基本的に6人、仲がよく男女比は半々。
男女グループにも関わらず恋愛の“れ”の字もないような、
「誰がいちばんに結婚するかな」
「いや、絶対俺でしょ」
とお互いを茶化すような。
とても気楽な関係性。
恋愛のイザコザのないグループの心地よさといったらない。
チャプチャプがギャーギャーに代わる。
ちょっと、濡れるー
やめてー
笑いすぎておなかを抱えたわたしは海から出て、少し離れた場所で携帯電話を取り出した。
こういうのってきっと、どんなに大人になってもずっと覚えているのだろうな。
でも、覚えているのだろうけど
このいかにもな「青春」を形に残しておきたくなった。忘るまじ、我らの夏を。
カシャッ。
フフッ、みんないい顔してるわ。あとで送ろう。
「あー!Yuuuちゃん写真撮ってる!」
気がついた子が撮影係を代わってくれた。
「もう、みんなで撮ろうよ!」
いい顔たちが笑って何か言っている。
ほんと、みんないい奴。
社会人も何年か経つとそれぞれの仕事が忙しくなってしまった。
転勤する人、転職する人、出張ばかりの人。
なかなか全員で会うこともままならず、
ある日勤務地が一番近かった一人と飲みに行った。
とはいえ彼はお酒が飲めないので、飲んだのはわたしだけなのだが。
少し酔ったところで過去の思い出話をする。
あれやこれやと思い出したあと
「今だから言えることってある?」という話になった。
彼は少し迷ったのち、実は、、、と話し始めた。
そっか。
そうかぁ。
あの子は、この彼のことが好きだったのだ。
みんなで遊んでいるときは想いを秘めていて
みんなで仲が良かったからきっと誰にも言えなくて
彼本人にだけ想いを打ち明けたようだった。
全然、知らなかった。
「誰も恋愛感情とかないのがラクでいいよね」
だなんて。
そんなことは全然なくて。
きっと一人で想い、どうするべきか考えていたのだろう。
恋が実らなくても誰にも気づかれないくらい普通に接していて、彼いわく
「それは、あの子が気まずくならないよう努力してくれたから」だった。
本当にそうだ。
なんだかとても切なく、無理をさせてしまったことに申し訳なく思ったけれど
わたしが彼女と同じ立ち場でもきっとそうしたと思うから。
わたしに出来ることは、このまま知らないフリをするだけだった。
男女の友情に永遠なんてないのかもしれない。
永遠なんて素気ないか。
大丈夫。
まだまだ女盛り、このままじゃ終われない。
わたしはその後の彼女を応援するのみだと思いなおした。
若さはあつちう間なのだ。
この若き日が彼女にとって良き思い出になるよう願った。
逃すまじ、我らの夏を。
♪「長く短い祭 / 椎名林檎」
#夏の定番曲
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