【七枚目】Pink Floyd「A Momentary Lapse of Reason」
プログレッシヴ・ロックの代表的存在、世界でもっとも売れたアルバム(の一つ)という記録、ロジャー・ウォーターズの圧倒的なこだわり、それによる超大作主義……
今回はこれ、行っちゃいましょう!
1987年に発売された、ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモア期における最初の作品『A Momentary Lapse of Reason(日本語訳:鬱)』でございます。
わたしが愛してやまないプログレの中で、ピンク・フロイドはとくに好きなバンド。一番聴かれているプログレなんですけども、やっぱりここに戻っちゃうんですよね。Yuka & Chronoshipとか、キング・クリムゾンとか、ゴングとか、四人囃子とか、他にも好きな人たちはいっぱいいるんですけども……
アルバム紹介
まずは、一言。「めちゃくちゃ聴きやすくなりましたね!」
直近作『The Wall』や『The Final Cut』に比べると、すごく馴染みやすくなりました。ロジャー・ウォーターズ期のピンク・フロイドって、はっきり言って理解に苦しむ曲も多かったわけですよ。「ちゃんとがっつり聴くぞ!」という気持ちで臨まないと、楽曲の波に飲まれてしまう。
シンセサイザーを前面に出した80年代らしいサウンドも出てくるのですけど、基本は70年代から続くピンク・フロイドの音をより人懐っこくした感じですね。テクニカルな面はそのままに、届きやすくなった。
プログレとしての完成度は他のアルバムに劣ると評価する方がいらっしゃるかもしれませんが、商業作品としての完成度はピンク・フロイドの全アルバムの中でもトップクラスだと思います。(『狂気』は組曲形式になっているので大作扱いされがちですが、一曲一曲は比較的コンパクトなんですけどね……)
おすすめは「Learning to Fly」です。単純に最近の好みに近い音だということなんですが。……って、これではダメですよね。
先述したように、ピンク・フロイドとしては異様に人懐っこいと思うんですよ。この曲も、楽曲サイズは5分弱。間奏はかなり凝っていますし、ギターソロもソロといえないほどの短いフレーズなのですが、結構カッコいい。アウトロはきちんとソロを弾いていて、さすがギルモアというメロディアスなフレーズ。
ドライブで聴いても気落ちしないって、このバンドでは少し珍しい。その象徴的作品という意味合いで、聴いてほしいです。
そういえば、ストーム・ソーガソン(ヒプノシス)のアートワークも秀逸ですよね。海岸にベッドを大量に並べているのですが、このベッドがまた面白い選択。ベッドというと様々なビジュアルが浮かんできますよね。夢、悪夢、恋、孤独感などなど。多様なイメージを思い浮かばせる、ピンク・フロイドの作品にヒプノシスのジャケットは欠かせません。
まあ、当然といえば当然ですが、ロジャー・ウォーターズはこのアルバムをあまり評価していません。そりゃそうでしょう、ピンク・フロイドの路線を築き上げてきたのは彼なのですから。複雑な想いがあったはずです。シド・バレットは偉大なフロントマンでした。しかし、シドの時代は人に届きやすかったかというと、そうとはいえない音楽でした。サイケデリックで、初聴時の印象は正直あまりピンと来ませんでした。デヴィッド・ボウイやマーク・ボランが猛烈に影響を受けていると公言していて、決して届かなかったわけではないんですが。
ごめんなさい、脱線しました。なんだかんだ言って、わたしはロジャー・ウォーターズ時代の作品をよく聴いています。しかし、好きなサウンドはデヴィッド・ギルモア時代のピンク・フロイド。音のバランスが良く、バンドとして聴きやすい。つまり、『鬱』が音的にはいちばん好きなのです。
だから、『炎 〜あなたがここにいてほしい』を再現したセクションが収録されているライブアルバム『P.U.L.S.E』は名盤だと感じるんでしょうね。彼のソロ、メンバーそれぞれのテクニシャンぷり、ぜひ聴いてほしいな。
『THE WALL』のツアーは映像で観てください。映画版でも大丈夫。舞台芸術として、めっちゃ面白いです。あと、またまた余談ですが、ニック・メイスンはTop Gearに度々登場しました。それも面白いです(笑)。
エッセイ『MR80's』第7回
坂岡 優
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