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私が心配していること。

 先月からこちらでも何度か取り上げている、大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻の問題。私は「部外者だから首を突っ込むまい……」と状況を正確に把握することに努めていたのですが、このままでは学生や保護者の方々にとって不幸な結末になりかねない状況に来ていますので、私なりに現在心配していることをいくつか挙げていきたいと思います。

 大阪音楽大学に籍を置く私はある種の当事者で、とても心配な話ですし、芸術系の大学や文化行政、教育機関に携わる方にもぜひ知っていただきたい話です。

 今回の問題に対して、まず外から見える範囲で事実関係を整理してみると、以下のようになります。(詳細は当事者である山口哲一さんや脇田敬さんの発信をご参考ください。)

0.今回の問題の経緯について

1.専攻の立ち上げ
 2020年に「私は音楽に就職します」のキャッチコピーのもとに、最新の音楽ビジネスやメディアスキル、音楽大学ならではの高度な知見が学べる専攻としてミュージックビジネス専攻の立ち上げが発表されました。

2.過去最多の学生が集まりスタートダッシュに成功
 専攻の公式発表によると、46名の学生が集まりました。大阪府や兵庫県といった近畿地方からの学生のみならず、全国から多くの学生を呼び込むことに成功したようです。

3.2022年12月に教授、特任教授に契約終了の通知が郵送される
 2022年12月某日。山口さん、脇田さんの自宅に大阪音楽大学側より「本年度をもって契約終了とする」という通知が郵送されました。山口さんの記事によると、大阪音楽大学では「教育主任」と呼ばれる役職の人物が非常に大きな権限(専攻に対しての決定権、人事権など)を持っているそうです。本人がその人物や大学側に説明を求めたものの、辻褄の合う説明はありませんでした。

 ※ 通常、大学の新専攻設立で“一期生”が卒業するまでは中心人物の人事異動が行われることは滅多になく、設立初年度でほとんどの人物が大学を去るケースは聞いたことがありません。

4.山口さん、脇田さんが外部に向けて情報発信を行う
新設専攻で人事の変化やカリキュラムの大幅な見直しが行われる場合、学生は当然ですが、保護者の皆様や関心を寄せている外部の方に向けて、なんらかの声明を出すことが求められます。広報物や説明会で聞いた内容と実際の内容が異なると大学で学ぶ意義が変わってきますので、それらの内容を踏まえて、関係者やこれから大学へ入学する学生、保護者の方が適切な判断をするためです。

 しかしながら、大学側は現在(2023年3月14日)に至るまで、本件については一切の声明を出していません。私が見たところによると、本件に関しての説明を求める投稿に紐づけられた@マーク(手紙でいう宛先)を消すような操作を専攻側の公式アカウントは行なっており、「すでに決定されたこと」「結論づいた出来事」として今後の運用をする予定と見られます。

 本来、当事者は当然のことながら第三者ではありませんから、その主張には主観や視点の相違も含まれているので、内部情報に対しての発信は一定の疑問を持って見なければいけません。ただし、本件に関しては大学側が発信や声明を出しておらず、問題解決への姿勢を一切表明していないので、事情が特殊です。そのため、内部告発のような形で山口さんと脇田さんが自ら発信を行わざるを得ない状態であり、今後の対応や法的措置への進展も含めて、ご本人がウェブで声明を出した、保護者を含めた外部へ説明を行なったということです。

5.本年度のカリキュラムを踏襲した形で次々年度学生の募集を行う
 前項が長くなりましたが、これらの状況が発生した後も、本年度のカリキュラムを踏襲した広報物のもと、専攻は学生募集の広報を行なっています。

 たとえば、きゃりーぱみゅぱみゅ、いきものがかり、nana、エイベックス、ソニー・ミュージックの上級役員など、音楽シーンの最前線で活躍する方々と実際にお会いして講義を受けられる点も強みとして打ち出されています。

 しかし、彼らの多くは本年度限りで大学を去られることを表明しており、ここで綴られている多くは実現が難しい状況となりました。

 (訂正:一部、ご指摘をいただいた部分を書きあらためております。ご了承ください。)

6.学生たちに大学公式でない情報が広まる
 そして、この問題が明るみになるにつれて、ミュージックビジネス専攻外の学生にも問題が伝わり始めました。現状、社会的関心を得られるまでには至っていませんが、徐々に認知度が高まりつつあります。先述のように、当事者である学生や保護者に対しての説明はありませんし、他専攻の学生は内部事情を知る由もありませんので、山口さんや脇田さんの発信を信じるしかない状態です。学生の中には、大学側や直接の説明ができない状況に不信感や憤りを抱く方もいるようです。

 ※ 山口さんはミュージックビジネス専攻の発起人であり、カリキュラムをつくり、ほとんどの人材を大学側に紹介した人物です。そのため、発信には多くの感情が内含されますし、実際、感情的な部分も見受けられます。ただ、今回の事象、特にその後の対応は未着手といってもいい状況で、特に当事者が冷静に語るのは非常に困難であることを踏まえるべきだと思います。

7.大学側が公式のプレスリリースを出す(2023年3月24日付)
 2023年3月26日のオープンキャンパスの直前。3月24日までの間に大阪音楽大学側はミュージックビジネス専攻公式サイトの教員紹介や今年度限りで退職される客員教授たちが携わっていたプロジェクトに関する記述が削除されました。(2023年3月15日に新年度に関するプレスリリースが公表されています)

 それと時をほぼ同じくして、公式サイトに声明が発表されました。

 大学経営陣、現・ミュージックビジネス専攻運営陣の立場から、事の顛末について記述されたものです。主に当該教員に対しての大学側の見解、今後の展開・対応について綴られており、ずっと静観の立場を取っていたことを踏まえると、画期的な声明といえます。

8.読売新聞・朝日新聞にて初めてメディア報道が為される
 2023年3月30日15時。読売新聞オンラインにて、初のメディア報道が行われました。大学側、当事者側の各視点より客観的に纏められたものです。なお、当該記事では著書『音大崩壊 ~音楽教育を救うたった2つのアプローチ~』が話題を呼んだ名古屋芸術大学教授の大内孝夫さんがコメントを寄せています。

 さらに、20時付で朝日新聞デジタルにも同様の記事が掲載されており、双方の立場からの記載が為されました。

 早速各方面より反応が寄せられており、大学側の今後の対応が注目されています。

9.再度、大学側がプレスリリースを出す
 2023年3月31日、大学側が再度公式サイトにて声明を発表しました。改めて、大学側の立場を確認しつつ、今後の対応を説明したものでした。

 しかしながら、大学に対して寄せられている不安や懸念の声、ニュースサイトにて寄せられた疑問、当事者からの告発に答える内容とはなっておらず、さらなる対応が望まれます。

 学生の立場でお伝えできる事実、知りうる事実を簡単にまとめると、このような進展となっております。

 ここからは、私が個人的に心配していることを綴ってみます。

1.学生と保護者が置き去りになっていること

 今回の問題でもっとも深刻なのは、学生と保護者の不在です。学生や保護者に大学側が正確に知らせないまま、当事者の説明のみを信じるしかない状況です。さらに踏み込むと、一部の当事者のみが問題を発信していて、それに対しての説明や反論が行われていない状態です。

 大学という教育機関は保護者の方々からの支援がないと成り立たない場所です。さらに、私立大学とはいえ、国家や自治体から少なくない税金が投入されていますので、何かあった時は事実関係に基づいた説明が行われることが必須です。保護者に知らされず、一部の関係者のみが知っている問題は存在してはなりません。もし、大学説明会やオープンキャンバス等で現在のカリキュラムを保護者に伝えているとしたら、それは実態と異なるものと言わざるを得ないでしょう。

 個別の説明を行なっている可能性はありますが、法的措置にも繋がっている重大な事象ですので、やはり対外的になんらかの声明を出すべきですし、きちんとした説明を行うことが教育機関としての責任だと考えています。

2.在学生が知らないこと

 2020年にミュージックビジネス専攻が立ち上げられる際、大阪音楽大学の学生間でも話題となりました。しかしながら、日々大学関連のSNSを覗いているような人や、関係者と繋がりのある人でないと、実際のところは知り得ないものです。

 ただ、大学としては、SNSや外部広報で順調ぶりをアピールしていて、私もそのように感じていました。1月のリアルイベントは成功といっていいものでしたし、それ以外の取り組みも少なくとも大きな失敗はしていないようには思えます。(学生が知り得る範囲での話です)

 とはいえ、このようなことが起きると学生の間でも不安が高まります。特に、私の所属するミュージックコミュニケーション専攻はミュージックビジネス専攻と重なる部分もありますし、山口さんが特別講義で一度お越しくださったこともありますから、まったくの他人ではないのです。さらに、2024年度から「地域創生ミュージックマネジメント専攻」に改称されるタイミングで、大学側の不誠実さや心配を招く行動が取り沙汰されている現状は学生募集においてもネガティヴな要素になりうるでしょう。

 大学側には、情報公開や説明の重要性に気付いていただきたいと思います。

3.何より、学生に心配をかけないで

 対外的なこと、関係者への対応、問題に対しての認識の不味さなど、私の立場では抱えきれないほどの問題点は置いておいて、大学側に今すぐにでも行っていただきたいのは、「当事者であるミュージックビジネス専攻の学生を不安にさせないでほしい」ということです。この一点に尽きます。

 大学は高校までのように基礎を学ぶことに特化した場所ではなく、その先を見据えた研究を始めるための場所です。さまざまな教員に出逢ったり、知らないことを突き詰めたり、楽しいことに夢中になったり、時間に追われたり、新しいことを始めたり、今しか時間が取れないことに集中できる場です。社会人になると仕事になりますから、これほど好きなことに夢中になれる場は最後かもしれません。

 人生において、そういったことを学ぶのはもっとも大切なことと言えます。でないと、仕事や課題に追われて、逃げ道を失ってしまいます。

 そういった時期に、大人たちの不誠実な対応や理不尽さ、無視によって学生に心配をかけることは金輪際やめていただきたいのです。

 なにも、ミュージックビジネス専攻の問題に限った話ではありません。個人的には、コロナ禍における対応(ウェブ対応費の支給に対しての説明や某T社製のPCR検査キットの配布)、ソーシャルメディアや動画を専門的に教えられる人材の不足、「関西唯一の音楽単科大学」や「100年を越える伝統校」以外のセールスポイントが乏しいこと等、在学中に向き合ってほしかった課題はたくさんあります。

 そんなことはもういいです。今は目の前の課題に集中してほしいです。

 あなた方は学生ではありませんし、声が届かない存在ではありません。よき大人として、ひとりの人間として、せめて学生が納得できるような道筋をつけていただきたいと思います。

最後に:この問題をきっかけにして

 今回の問題は、当事者である学生が捉えている以上に、深刻に受け止めなければならない問題だと私は考えています。大人たちの対応のまずさ、決定に対しての学生不在など、議論されるべき問題は山積していますが、特に学生たちの今後が心配です。

 特に、ミュージックビジネス専攻の学生は全員が一年生で、専門分野が他の学生とは異なる部分も多いので、他の専攻の学生のフォローアップが難しい状況。大人たちのつけた道が良いものであるかどうかの経験や判断基準がなく、学生なのに自らで決めなければいけない。社会に出るとそれが当然ですが、学生の間はきちんとフォローする必要があります。

 大阪音楽大学の学生や教員の方、保護者の方はもちろんですが、他の大学の方、大人の方で、もし少しでも関心を寄せてくださる方がいましたら、ぜひ学生のことを支えていただきたいです。

 私も可能な範囲で不安や疑問を取り除くためのお手伝いができたらと思います。この春で大学を卒業しますが、今後も多少は役に立てるかもしれません。

 拙文を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

3月27日の追記:母校の可能性をまだ信じていたい

 2023年3月24日、私は大阪音楽大学を卒業しました。

 今回の問題はすべての単位を取り終えた後に知ったことで、どう考えても辻褄の合わない状況に驚いたのを記憶しています。その後、専攻から離れることになった当事者の発信は行われましたが、3月24日に至るまで、大学側は一切の声明を出しませんでした。

 ようやくのことで声明が出されましたが、意図的にぼかされている内容も多く、学生の立場では知り得ないところ、アクセスできない部分への記述も為されていることから、私が何かコメントを出したり、アクションを出したりということは特にいたしません。

 ただ、ひとつだけ確かなのは、大学側に「公共としての大学、社会の一員としての大学」という視点を持っていただきたいという願いです。より柔らかい表現をすると、適切な情報公開と発信を行い、仮に事実と相違があるのであればきちんと反論すべきだと考えます。

 いち学生として、ある一方の側面からしか物事を知り得ない、しかも大学側が無言を貫いているというのは、特に他の専攻から問題を俯瞰している学生に不信感を与えます。そして、当該の専攻やプロジェクトに興味を持った社会、企業、人に対しても不誠実ですし、何よりもそこに期待してお子さんを送り出した保護者の方、この専攻に人生を賭ける覚悟でやってきた学生たちのことをまずは第一に見つめてほしいです。

 こういったことが二度と起こらないように、起こってしまった不祥事に対して、きちんとした情報発信が行われることが当たり前になるように。

 大学は即戦力を育てる場ではなく、50年後も生き残れる人材を育てるための基礎をつくる場です。音楽的な素養だけではなく、人間育成もひとつの役割です。そうした場だからこそ、大学の運営側には適切な対応を取っていただきたいと願っています。

 もし、そういった部分が成し遂げられるのであれば、未来は暗くない。明るい。卒業生のひとりとして、母校の可能性をまだ信じていたいのです。

【参考資料】
大阪音楽大学 ミュージックビジネス専攻 公式サイトhttps://www.daion.ac.jp/mb/

山口哲一さん 公式note

脇田敬さん オフィシャルブログより

 2023.3.14
 坂岡 優


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