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AとBのハナシ

「自然に近づく」

大学時代の仲の良かった旧友に久々に会い、2人で自宅で飲んでる。

メインの登場人物
①A・・この物語の主人公、大手の企業に勤め、安定な生活を送っており、妻、子供がいる30代の男。
②B・・Aの友人で、フリーランスに働きながら、ある程度、時間とお金に余裕のある独身の30代男性。

久々に大学の旧友のAとBが、Bの家で呑んでいるところ。

A「なんか、Bと呑むのだいぶ久しぶりだなー!」

B「Aは、転勤ばっかだから、東京に全然いなかったもんな。やっと東京に戻ってきたってことはちょっとは出世できたってことか?」

A「まあ、そんなとこだよ!こうして、Bとも久々に酒が呑めるし、やっぱ東京は良いな」

B「ホント久々だよなー、大学卒業して以来じゃないかなー、10年ぶりくらいか!」

A「マジか、お互い年取ったもんなー。そういえば、まだ独身なん?」

B「自由気ままな独身貴族よー、仕事もフリーランスだし、気楽な生活送ってるよ。Aは子供産まれたんだっけ?」

A「なんか良いなー、うん、産まれたよ。」

B「そうか、じゃあお祝いしなきゃだな、Aはウイスキー好きだったよな、まだ開けてない、ウイスキー界のロールスロイスあるけど呑む⁈」

A「マッカランか、良いね!ロックで頼む」

B「ほいよ」

〜呑みがすすむにつれ〜

B「Aさ、覚えてるか、大学ん時映画とった時のこと」

A「もちろん覚えているよ」

B「俺、あん時、おまえに誘ってもらえて嬉しかったんだよね。楽しかったし、今の仕事にもつながってる気がするし。」

A「お、そうか、そう言ってくれて嬉しいよ」

B「なんかさ、昔、Aさ、大学卒業後、海外回って色んな国でドキュメンタリーとりたいって言ってなかったけ?」

A「えー、そんなこと言ったっけー」

B「言ってたよー、それで就活しなかったんやろ。」

A「あー、確かにな、昔は海外行って映像撮りたかったけどなー、その為に卒業後、1年バイトしまくって金貯めて、英語も勉強したしね」

B「海外は行ったの?」

A「いや、行かなかったよ、現実的に考えて、そんなことしても将来ないし、それをやることに本当に意味があるのかわかんなくなって、不安が大きくなってきちまって。結局、就職したわ」

B「現実的に考えてか、俺、結構応援してたんだけどなー。でも、今は仕事も順調なんでしょ?」

A「そっかぁ、うん、順調だね。仕事も自分に合ってる気がするしな。」

B「じゃあ良かったな。先がどうなるかわからない方選ばなくて、まあ東京に帰ってきたわけだし、また呑もうぜ」

A「うい」

〜次の日、Aの会社近くの公園、昼頃〜

Aは公園ベンチに座りながら、昼食後、休憩している、

Aの心の中の声

「昨日は久しぶりにBと呑めて良かったな。
懐かしい話もできたし、
懐かしい気持ちにもなったなー。
なんだか、蓋をしていた自分の気持ちに久しぶりに会えた気がした。

そう、俺は大学卒業後、海外でドキュメンタリーを撮りたいと思ってたんだ。

なぜ、そんなことをしたいかと思ったか。


それは、身体の内側から湧き出る何かがそれをやれって言ってきた気がしたからだった。
世界にいる人々とその土地で、環境や教育、宗教、思想、それぞれが違う人々がどんな人間なのか、それを俺を通して、発信したいと思った。
そんなことをしている自分を想像すると、胸が躍り、血が騒いだ、身体が反応してたんだな。

だが、やらなかった。
学生という立ち位置を離れると、社会の波は容赦なく襲いかかる、生活するだけでもお金がかかり、周囲からは将来どうするんだという圧力がかけられ、
そんな夢みたいなこと言ってないで、大人になれ、現実みろよという波に襲われる。

俺は、そんな波にのまれ、結局就職した。
正直、今は後悔してないし、あの時の決断は間違ってないと思ってる。今の仕事にだってやりがいはある。
ただ、ふとあの時の俺は一体どこにいってしまったんだろう。
と思うと、なんだか寂しくなった。

そんなことを感じたから、ここに来たんだろう。
自然の中に身をおくと、なぜか、俺の中の湧き出すアツい何かを感じる。
心のもっと奥の方からくる、想いだ。
仕事をやめたいわけじゃない、今の生活を手放したいわけじゃない。
ただ、身体の奥の方から込み上げてくるものがある。
目を瞑り、耳を澄まし、みえてくるもの、聴こえてくる声がある。
それは、昔、海外に行ってドキュメンタリーをとりたい、もっと多くの人と触れ合い、その人達を理解したいと言っている笑顔の俺だ。

就職して、社会の歯車になり、家庭を築き、大人になったと思っていた。だが、本当は、あの時の俺に、蓋をしていただけだったのかもしれない。

そう気づくと、なんか動き出したくなった。
今の環境の全てを変えたいとも思わない、だが、時間を作って、あの時の俺の声である、色んな人の想いが詰まったドキュメンタリーを撮ってみたいと思う。
気づくのに時間は経ってしまった、でも今からでも決して遅くはないはずだ。」

〜立ち上がり、電話をかける〜

A「あ、B、あのさ、この前話してた昔の話なんだが、俺やっぱドキュメンタリー撮ってみるよ。色んな人の色んな想いが詰まったものを。あの時の映画みたいにまた一緒にやってくれないか。」

B「そうか…
実はさ、俺、待ってたんだよね、お前が動き出すのを。
俺、今動画編集とか撮影とかやってるし、またやろうぜ。」

A「そうか、ありがとう!」

Aは電話を切り、歩き始める。
Aは木や葉っぱを見ながら、
「少しは俺の中にある、自然に近づけたかな。」

終わり。

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