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【読書】組織が変わる

対話による組織開発で著名な宇田川先生の最新刊。非常に楽しく拝読した。

対話によって組織の関係性を変えるとは、組織のメンバー一人ひとりの中にある課題への意味づけが変わっていくことだと思う。見え方、捉え方、心持ちが変わることで組織が変わっていく。

たとえば、私がかつて関わったとある会社(デフォルメしています)。忙しいあまり、皆受けた仕事をこなすのにいっぱいいっぱい。今取り組んでいる仕事が終わらないうちに次の案件がふってくる状態で、常に納期に追われている。

周りが何やってるかもよくわからないため、情報共有不足から、あちこちで重複する仕事も発生し、非効率な状況になっている感触もある。が、もはやそれを検証して修正する余裕もない。難しい案件はエース人材が力業で乗り切ることが常態化し始め、そのうちそのエースが燃え尽きて離職。

皆が「この状況はおかしい!」「マネジメントは現場を見て策を講じるべきなのに」と不満が溜まっていくが、マネジメント側も状況がつかめないため何をどうしたらいいかわからない。。

今日明日、組織が崩壊するわけではない。だけど確実にじわじわとマズイ状況に組織が向かっている感じはある。その感覚はわかる。だけどどこから手をつけたらいいのか?霧がかかったような感じで日々を過ごす。

宇田川先生は、こうした何かマズイ感じというのを”慢性疾患”を患っていると例えた。確かに!組織のなんだかマズいという感覚にしっくりくる。

これは思わずうまい例えだなあと唸ってしまった。

腰痛だとか、膝が痛いとか、はたまた高血圧、糖尿病、、、等々。こうした病気をイメージしてほしい。これらの病気は手術してすっかり完治する類のものではなく、症状をコントロールしてうまく付き合っていく種類の病気(=慢性疾患)である。

そもそも、コミュニケーションや関係性の問題とは完治するものではない。夫婦の問題を考えてみてもよいと思うが、いがみ合い、ケンカが激しくなると関係性が破綻する。かといって、二度とケンカが起きないような魔法の薬はない。

日々、お互いが思いやりをもって、批判を抑えたり、笑顔を心掛けたり、相手の要望を聴いたりという日々の努力でケアしていくことしかないのだ。

だから、組織開発に対する期待値も変えていくべきなのだろう。組織開発は、「組織課題を完治、解決する」ものであるとは言わないこと。「組織課題に対処できるような力をチームにつけてもらいましょう」ということが正しい認識であり、それを相手と握ることが大事な方向性ではないかろうか。

ちなみに慢性疾患に陥った組織に支援に入り何をしていくか。

最初にやることは一言でいうと自分たちのチームがどういう状態にあるのかを見える化していくこと。だれがどんな仕事をしているか、業務タスクの見える化だけではなく、その業務をこなす中で、そこにいる人はどんな思いでいるのか、チームメンバー、マネジメントの在り方をそれぞれがどう見ているか。そういうチームの中にある感情や関係性を見える化していく。そうすることでいまの組織がどんな状況になっているか、少しずつ霧が晴れて確認できるようになる。

そうして得体の知れなかったものの全体像がわかる。そうすると、人は自分がどんな慢性疾患にかかっていたのかということが理解でき、それが見えてなかったときとは全然違う心持ちになるのだと思う。

不思議に感じるのは、見える化してもまったく業務の量や種類が変わったわけでもないということ。

たとえば採用のように具体的に人が一人増えただとか、人事制度のように具体的にシステムが変わっただとかいう類の分かりやすい、目に見える直接的な納品物がないことがこうしたサービスの価値がなかなか理解されず、売れにくくなっている要因であると思う。組織開発を営業している人は多くの方がここに悩んできた。

そこに、慢性疾患というたとえでこの課題の捉え方を提示し、具体的な課題の解消へのアプローチ2on2を説いたこの本。組織開発の具体的実践を後押しするという目的で見たときに、非常にヒントになる意欲的な本だと思う。

ちなみに、2on2は、加藤雅則さんの「自分を立て直す対話」にある”智慧の車座”という手法との類似性を感じて興味深かった。こちらと比較しながら読むのも面白いと思う。




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