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浪費家の虚しい労苦


「わたしゃ、この世界は、50年以上の大ベテランよ。」
「あーそう。水割り作ってくれる?」
産まれて22年の俺と何歳かわからないニューハーフと話している。
「そんなんいいじゃない!趣味とかあるの?」
「良くねえよ。水割り作れや。強いて言えば、筋トレと読書くらいだな。太宰治が心中した時、生きてたね。」
「生きてるわよ!あの時も、こうして水割り作ってたわよ!」
「ふーんそう。(何も考えず生きてたわけか。)」
「筋トレね〜!素晴らしい!素晴らしい!ちょっと筋肉触らせて。」
「いいよ。」
快く胸筋を触らせたのが誤りだった。筋肉を度外視にこのおっさんが乳首触ってきやがった。
「おっパブじゃねえぞここは。」
「おっパブよ。新宿二丁目で唯一のおっパブ!」
「ウッ...」
案の定、この好機を逃さずに、急接近してきた。そして俺は、吐き気を抑える。このおっさん、かなり臭い。特に口が。老人が放つ独特な臭いである。
なんで、わざわざ金払って拷問を受けさせられているのだ、と会計前にも早くも、虚無感に駆られる。
「あなた面白いわね。」
やっと離れてくれた。と吐息小さく吐息を吐き、ばれない程度に深呼吸をし、肥溜めにいたような空気を換気させる。
「まあ楽しんでくれたならよかったよ。」
早くも帰りたい。
「でも、楽しい事はいいことよ!」
「楽しい思い出は大切にな、つまらない思い出は、打っちゃればいいんだよ。」
「違うわ!楽しい思い出もつまらない思い出も、どっちも大切よ!」
「まぁそうだな。お会計で。」
「もう帰るの?盛り上がってきたのにぃ!帰らないで!お兄さん!」
薄気味悪いまなこで、上目遣いで誘ってくる。俺はそんな耄碌を傍目に、ボーイに会計をしろ、と目で物を言う。

「こちらお会計になります。」
見たら、2万になっていた。
これは...援交の相場より高いないし青森までの片道切符が買える。
ゲイバーでちょっと飲もうと思ったつもりが流石に声が出なかった。
運良く懐には3万入っていたので、札を投げ捨てるように、支払いを済ませる。
「また来てね〜!」とさっきの耄碌が、色っぽく挨拶していたが、当然無視し、「金返せよ、吹き溜りのドブネズミ共が。」と呪詛を込める。

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