Hiroaki Yutani

読んだ本のこととか聴いた音楽のことを書きます。

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    モジュラーシンセ初心者によるモジュラーシンセ関連のメモ

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意味のない文章を書きたい。

相づちのポイントは、何も言わないことにある。 俺は関西人なので、相づちの音は文字にすると、 「おん」 みたいになる気がするけど、正直なんと書き表せばいいか興味がない、ほどに相づちは意味を持たない。相づちは、実質何も言ってないからこそ無限の可能性があるし、未来にパスをつなげる戦略的な一手だし、くるりは君の弱さを探せる。 文章もそのようであるべきだと思っている。意味のあることを書いてはいけない。いや、意味のないことを書け、と言っているのではない。我々は、うっかり意味を踏み

    • 幸田文『台所のおと』

      この本の表題作『台所のおと』は、鷲田清一の『「聴く」ことの力 ― 臨床哲学試論』という本で〈ふれる〉と〈さわる〉という概念の違いについて説明する中で、題材に使われていて知った。『台所のおと』について紹介する前に、まずはこの鷲田の『台所のおと』の紹介を紹介したい。とてもぐっとくるので。 「ふれる」のと「さわる」のはどう違うのか。ここで鷲田はもっと多義的な、厚みのある説明をしているが、平たく言えば、「ふれる」というのは相互に干渉がある(「ふれあい」)が、「さわる」はさわる側とさ

      • ハリー・パーカー『ハイブリッド・ヒューマンたち 人と機械の接合の前線から』

        アフガニスタン紛争で地雷を踏み、両足を失った作家の人のエッセイ。あるいはノンフィクション小説。なんと呼べばいいか難しい。端的に言えばこの読書感は SF なのだけど、フィクションではないので、SF からフィクションを取った残り、サイエンス、ということになってしまう。でも、サイエンスというよりはテクノロジーの話で、なによりもこれは、ヒューマン、についての話だ。SF が常にそうであるように。 みたいなストレートな書評は、この人の記事が素晴らしいのでこっちを読んでほしい(何を隠そう

        • 無職になって1か月が経った。

          生きてます。それはそう。 最終出社日は6月末だったので、何も仕事をせずに過ごしてる日々は+1か月あるけど、野に放たれたのは8月から。昨日でもう1か月が経った。無職になれば何か面白いこと起こるかな、と思って無職になって、何も起こらないまま、1か月が経った。 机の上に積み上がっている本はぜんぜん減ってない。もう限界がきている帆布のショルダーバッグも縫い直せてない。小麦粉はお菓子にならず冷凍庫で眠っている。福岡に人に会いに行くのは予定が立たないまま。ラズパイピコは机の上で埃をか

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          最近聴いた曲(2024年7~8月)

          toe - NOW I SEE THE LIGHT日本のポストロックバンド。意外と曲ちゃんと聴いたことなかったけど、アルバム通して聴いたら、きれいなポストロックだな、って感じでよかった。 さらさ - 祝福NakamuraEmi の曲にさらさが出てて興奮してたら、なんと8月20日にアルバムが出るらしい。もう有名になってしまうんだろうな… Floating Points - Key1032019年に出たアルバム『Crush』の曲の MV も、この MV と同じく中山晃子が担

          最近聴いた曲(2024年7~8月)

          三宅夏帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んだ感想のメモ

          おれは働いていないのにいまだに本が読めないんですけど、どういうことなの?、と思って読んでみた。もちろんそんなことは書かれていない。 本全体の感想としては、たしかに切り口は面白いし鮮やかだけど、「その時代を代表する本」の数冊から数行を引用しただけで「この時代はこういう時代でした」とばっさり言い切ってしまっていいものなの?、というあたりが気になってしまった。これは個人的にこういう本に抱きがちな感想なので、この本が悪いとか不誠実とかそういうことではなく、単におれにはこの一冊だけで

          三宅夏帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んだ感想のメモ

          町田康『入門 山頭火』

          町田康の本で一番好きなのは?、と聞かれれば、名作『告白』を迷わず挙げる。 『告白』は、「河内十人斬り」という殺人事件の犯人が、なぜ十人斬りをしなくてはならなかったのか、という人間の深淵に迫っていく本だった。町田康の著作は、小説からエッセイまで幅広いが、その中でも『告白』は異彩を放っている。古典の現代語訳も面白いけど、またこういう社会派ドキュメンタリー小説も書いてくれないかなあ… と思っていた人は、この俳句の読み方の入門書のふりをした社会派ドキュメンタリー『入門 山頭火』を

          町田康『入門 山頭火』

          最近聴いた曲(2024年5~6月)

          2か月だけだけどなんかいっぱい聴いてた気がするのでメモっておく。今回は割とアルバムで聴いてたのでアルバムの名前で書いておく。 Broadcast - Spell Blanket - Collected Demos 2006​-​2009Broadcast の未発表曲集。Broadcast は大学生のころに聴きまくっていたのでつい聴いてしまう。思い出補正みたいなところあるけど、まあでもこういう未完成な感じが Broadcast のわりと好きなとこなのでいい感じな気はする。

          最近聴いた曲(2024年5~6月)

          樋口恵一郎『良いFAQの書き方──ユーザーの「わからない」を解決するための文章術』

          はじめに書いておくと、この本、タイトルを見て「おっ、面白そう、買ってみようかな」と思う人はそこそこいそうだけど、書かれている内容はたぶん多くの人にとっては直接は役に立たない。この本は、そこそこの規模のFAQを念頭に書いていて、「チーム内のノウハウ共有のためにちょっと FAQ を作ってみようかな」という程度の気持ちではちょっと取り組めないレベルのものになっている(し、たぶん相手がユーザーなのとチームメンバーなのとでは取るべき態度も違ってくる)。 でも、だからこそ、普段は接する

          樋口恵一郎『良いFAQの書き方──ユーザーの「わからない」を解決するための文章術』

          カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

          (これは、2017年に昔のブログに書いたやつをほぼそのまま移してきたものです) という本題とはまったく関係ないところで出てくる一文がなぜか印象に残った。 この本は「存在しないはずの問題」について語る本ではない。存在しないはずの問題は存在しない。人間とは、とか、平等とは、とか、そういう小難しい問題は、この本の中には出てこない。 主人公たちに不利な社会の仕組みは、当たり前のものとして存在していて、ことさらに解説されたりはしない。彼女たちは、その社会を、待ち受ける死を、当たり

          カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

          ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』

          (これは、2016年に昔のブログに書いたやつをほぼそのまま移してきたものです) ある本を「読む」というのはいったいどういうことなのか、という命題を掘り下げていく本。冒頭でバイヤールは、「読んでいない」という言葉に対して切り込みを入れる。 こうしてバイヤールは、「読んでいない」を擁護するばかりではなく、「読んだ」という概念に揺さぶりをかけていく。 本は、著者の意図通りに読まれるわけではない。さまざまに読まれ、あるいは読み飛ばされ、解釈され、伝聞され、さらには忘れられ、記憶

          ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』

          最近聴いた曲(2023年末~2024年春)

          わりとアルバムで聴いてるけど適当に1曲選んだり選ばなかったりしてメモっておく。 group_inou - HAPPY実はあまりリアルタイムで聴いてなかったので復活嬉しい。ミーハーなのでライブも行きたい。 Elephant Gym - WORLD大象體操。台湾のスリーピースバンド。今回のアルバムはほとんどの曲にゲストがいて、これまでと違う感じの音が聴けて面白かった。 Sam Wilkes & Jacob Mann - Perform the Compositions of

          最近聴いた曲(2023年末~2024年春)

          『Citizen Sleeper』の日本語版がついに出る。

          『Citizen Sleeper』は2022年5月に発売されたテーブルトークRPG風のアドベンチャーゲームだ。発売から2年、ついに2月1日に日本語版が出る。ゲームの紹介は書きなれてないけど、最高のSF小説なのでおすすめしたい、というこの気持ちを文字にしてみる。 「スリーパー」。人格をエミュレートし、ロボットの身体を持つ主人公は、この世界でそう呼ばれる存在だ。 スリーパーは、その心も体も自分のものではない。人格は元の人間のコピーであり、ボディは巨大テクノロジー企業・エッセン

          『Citizen Sleeper』の日本語版がついに出る。

          2023年にやったインディーゲーム

          特に書くほどのことはないけど、なんとなくメモっておこうと思い。ネタバレがあるものについては(ネタバレあり)と書いたので注意してください。 14種のマインスイーパーバリエーションLayerQさんの配信で知ったパズルゲーム。詰め将棋ならぬ詰めマインスイーパー。「14種」というのは追加ルール(例:地雷マスは必ず隣り合う、数字が嘘)の種類で、ただでさえ難しいのに、ルールごとに思考のモードを変えないといけなくて、頭がパンクしそうになる。それだけに解けた時には快感がある。 UIがおし

          2023年にやったインディーゲーム

          今年の10曲(2023年)

          毎年書いている、この1年で聴いた曲の個人的な備忘録。去年のはこれ。 Sampha - Spirit 2.0今年いちばんを選べ、と言われれば、さすがに Sampha でしょう。長らくゲストシンガーとして名を馳せた孤高の天才が、ついに主役として羽ばたいた歴史的瞬間だった。 Sampha は昔からすごかった。一声聴けば唯一無二だとわかる。わかった。12年前に SBRKT の『Hold On』という曲を聴いて、俺はわからされた。いやー、ゲストでこんだけ存在感あるし、ソロを出した日

          今年の10曲(2023年)

          川越宗一『熱源』

          近所にいい感じの居酒屋を見つけたので、のんびりおでんを食べていると、恰幅のいいおじさんが隣の女性に向かって、 「北海道は、開拓されてまだ200年も経ってないので、文化がない」 などと持論を語り出した。よりにもよって、この本を開いているおれの横で。 熱源、というものがこの冷めた自分にももしあるとすれば、それは、この時、胸の奥に灯った「は?」みたいな気持ちなのだと思う。「開拓」されるずっと前からそこに人は生きている。文化もある。なのに、そのディテールをなかったことにするよう

          川越宗一『熱源』