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いろはな防災 ~イニシエ少女の災活~ 第01話

《あらすじ 75文字》
 高知県の片田舎、吾川郡いの町を流れる仁淀川のほとりで出会った2人。ひょんな事から防災の勉強を始めちゃいます。
これからの学園生活はどうなっちゃうのかな?

・地震のイロハ その1

宮花楓子みやはなふうこは一人である。

始業までは、かなりの時間がある。
幼稚園で叩き込まれた時間前行動のクセが高校生になっても抜けていない。

 生活習慣としては良い事かも知れないが、こうやって無作為な時間を過ごすことも多いが、嫌いきらいじゃない。

 ここ、仁淀清流によどせいりゅう学園は幼稚舎から大学まで、一貫した独特の教育方針を誇る学校だ。

 その高等部へ地域の公立中学校から進級するタイミングで編入してきた。

 エスカレータで構築されている人間関係に、いきなり入り込むほどのバイタリティは持ち合わせていない。

 なので、今日も窓から仁淀川を見ながら、一人ぼっちの一日を過ごす覚悟を持っている。

「ムギュ~」
 青天の霹靂へきれき!後ろからいきなりのホールド感、
 誰かが抱きついて来た。

「うわー!!」
 大きな声をあげ、振り返って見ると、
 ふわふわ髪したクラスメート。

 確か名前は……??

 不振がる私の顔を見て、彼女はなにか察したのか先に言葉を発した。

小桜茜こざくらあかねだよ!」

 そう言い放つと、最上級の笑顔でニコっている。

「おおう!!」
 悲鳴に似た相槌あいずちを発した後、続く言葉が出てこない。

「いつも外ばっかり見て、何してるの?」

 質問が平静を取り戻すきっかけになった。

「いや、なかなかクラスに馴染めなくて…」
 思わず本音が出てしまった。

「そんなだから、友達できないの、お話しよ♡」

 ズバリと核心をつかれ、怯むかと思ったが、案外大丈夫のようだ。

 自分の気持ちよりも、彼女のキャラクターによるものだろうか?

 彼女はおしゃべりを続けている。
 押し付けがましい気もするが不快感は無い。

「そう言えば、今朝の地震すごかったね。」

 彼女が言っているのは、本日未明に起こった地震のこと。

「えーっと、震度3くらいだっけ?、震源は徳島県みたいだね」

「えー、結構ゆれたと思ったのに、震度3? 変なの!」

「ああ、起きてる時と違って、寝てる時は大きめに感じがちだから……
 でも起きない人もいる位の大きさかな?」

「いえる、お母さんグーグー寝てた」
 彼女のコロコロとした笑い声が心地良い。

「これが南海トラフ地震に繋がったりしないか心配。絶対ネットでは 『四国おわた\(^o^)/』 とか書かれてるよ、きっと」

「今回の地震は内陸の活断層の地震だから、南海トラフには直接関係ないと思うよ」
 朝のニュースで聞いた知識を披露する。

「活断層??」
 疑問に対して首をかしげる彼女の仕草はまるでアニメのようだった。

 何か楽しくなってきた私は彼女の質問に答える。

「地震って、大きく分けて3つの種類があるの。」
 1つ目がプレート境界型地震で南海トラフ地震がこれ。
 2つ目が内陸部の活断層で発生のもので、今朝のがこれ。
 3つ目がプレート内の活断層を震源とする地震。

 この3つ目は、海底の活断層でおきる地震で、震源が陸地より遠いと あんまり大きな揺れは感じないけど、津波を起こす場合があるから、その点は注意だね。

「ふーん、花ちゃん詳しいんだね。」

 花ちゃんって呼ばれてドキッとした。いや、チョー照れた。
「花ちゃんって私の事??」

「うん、宮花の花ちゃん」
 そう言えば、自己紹介してないのに名前知ってた。
 ちょっとビックリ!

「何で私の名前知ってるの?」
 恐る恐る聞いてみた。

「知ってるよ~、だって編入してきたの花ちゃんだけだし」

 そりゃそうだ、私は40人位覚えなきゃいけないけど、みんなは私だけ覚えたらいいんだ。

「楓ちゃんとかは呼ばれた事あるけど、名字由来は初めて」

「楓ちゃんも良いけど、花ちゃんの方が可愛いね。
 お花大好き♡」

 何をしゃべっても可愛い娘だ、男だったらイチコロってやつかな。

「そう、私はうーん、桜で良いよ」
「茜ちゃんで呼ばれてたけど、花ちゃんと同じ名字由来に変更する♪」

 あっさり、自分の呼び名を変える気っぷの良さ。
 江戸っ子かこいつ。

「で、もう一回、花ちゃん何で地震に詳しいの?」

「ああ、両親が防災士で地域の自主防やってるから、日常的に防災用語が飛び交ってるからかな〜」

 そうか、家では普通だけど、他所は違うんだ。
 私の答えに納得したような顔をしながら、桜(照れる)の質問は続く。

「ところで、南海トラフ地震ってどうやって起きるの?」

 そうか、そこからか。

 ウチは親が大学の先生の講演行ったら、帰ってくると掻い摘んでかいつまんで教えてくれてたけど、そりゃ普通のお家はそんなことないよな~

「南海トラフ地震はプレート境界型地震って言ったよね。」
「うんさっき聞いたよ♡」

「日本は4つのプレートが集まってる場所にある、世界でも珍しい国なの。

 図で説明するね。カキカキ」

 ノートを取り出し、子供の落書きのような日本列島を描いた。

 北海道側にあるのが《北米プレート》、日本海側が《ユーラシアプレート》、太平洋側にあるのが《太平洋プレート》、その下にあるのが《フィリピン海プレート》と言って、そこが南海トラフっていわれてるの」

「ねえねえ、花ちゃん、トラフってどう言う意味なの?」

「えっとね、確か、《海中の溝で海溝よりも浅いもの》だったかな」
 あやふやな回答、もっと勉強しとくんだったな。

「四国はユーラシアプレートの上に乗っかっていて、その下にフィリピン海プレートが年に3~7センチ潜り込んでいるって言われてるのね。」

「えー、たったそれだけ~」

「そう思うでしょ、でも前回の昭和南海地震から、約80年、中央値で年5センチとしたら、80✕5で400センチ、つまり4メートル移動してることになるの。」

 桜ちゃんはピンと来てない顔をしている。

「実際どのくらいの移動で地震が起きるかは分からないけど、過去の発生周期や科学の進歩による研究の結果、予想はできるところまで来ているの」

「じゃあ、南海トラフ地震っていつ起きるか分かっているの!」

「最近の発表では2035年 ± 5年、つまり2030年から2040年の間に必ず起きるって言ってるよ、あと今後30年以内っても言われてる」

「幅10年もあるの!!何月何日何時何分何秒みたいに分からないの!」

「ああ、地震は地球って生き物の生命活動の一部だから、外からは正確には分からない。
 桜だって、いつお腹がへるか正確には分からないだろ」

「何をおっしゃいます、私は何時でもお腹が空いてるよ、エヘン」

 腰に手を当てて誇った感じ、威張る事でもないと思うけど…
 まあいいか、桜の質問に続けます。

「でも、地震が発生したら自分のいる所が揺れる数秒から数十秒前には警報が発生するから、それ聞いたら避難しなきゃね」

「あのピーピー鳴るやつね」
 桜は耳を押さえて、煩そうな仕草をした。

「そうだね、特に四国の太平洋側の海には大量のセンサーを設置して、地震が起これば1秒でも早く警報を鳴らすシステムが構築されてるらしいよ」

「ふぇー、よく分からないけど、凄いテクノロジー、略してスゴテク」

 分からないボケかたするなー。

「プレート地震のメカニズムを簡単に説明するね。カキカキ
 テレビとかで、こんなの見たことある?」


「うん、うん、見たことある!」
 頭をブンブン振りながら大きく頷いている。

「この黄色いのが四国、黒いのが海底、つまりフィリピン海プレート、水色が太平洋」

「あっ、これ知ってる、端っこがビヨーンってなるやつでしょ」

「くすっ、そうだね、半分当たってる。
 最近はビヨーンじゃなくて、沈み込みの摩擦による接地面の破壊が地震の原因って言われてる」

「ビヨーンは嘘なの」
「嘘じゃ無いけどね」

 花ちゃんは両手の甲を上にして両側から差し込み、重ね合わせた。

「上になった左手がユーラシアプレート、つまり四国の地面側、下になった右手が太平洋側のフィリピン海プレート。
 
左手の下に右手が徐々に潜り込んでいて、
 
 左手の指先は最初についた位置から離れないようにしているけど、右手が左手の下に潜り込もうとして動くの、これがプレートの移動ね」

「フムフム」

「左手は離れないように摩擦を使って頑張るけど、いつか限界を超えて離れちゃうの」

「なるほど、なるほど」

「そして、摩擦の限界を超えると接しているプレートの境界面で破壊が起きて、それが地震波となって地上に被害をあたえるの。

 その破壊の大きさがマグネチュードで、摩擦がなくなったことにより上のプレートが元の位置に戻るのが、桜の好きなビヨーンなの」

「来た、ビヨーン!!」
 桜ちゃん、嬉しそうに飛び跳ねます。

「つまり、ビヨーンが地震じゃなくて、地震が起きてビヨーンが起こるの」

「へーそうなんだ、でもテレビではビヨーンが地震って言ってたような……」

「ほぼ同時に起きるし、被害を受ける方からしたら些細な事なのかもね」

「でも、ビヨーンが元に戻る時、海面押し上げるから津波の原因になるの。
 沿岸部ではこっちの方が恐ろしいよね」

 体を抱え、おー怖顔の桜ちゃん。

「でも、《マグネチュード》ってなんかピンとこないのよね~」

「分かるよ、あたしもそう。
 多分比較するものが無いからと思うのよね~
 M6の地震のエネルギーが1とすると、M7はエネルギーは32倍、M8はM6の1000倍のエネルギーを持った地震になるのね」

「えーそんなに大きくなるの!!」

「乗数で大きくなるから、32倍づつ大きくなる!と言われても比べるもの無いから分かりにくいよね」

「そりゃ、山も崩れますがな!」 
 なぜか怒り気味の桜ちゃん、こんな時の合いの手は難しいな~

 ちょうどその時、チャイムの音が校舎に響いた。
「あっ、ホームルームの予鈴だ、花ちゃんまた後でね」

 桜はそう言うと、自分の席に帰っていった。
 戻って行くのを見送りながら、顔がほころぶのを隠せなかった。



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