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いろはな防災 ~イニシエ少女の災活~ 第02話

《あらすじ 40文字》
出会った花ちゃんと桜ちゃん。
地震に興味を持った桜ちゃんが果敢に知識を吸収します。

・地震のイロハ その2

 授業の時間は川の流れのようだ。
 時間がゆるやかに過ぎて行く。
 静かで穏やかな時間。
 先生が発する声も気持ちいい。

花鳥風月かちょうふうげつ」 その言葉が浮かんできた。
 自然の美しい風景、まさに今がそれだ。
 と、そんなことを考えているうちに、チャイムが鳴り、午前中の授業が終わりを告げた。

 つまり、待ちに待った、オベントタイム。
 自分の机でお弁当を広げる。
 今日はオトンが作った肉盛り弁当。
 料理が趣味なので、家のご飯は全てオトンの手作りなのです。

 そんな説明じみた事を考えながら、蓋を開けると、ドーン。
 押し麦混ぜた白米に焼き肉、唐揚げ、だし巻き卵、三種の神器が揃い踏み。
 気持ちの中で両腕まくってハチマキ締める。
 そんな妄想しながら いただきまーす。
 ゴハンかきこむその時に、

「花ちゃん、一緒に食べよ♡」
 いつかのデジャブ、桜ちゃんが登場です。
 ゴハンのかき込みいったん中止。

「おおう」
 分かっているけど怯んじゃう。
「花ちゃんのお弁当美味しそう。お肉いっぱい、ご飯もいっぱい」
「うちは、オトンが作っているから男弁当になりがちなの」

「うちのお父さんは袋ラーメンが精一杯。
 凄い量だね〜、あと育ち盛りだね〜」
 桜ちゃんちの情報ゲット!桜のオトンは料理下手!!

「テレビとかで見る女子弁じゃとても足りない」

 ちょっと恥ずかしい気もしながら桜に向かって、
「桜のお弁当は?」
 桜も少し恥ずかしそうに

「実は見かけ女子弁だけど量は一緒くらい」
 お互い顔を見合わせながら、

「お互い育ち盛りだね〜」
 そのコトバがキッカケに顔を見合わせ大爆笑。

「笑ってばっかじゃ、お腹すくから早く食べよ♡」
 桜ちゃんの号令で
「いただきま〜す」

 初めての同級生とのお弁当。
 桜は心にグイグイ入って来るけど、嫌じゃないな〜
 人徳なんだろうな。
 そんな事を思いながら、お互い顔を見ながら食べていると、

「ねえねえ、花ちゃん 私思ったんだけど、
 朝のプレート地震の説明でプレートが摩擦に絶えられなくなった時に破壊が起こって地震になるっていったよね。
「うん、そう言ったけど……」

「前にテレビで見たとき、高知は震度が6なのに、瀬戸内側は4から5って言ってた。

 プレートがつながっているなら、おんなじ位の破壊が起きて、おんなじ位の地震が起きるんじゃないかな?」

 私は桜の顔をまじまじと見つめ、
「桜、凄いね、あんた教授?」
 洞察力どうさつりょくがハンパない、《妖怪さとり》か!
 桜のふぇっとした顔を見ながら、
「あれだけの説明でよく気がついたね!!

 それはね、フィリピン海プレートはユーラシアプレートの下に、つまり地球の内部に向かって入り込んでいる。

「地球の内部は地上と何が違うと思う?」
「うーん、地底人がいる!」
 桜は真面目な顔で言い放ったが、関わると長くなりそうなので、そのまま無視。

「正解は温度が高いでした」
「温度が高いとどうなるの?」

「火山噴火の映像で溶岩って見たことある?
 あの熱くてドロドロのやつ。
 地球の内部は深くなればなるほどドロドロになってるの。
 で、さっきの疑問だけど、フィリピン海プレートは沈み混んでるって言ったよね」

「うん、地底人のお家訪問したいな〜」
 変なボケ。

「上のプレートと下のプレートの境界面は太平洋側より瀬戸内側の方が深くて温度が高くなっているの。

 温度が高いと内部の岩が溶けて柔らかくなっていて、摩擦による破壊が浅いトコよりも起きにくいの。
 だから、破壊が小規模だったり、太平洋側の揺れの伝達だったりして、揺れの規模が小さくなるの」

「ふえー、難しい、良くわかんない」

「チョー簡単に言うと、手のひらを紙ヤスリで擦ったら痛いけどスライムで擦ったら痛くないでしょ。
それは摩擦の起き方が違うからなの。
 お分かりですか?」

 先生風に言ってみた。
「おお、分かりやすい、花ちゃん例えの天才だね」
 解るんだ! 普通の人ならバカにされたと思うけど、それは感じない、桜ワールドに慣れてきたのかな。

 オベント食べながら、そんな話が進んでいく。
「まだ時間があるから、活断層地震の説明聞く?」
 そろそろ食べ終わりそうなお弁当をつつきながら聞いてみると、

「聞く聞く、花ちゃん防災学校の生徒ですから」
 そう言うと桜は敬礼。
 ちょっと恥ずかしい…

「ちょっと、待ってね。カキカキ」
 朝に続いてノートに日本地図を書き始めた。

「地面をすっごく掘っていくとなにがあるでしょう?」
「うーん地底人のショッピングモール!」
 …ボケは無言で流そう。

「掘っていくと、いつかは硬い岩にぶつかり、その岩には無数の割れ目があるの。
 いつもはしっかり噛み合っているけど、そこに大きな力が加わってズレると地震になるの」

「大きな力って?」
「そうそれは朝言ったプレートの移動だよ」
「でも動くのって年に数センチだよね?」

「うん、でもね日本の半分が動くんだよ、そのひずみのエネルギーは膨大なものになると思うよ。
 4メートルの移動で四国がビヨーンてなるんだよ。
 それより小さい亀裂も動くって!」

「ピンと来ないです〜」
 桜は釈然としない顔をしている。

「わかるよ、地球って大きなものの動きだから、少しの活動でも人間にとっては、非常に大きな災害となってしまうんだね」

「花ちゃん凄いね、割り切り方が大人だね。」
 ……なんか褒められたようだ。

「日本には約2000の活断層があって、今も新たに見つかり続けているの。
 プレートと同じで日本は世界的にも稀な地域と言われてる」
「へー、日本は地震のショッピングモールだね」

「じゃあ、活断層地震のメカニズムをチョー簡単に説明するね」

「ワクワクしてるよ。ポップコーン欲しいな」
 映画館じゃないちゅーの。

「活断層地震は箱を2つで考えると分かりやすいよ」
 そう言うと辺りをキョロキョロ見回して、桜の持ってきた筆箱に目をつけた。
 自分の筆箱も机の中から出して、
 この2つの筆箱を前後に重ねて、まっすぐ押しても、そのまま動かなくて、ズレたりしないよね。
 でも対角になる外側の角を押すと両側にずれる。
 箱の接地面が活断層で加えた力がプレートの移動、ズレた動きが地震だよ」
「はおー、分かりやすい、たとえ将軍キタ~」
 桜は両手を振り上げながら叫んでいる、ひょっとして最大の賛辞?
「うん?」
 桜が何か気がついた。

「ねえねえ、この図で高知県って活断層ないの?」

「いいところに気がついたね〜
 そう、現在大きな断層は発見されてないの。
 調べても、高知県では昭和南海地震以後、地震が発生してない。

 瀬戸内や他所での地震で揺れることはあるけど、地域内で大きなのは発生してないみたい」

「ええーそうなの!
 南海トラフ、南海トラフって言ってるから地震大国だと思ってたけど、そういえば高知発の地震って記憶にないかも…」
 納得しきれない桜ちゃん。

「ウチのオトンに聞いても、どっかの地震の揺れしか記憶にないって言ってる。
 まあ、気象庁の記録でそうなっているから間違いないよ」
 それが合図かのように、お昼休み終了のベルが鳴った。

 ……放課後になりました。
 昨日までは一人だった帰り道、二人で帰ってる。
 桜の提案で仁淀川の川べりを通りながら、知り合うまでの事をお互い話し合って、笑い合ってる。

「そうそう、花ちゃん提案があるの。」
 その声にビックっとした。
 恐る恐る問いかけけてみると、

「あのね、ウチの学校自由研究あるの知ってる?」
 ああ、入学する時に聞いた記憶がある、たしか自由参加で3年かけて自分が決めた課題について独自に調べて3年生の文化祭で発表するって言ってたな。
 ほとんどする生徒はいないけど、内容によっては進学が有利になるとか、ならないとか……

「花ちゃん部活やらないんでしょ、だったらあたしと研究しない?」

 たしかに部活をする気はなかった。
 が、いきなりの提案に少し面食らった。

「今日、花ちゃんに地震の事とか教えてもらって、防災に興味がでたの。 南海トラフ地震も来るって言われてるし、私たちも自分の事は自分でやらなきゃって気持ちになった。」

 まっすぐな娘だな〜
 やりたい事をやりたいって、すぐ言えるの羨ましい。

「するのはいいけど、なにするの?」
 桜はあっけらかんとした口調で、
「これから、これから、花ちゃんの両親って防災士で自主防やってるんでしょ、できたら、お話聞きながら考えたいな♡」

「おおう」
 何回目の「おおう」だろう?

 今日は桜に圧倒されっぱなし、でも笑い声を聞いているとまったく嫌な気持ちが湧いてこない。

 むしろ、なんかワクワクする。
「よし、やろうか」
 桜は私の答えに嬉しそうな顔をし、

「よし、《イニシエ少女の災活》、開始だね!」
「なにそれ?」
 面食らったワタシに向かって、得意そうな顔、

「私も花ちゃんも名前が古風じゃない。
 私なんか中等部のときのあだ名が《くノ一》だったし」

 改めて言われると納得。
 そう言えば子とか付く名前はイニシエネームとか言われてたっけ。

「で、さ、《災活サイカツ》って?」
「えーっと、推し活とかって言うじゃない。
 それにあやかって、防災活動、略して《災活サイカツ》、えへん」
 前言撤回、このどや顔は腹が立つ。

 でも、面白そう。
 高校生活の3年間で自主防じしゅぼうするのも意義がある。

「前途多難そうだけど、面白いかも。
 何ができるか分かんないけど、やってみるか!」

「やった、花ちゃんと二人なら、月にも行けるよ。」
「おおう」
 やっぱり、桜の言動には少し怯んじゃう、でもいいか、楽しい3年間になりそう。」

 そんな二人は仁淀川に沈む夕日に照らされて、長い長い影を引きずりながら家路に向かう。

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