言葉の手触り
「うそは、ばれます」（俳句の師匠）
作家のくどうれいんは、ありふれた料理や食材について書く時も、ありきたりの描写にならないように心がけている。以前、俳句の会でみんなに褒められた時、師匠に呼ばれこう釘を刺されたから。「頭のなかで作っただけのきれいな言葉を書いていないか。本当にあなたの手触りがあるのか」と糾されている思いがしたという。
新聞を購入した際、まず最初に目を通すのは『天声人語』、続いて鷲田清一さんの『折々のことば』だ。特に後者はいつ読んでも必ずハッとさせられる一言が紹介されている。
今朝の『折々のことば』を一読した際、私は微妙な勘違いをした。「ありきたりの描写にならないように心がけている」ことに対して「本当にあなたの手触りがあるのか」と釘を刺されたのかと思ってしまったのだ。引用するにあたって読み直した際に、その勘違いに気がついた。
つまり私はこの『折々のことば』を、実際とは違う意味合いにおいて紹介しようとしていたことになる。
この「勘違い」は、私をハッとさせた。私は「ありきたり」にならないようにするためだけに、「手触り」のない言葉を選んでいることがあると思ったのだ。表現することに拘泥するあまり、「手触り」を蔑ろにすることがあるのを、私は否定できない。
表現ばかりで「手触り」のない言葉ばかり選んでませんか？と釘を刺されたようでドキッとしたのだが、読み返して私の勘違いであったと知った時には、私が直接言われているわけでもないのになんだかホッとした。
それにしても、「手触り」のある言葉で表現することが時としてとても難しいと感じる。それは感情をきちんと把握することの困難さからきているのだろう。心の中に「気持ち」という具体性を持って存在しているそれの、輪郭を正確に捉えようとすると途端に煙のように立ち消えてしまうのだ。記憶の中に残っているその輪郭を、何度も何度も思い起こしながら、それに言葉をひとつずつ当てがって、どの言葉がより“似合っている”かを、一生懸命考える…そんなふうに私は、日々文章をしたためている。時としてそれは“ぴったりお似合い”の、「手触り」のある言葉になるが、ただ言葉だけがキラキラしていて気持ちが“置いてけぼり”にされてしまっていることもままある。
そんな“置いてけぼり”の言葉を文字にしながら、「いつもいつも手触りのある言葉なんて書けるわけないじゃん！」と自分に悪態をついたりするのだ。
私はこんな感じで、「手触り」のある言葉や、ただキラキラしているだけの言葉なんかを書きながら、日々noteを更新している。
今日は、わりと「手触り」がある方だと思う。そんな気がする。
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