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黒くて小さなかわいいヤツ

ふたつ前の宝石学とジョン・ラスキンにまつわるエントリで、わたしはウェビナーでのミスについて”懺悔します”と書いた。懺悔はちょっと大袈裟だけど、このnoteは、まぁその、弁明だ。

※註:実は、ウェビナーでのこの引用で、とても恥ずかしいミスをしてしまった。詳細は、あらためてnoteで懺悔します。

ウェビナーのなかで、ラスキンの言葉を引用して恰好つけてみたものの、先述のとおり、わたしは非常にこっ恥ずかしい引用ミスをしていた。それは、以下のツイートのとおりで、似たつづりの別の語に取り違えてしまっていたのだ。”prescription(処方箋)”と”precipitation(沈澱)”の誤解。

このウェビナーでは、1000人を超えるライブ視聴者がいた。その後にアップロードされたYouTubeでも、1ヶ月後の時点ですでに2700回ほど再生されている。というのに、だれもこの間違いを指摘していない。気がついた人は少なくないと思うけど、きっと暖かく見守ってくれていたのだろう。そう思うことにした。

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わたしが、『塵の倫理』を知ったのは、10年ほど前の化学分野のレビュー記事に引用されていたからだった。その記事の執筆者は、ルイジアナ州立大学の鉱物学の教授で、わたしが今の仕事でお世話になっている方だ。その後、ラスキンの晩年に再版になった『塵の倫理』を入手して、全編を読んだ。

ウェビナーで引用した部分は、はじめに”処方箋”と理解したので、prescriptionときちんと読んだのは違いない。その後、どこかでprecipitationと読み違え、そのまま誤解を定着させてしまった。precipitationの意味は”沈殿”。きっと薬になるものを沈殿させてつくっていたのだろう、ぐらいの感覚で、とくに疑問に感じることもなく、独自の解釈をしていた・・・のだと思う。

実のところ、わたしにはその記憶違いの感覚がまったくない。だから、誤解のプロセスについての記述も、このような曖昧な言い方しかできない。

これは、こわい

あとで気がつくのは、まだ良いほうで、思い込んだままの間違いがないとは限らない。いや、きっとある。誤解したまま、ソーシャルメディアに書いちゃっていたりするかもしれない。だから、きちんとした出版物には、校閲が必要なわけだ。今回は、その校閲のないプレゼン資料。ああ、こわいこわい。

ちなみに、この間違いに気がついたのは、前回のnote投稿の前に、『塵の倫理』を読み直したから。ラスキンの言い回しを、前後もふくめて再確認したかったのだ。そこで、このprescriptionにひっかかり、「あれ?ここってprecipitationじゃなかったのか!」という具合に発覚した次第。

今後、こんなミスがないように、とくに引用するときはいつにもまして丁寧に読むようにしよう。

・・・と、ここまでが、うっかりミスについての弁明。これだけだとつまらないので、トルマリンについて、もう少しだけ書いておく。

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『塵の倫理』の、わたしが引用した部分の前のページでは、「世界中にわずかしかない小さな黒いもののなかで、最も愛らしいこの黒いものこそ、トルマリンと呼ばれている(拙訳)」と、ラスキンは鉱物への偏愛っぷりを披露している。ここであげられているのは、黒いショール(鉄電気石)というトルマリンで、火成岩のなかにしばしば見られる一般的な鉱物。

ちょうど、そのショールの標本が手もとにあったので、ラスキンの鉱物愛があふれる文章の上にのせて、鉛筆でスケッチした。ウェビナーが深夜〜早朝だったので、それまでの時間つぶしに描いたものだ(その暇があったのなら、読み返して発表スライドの間違いに気づくべきだったと後悔)。このnoteの見出し画像にしたのがそれ。

トルマリンは日本語で電気石とも呼ばれる。

石にたいして電気とは、ちょっと不思議な語感だ。西洋文化が入ってきた明治の日本で、最先端っぽさをかもしだすために”電気ナントカ”と名付けられたものがあったけど、もしかして同類か?! 

いや、それは違う。熱や圧力にたいして、帯電する性質があるのが、その名の理由。とくに、温度変化にたいして電荷が変化する焦電効果は、温度センサなどに応用されている。その焦電効果による静電気を利用して、暖炉の灰を集めるのにトルマリンが使われていたとかの逸話がある。

この性質は有名で、実際にホコリがくっついたりするのを見かけることがある。わたしも何年か前のミネラルショーで見かけたけど、これはトルマリンの性質を利用したディスプレイ。

さて、せっかくだから、うちでも実験してみることにした。

ショールの標本のうち一つをオーブントースターで1分ほど加熱。その直後にカツオブシを振りかけてみた。下の写真のうち、アルミフォイルにのせたほうが、加熱した標本。3枚目の写真のとおり、結晶の端に見事にカツオブシがくっついているのが確認できた。

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焦電効果は、あくまで温度変化にたいして起きる。トルマリンの結晶の両端はもともと分極しているのだけど、温度が変わると、その分極の変化分があらわれる。だから、加熱した直後でないと、よくわからない。このまま放置してまた温度が平衡状態になると、静電気はなくなるはずだ。トルマリンで灰を集める逸話でも、暖炉の熱で吸着した灰が、そのうちに放出されると書かれている。

しばらくすると、このトルマリンにくっついたカツオブシはどうなるのだろう。

我が家でおこなった実験では、下の写真のとおり、別のかわいい黒いヤツがやってきた。そして、カツオブシはあえなく食べられた。まぁ、これも想定された結末ではあったのだけど。

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