ゼレンスキー大統領の訪米が示す外交巧者ぶり
現地時間の12月21日(水)、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が米国を訪問し、ジョー・バイデン大統領と首脳会談を行うとともに、上下両院合同会議で演説しました[1]。
今年2月24日(木)にロシアによる侵攻を受けて以降、ウクライナ国内に留まって抗戦を主導してきたゼレンスキー大統領にとって、今回の訪米は侵攻後初の外遊となります[2]。
現在、世界で最も注目される政治家の一人であるゼレンスキー大統領の外遊は国際社会の注目を集めるだけに、訪問先として米国を選んだことはそれだけウクライナにとって米国の支援が重要であることを示します。
実際、首脳会談においてバイデン大統領はゼレンスキー大統領に長距離地対空ミサイルのパトリオットを含む、総額18億5000万ドルの追加の軍事支援を表明しています[1]。
一方、上下両院合同会議でのゼレンスキー大統領は、当初予想された以上にウクライナが健闘してロシアの侵攻に対抗しているという実績を強調しつつ、それを可能にした米国の努力に感謝することで、米国の継続した支援を求めています[3]。
これは、今年11月の中間選挙によって下院の主導権を野党共和党が獲得するという上下両院のねじれ現象が出現した米国の中央政界を念頭に、来年1月に始まる新たな議会においてもウクライナへの支援のあり方が変わらないことを求める、周到な演説です。
軍事力を含む総合的な国力でロシアに劣るウクライナにとって、米国の支援は不可欠であるだけでなく、ロシアとの戦いを継続するための前提となっています。
それだけに、ウクライナ問題の発生後の最初の外遊という機会を活かして米国への謝意を示し、新たな支援を引き出すことに成功したゼレンスキー大統領は、大きな成果を挙げたということが出来ます。
もとより、米国による新たな軍事支援が直ちに状況の改善をもたらすことはなく、戦況は今後も膠着したままかもしれません。
それでも、ウクライナ問題に対する関心の低下を防ぎ、再び国際社会の注意を惹きつけることに成功したのですから、ゼレンスキー大統領は限られた選択肢を有効に活用しました。
その意味で、ゼレンスキー大統領は外交の巧者ぶりを示したと言えるのです。
[1]米、パトリオット供与表明. 日本経済新聞, 2022年12月22日夕刊1面.
[2]米・ウクライナ首脳会談へ. 日本経済新聞, 2022年12月22日朝刊1面.
[3]Full Transcript of Zelensky’s Speech Before Congress. The New York Times, 21st December 2022, https://www.nytimes.com/2022/12/21/us/politics/zelensky-speech-transcript.html (accessed on 22nd December 2022).
<Executive Summary>
What Is a Meaning of Ukraine President Zelensky's Visit to the USA? (Yusuke Suzumura)
Ukraine President Zelensky visited to the USA and met with President Biden and made a speech at the Joint Congress on 21st December 2022. On this occasion we examine President Zelensky's visit to the USA.
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