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「RPGタイム」感想:「少年の描いたゲーム」という世界観の圧倒的な作りこみはまさに驚愕。しかし果たしてそこにRPGはあるのか

2022年3月10日に発売されたインディーゲーム、「RPGタイム!~ライトの伝説~」
以前よりインディーゲームイベント配信などで紹介されており、非常に気になっていたタイトルでした。

実際遊んでみると、各種プロモーション用の動画通りのクオリティの高さを感じると同時に、プレイしたからこそわかる感覚があったので、下記に記載していきます。


そもそもどういうゲームか

授業が終わったら、RPGタイムのはじまり!
ゲーム大好き少年『ケンタ』くんが、
ノートに描いた手作りRPGで遊びましょう。
ページをめくるたびに、ワクワクする
楽しい仕掛けがいっぱいです。
数々のインディゲームアワードを受賞した
懐かしくも新しいゲーム体験が、
あなたの放課後にも、ついにやってきます。
ケンタ君が、
ノートに描き溜めたRPG
それが「ライトの伝説」だ!

「RPGタイム!~ライトの伝説~」公式ホームページより
https://rpgtime.jp/

上記の通り、このゲームはゲーム大好きな少年、ケンタ君が「ノートに描いたRPG」を遊ぶゲームです。
放課後、教室で、机の上に広げられたノートには、ケンタ君の熱量溢れる素晴らしいRPGが存在します。
プレイヤーは、友達の作ったRPGを遊ぶ。それが、この「RPGタイム」なのです。



なんといっても細部まで徹底的に描かれた作りこみの凄さ

これは発売前のプロモーションビデオなどでも既にわかっていたことなのですが、プレイしてみて改めて驚きました。ゲーム中の1から10まで、隅から隅までとにかく書きこみ、作りこみが尋常じゃないのです。

その筆頭は、ゲーム自体が描かれているノートの細かさ。鉛筆で、本当に見開きのページに隙間なく描かれている世界とその中を動き回る勇者、「細かい!」と驚く、圧倒的な作りこみでした。

その細かさは、ただノートに描かれたフィールドの見た目が細かい…というわけではなく、1ページに描かれたオブジェクトひとつひとつも同じです。
ゲーム中、「解説モード」というモードに任意に移行できるのですが、ここではケンタ君が一部のオブジェクトについて解説してくれます。
その細かさ、非常に濃い。他のゲームで言う、いわゆるフレーバーテキストのようなものですが、それが全てケンタ君の視点での解説となっているのです。
よくあるフレーバーテキストはそのゲームの世界観を醸成させるものですが、このゲームでは既に「少年」「学校」といった世界観が強固なものとなっているため、テキストで深掘りされるのは製作者であるケンタ君の思考や行動でした。

様々な要素を全てケンタ君が解説してくれるので、ゲームのオブジェクトを調べることが、ケンタ君について知ることに繋がります。
ケンタ君の情報、キャラクター、パーソナリティがそのままゲームに表現されているので、「ゲーム内の情報を知る」→「製作者ケンタ君の情報を知る」→「ケンタ君の思いがどのようにゲームに込められているかを知る」というような流れがゲームに込められていました。

このような道筋が完成していることが、このゲームの世界観をさらに強固にしている仕組みとなっていたのです。学校、少年という世界観が広がらないからこそ、そこではなくゲームそのものという、内に籠る世界観醸成のスパイラルが出来ていることが、この作りこみの魅力を更に増していたと思います。

細かな要素を挙げれば切りがないのですが、特に私が気に入ったのは、「ケンタ君」の描写です。ケンタ君は吹き出しの中で、セリフと顔イラストにてゲームを案内してくれますが、そのセリフ一つ一つ、状況に応じた顔イラストが用意されているのです。魔王のセリフは魔王のお面を被ったり、ダンジョンが揺れる場面では机を揺らす描写を入れたり。

もしかするとプレイヤーが気付かないかもしれないこの一瞬、細部の演出の多様さが、まさに「神は細部に宿る」といったように、細かさと作りこみのクオリティを底上げしていました。

ダンジョンが揺れる描写の際はケンタ君が机を揺らしている
お姫様のセリフはお姫様のお面を被っている



「少年が作ったゲームを遊んでいる」という感覚を忘れさせない「道具」

ゲームはノートに書かれたフィールドをベースにしつつ、そのノートの外側、つまり「主人公とケンタ君が生活している空間および道具」をも利用します。
剣は鉛筆、HPはメジャー、メッセージは付箋…。そしてよく見れば、これらが置かれているのは懐かしい学校の机。こういう、ゲームに関する情報部分についても隙が無くきちんと少年がゲームを作ったという設定を崩さないよう、道具の部分も丁寧に演出に寄与しています。

「別に、ゲームなのだからウィンドウやゲージなど、ビデオゲームっぽいUIを表示してもいい」とは思うのですが、そんなところも甘えず手作りの道具や文房具で表現しているところは、もはや執念のようなものを感じます。

また、文房具の使い方も非常に粋なところがあります。一例として、ゲーム内に「鍛冶」が登場したときです。

「RPGの鍛冶屋」と聞いて想像するもの…それはやはり、金槌で剣を叩くような描写ではないでしょうか。
このゲームにも、その描写が存在します。
そしてその方法が、「鉛筆削りの手回し部分に金槌のイラストをくっつける」なのです。

手回し部分が回転するごとに、金槌が回転します。
いかにも「金槌が剣を叩いているような描写」が、鉛筆削りとダンボールで生まれるのです。

例えば、ここはただセリフで説明するとか、それこそゲーム(ビデオゲーム)上のウィンドウ等で「武器が鍛えられた!」と表示してもいいのです。
しかしそれをやらなかったのがこのゲーム。何から何まで、学校にあるもの、授業を受けるときに使うもの、小さい子が準備できるもので全て賄っていることから、学校、放課後という世界観を一切崩さすにゲームを成立させています。

ほんの少しの描写にもこだわることで、ゲームの世界とゲーム外、つまりプレイヤーの現実世界を混ぜ合わせない。没入させる。この丁寧さが非常に魅力であり、開発者の強い気持ちを感じる部分でした。

懐かしい、学校の上履き



変幻自在なゲーム性

ノートに描かれたゲーム、という特徴を生かし、時にはSTG、ときには迷路、ときには野球と、様々にゲーム性が変化します。むしろ、2D版の「It Takes Two」と言ってもいいものではないでしょうか。

逆にこのRPGにおいて一貫して共通しているのは、戦闘、つまり敵とのバトルに関する演出です。ここはほぼ、「主人公がノートに鉛筆で線を引く」というゲームシステムで統一されています。

もともと用意されていたボスのイラストに対し、ゲームをプレイする側が鉛筆で線を引き、それが疑似的に、剣でボスを攻撃したという演出となる。なんとも想像しやすい様子を、見事にゲームプレイに落とし込んでいます。

ボス戦の戦闘自体は、どちらかというと力比べではなく、見開きのページの中から特定の部位・場所を攻撃することで、効果的または非効果的なダメージをボスに与えることとなります。
ここは謎解きのようなもので、答えに気づくか気づかないかが難易度に直結するような形です。全体として、コテコテのRPGというよりは、アドベンチャーゲーム感が強く出ていたと思います。

そんなアドベンチャー感あふれ、飽きないゲーム性ですが、一方でこれはゲームシステムの連続性を失っています。ページが変わるごとにゲームシステムが変わるのは、悪く言えばシステムの使い捨てのように感じます。
これは一長一短なのですが、こういったゲーム性が変わる部分からわかるように「典型的なRPG」ではないため、キャラクターが徐々に強くなるとか、レベルが低いうちには出来なかったことが出来るようになるとか、そういったRPG特有の「成長」という体験はかなり薄いです。

変幻自在なゲーム性についていけるかどうか。そこがこのゲームを好きになるかどうかのポイントですが、そのもしかするとプレイヤーが離脱しかねない部分を「異様なまでの丁寧な演出」と、「誰もが想像しやすい身近なノートに描かれたRPG」という点で、プレイヤーの離脱を防いでいるように感じました。



変幻自在なストーリー

ここは賛否が分かれるところかもしれませんが、やはり少年が作ったゲームであることもあり、ストーリーが良くも悪くもかなり散らかり、ご都合主義的な印象は否めません。

ゲームの目的が「姫を救う」というところで一貫してはいますが、その道中、都合よく、脈絡のないキャラクターが出てくることも多かったです。使い捨て的なキャラクターの扱いが少々多く感じ、キャラクター単体に愛着が沸く、というのはなかなかありませんでした。

それは前述の通り、ゲーム性が多様に変化することもあり、仕方がないかもしれません。しかし、アクションをメインとしたIt Takes Twoでも夫婦の物語に対する掘り下げがあったことを考えると、もう少しキャラクターの背景か何かがわかるといいかな、と思いました。

特に、RPGと題していることから、せっかく仲間が登場しているので仲間とのやり取りやキャラクターの深堀りがあるとより一層濃い物語になったのではないかという印象です。

とは言え、次々と変化するゲーム性との整合性を取るのはかなり難しいと思いますし、ゲーム性を削ったり落ち着かせてストーリーを濃厚にすると、妙に大人っぽくなり「少年が作ったゲーム」感がなくなるので、なかなか難しいところではあると思いますが…。



描写の細かさに比例し、ゲームの進行は遅め

非常に細かい描写が魅力であり、さらに細かなビジュアルやイベントに対して、ゲームの作者である「ケンタ君」が解説(案内)をしてくれるのがこのゲームの基本的な流れです。

私自身あまり詳しくないのですが、TRPGのゲームマスターのような感じでしょうか。それは世界観を理解するのにとても良い仕組みであったのですが、一方でゲームがサクサク進むというスピード感は損なわれているように感じました。

また、ノートに描かれたキャラクターが動くのはとても丁寧で新鮮ですが、その動きもパラパラ漫画のように少しずつ動くので、かなり遅いです。それは丁寧に描かれた世界を見るには適したスピードですが、一方で私としては「もう少しサクサクすすめたいな」と思ったのも事実です。
というのも、私自身、ゲームをプレイするとき、特にRPGやアドベンチャーなどセリフが多いゲームのときは、まずゲーム開始時に設定でセリフ表示スピードを最速にするような人間です。
そんな私にとって、多少のもどかしさを感じたのは、一度や二度ではなく、ちょっと惜しいところかな、と感じました。



これは「RPG」なのか

勇者が姫を救う。この設定は確かに、いかにもなRPGです。
ケンタ君も、ゲーム内に強い武器や回復アイテムを用意し、色々なマップやダンジョンの設定を考え、RPGとして楽しませようとしてくれます。

一方で、このゲームがRPGかと問われると、やや判断が難しいところがあります。
RPGの定義と聞いて、それはキャラクターをロールプレイするもので…と考える人は少ないと思います。きっと人それぞれだと思いますが、少なくとも日本でRPGと聞けば、FFやドラクエ、テイルズなど、いわゆる「JRPG」を想像する方がほとんどではないでしょうか。

このゲームはどちらかというと「JRPGという世界観を用いたアドベンチャーゲーム」が正しいように感じました。

確かに勇者がいて、剣があり、魔王と戦い、姫を救う。要素としてはRPGによくあるものなのですが、しかし例えば、「主人公が囚われの姫を救うために城に踏み入り敵を倒す」という説明であれば、これはマリオにも当てはまります。それこそ、姫を救うだけなら「Jump King」にも当てはまります。でも、これらはRPGとは言いにくく、アクションゲームです。

果たしてこのゲームはRPGなのか。それは、プレイヤー各々が持つRPGの定義に依るところが全てだと思いますが、しかしFFやドラクエを想像してプレイすると、ミスマッチが起こる気がしてなりません。
これはあくまで「RPGタイム」という、「RPGが大好きで、ノートや文房具を使い自分の力でRPGを作り出したケンタ君のゲームをプレイする」というゲームでもあると思います。

そしてそこには、RPGらしい設定がありつつも、JRPGらしい体験は薄めなので、かなり好みが分かれるところかな、と思いました。



おわりに

非常にクオリティが高い作りこみ、少年の頃を思い出すようなエモーショナルな演出や文房具、「ああ、放課後にこんなゲームで遊んだら面白いのだろうなあ」、むしろ「ノートにこんなゲームを作りたかった/遊びたかったなあ」と強く思わされました。

一方で、ゲームの展開はかなりご都合主義で、よく言えばバリエーションに富んだものでありつつ、「なぜそういう展開なのか」はかなり突飛であり、悪く言えば支離滅裂なところもあります。ここはもちろん、大人が考えたゲームではなく少年である「ケンタ君」が考えたゲームですので、そういった意味での整合性は逆に取れているようには感じます。例えば小学生が複雑な恋愛物語を描いたり、ヨコオタロウ氏の手掛けるようなゲームを作ったら、怖いですしね。

ただ、ではこのゲームが現在発売されている他のゲームと比べるとどうかというと、物語を重視するユーザーからはやや厳しい評価となるかもしれません。物語部分が突飛であり、ノートに描かれているというところ。そして、描かれていない部分はケンタ君の解説が補うというところから、サクサク遊べるRPGではなく、先ほども記載した通りテーブルトークRPGのようなフィーリングです。ここは好みが分かれるでしょう。せっかちな人には向いていないゲームかもしれません。

しかし、このゲームの異常とも言えるほどの作りこみの凄さは他の追随を許さないレベルであり、最たる魅力はそこにあります。小さい頃の妄想が具現化したようなゲームでした。インディーゲームの「尖った」部分を十分に感じます。

一方で、常にこの作りこみの細かさにワクワクしていたものの、ときにはゲームスピード感の遅さのためゲームへの集中が途切れてしまうことがあったり、物語が表面的であり、登場キャラクターの印象の薄さが目立つようにも感じました。
端的に言うと、RPGでよく感じる「感情移入」が薄かったのです。というより、正確には「ゲームを製作したケンタ君」へと感情移入するような感覚でした。そのため、強大そうなダンジョンに対しては「どうやって攻略しよう」よりも、「ケンタ君、これ作るの大変だったろうなあ」というような、少年の努力に胸を打たれるような感情が先に生まれてしまっていました。
結果、クリア時の感情としては、ゲームクリアの達成感より、ケンタ君の作ったゲームをちゃんと全う出来た、こんなゲームを作ったケンタ君凄い、というような感情が強かったです。

まとめると、圧倒的な作りこみの凄さは他のゲームと比べ物にならず、頭ひとつもふたつも抜けている素晴らしい作品であることは間違いないが、これをRPGとして楽しもうとすると肩透かしを食らう、と言ったところでしょうか。
「ケンタ君の作ったゲームの勇者をロールプレイする」のではなく、「『ケンタ君の作ったゲームの勇者をロールプレイするケンタ君の友人』をロールプレイする」が正しいかもしれません。そしてそれは、どちらかというとアドベンチャーゲームなのです。そのアドベンチャーゲームで体験できるのが、「少年がノートに作った(もしかすると一定数のゲーム好きだった人が、小さい頃妄想した)ゲーム」なのです。

RPGだ!FFやドラクエみたいなものなのだろう!と思って遊ぶと多少モヤっとするというか、他のRPGとどうしても比較して惜しい点が目についてしまうかもしれませんが、逆に「少年が作ったゲームを遊ぶアドベンチャーゲーム」と考えるとこの完成度はかなり高いです。
インディーならではの尖ったゲームの代表作と言ってもいいと思いますし、何よりどんなゲームを期待してようが、この作りこみの凄さには一見の価値あり。今年のインディーゲームを語る上で外せない作品間違いなしです。

RPGタイム、ぜひホームページやPVを見て、気になった方は遊んでみてはいかがでしょうか。学校終業のチャイムから始まる放課後、友達の作ったオリジナルなゲームを遊ぶというノスタルジックな体験が、きっとそこには待っていますよ。


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