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秘書課のあの娘 (想い出の山梨暮らし Week 7)

山梨ひとり暮らし、当時の記録。
何やら楽しげな第7週。

※プライバシー保護の観点から、人物や団体、固有名詞などは仮名とさせていただきます。

前回の話はこちら↓


月に1度、市が運営している「男女共同参画」の研修会に参加している。平日の19時からだし、大切な話とはいえ、ちょっと堅苦しい会だし、正直あまり好きな時間ではない。今までこんな会合とは無縁の人生だったので、参加している自分を俯瞰し、なんだかむず痒くなる。

市役所の大会議室へ、さまざまな職に就いている市民が30名弱集い、職場におけるジェンダー問題などについての講演を受けたり、隣近所の人とディスカッションしたりする2時間。

男性の育休取得や、女性と男性の社会における性差をどうしていくべきかだとかを考え、話し合う。

ちなみに僕以外全員、既婚者である。
もっと言うと、僕が唯一の20代であった。
圧倒的最年少。

先日、それの今年度2回目の会があった。

今回は隣に「小野寺さん」という女性が座った。
今日はこの人とディスカッションするのか。
あんまり難しい人じゃないといいな。

まずはお互い軽く自己紹介。

「ドコソコで働いていて、最近東京から引っ越してきました」
「あら、うちの娘もそこで働いているのよ。森山さんとは同世代じゃないかしら?」

優しそうな感じの喋り方でよかった。
そうなんだ、僕は娘さんと同じ職場なのか。

「そうなんですね。娘さんは何課なんですか?」
「たしか、今年からは秘書課って言ってたかしら?」

えっ。
あ、隣の課じゃないか。
一瞬にして頭の中は「小野寺さん」の顔でいっぱいになった。

あの小野寺さんの、お母さまなのか。

「僕、平成7年生まれなんですけど、もしかしたら同い年なんですかね?」
「あー、娘も平成7年生まれよ。同い年なんだね」

あの子、同い年だったんだ……!

ずっと「同じくらいだろうな」なんて思いながら、でも仕事では全く関わりもなく、聞くきっかけもないので迷宮入りにしていた。

小野寺ママありがとう。

「そっか、同い年だったんですね!」
「そうみたいね、仲良くしてあげてね!」

いや、なんだかありがたいよママ。
ちょっと、ちょっとだけね、気になっていたんです。いつか、機会があったら話せたらいいなぁ、くらいにですよ。

でも、あ、うん。
すみません、可愛いからです。
すみません。

でもなんかこれで、今後もしかしたらあの子と話せるきっかけが出来たかもしれない。
仲良くなりたい。

そんなこんなで、第2回の会は小野寺ママのおかげでなんだか楽しく終わった。


この日の話を後日、車で移動している時に部署のお姉さま方にしちゃったもんだから、もう変に大騒ぎ。

「え、森山くん、ヒナコちゃんいいじゃない?」
「めっちゃいいと思う!お話の場をセッティングしてあげようか?」
「いいじゃない!私たち、おばちゃまは絶対邪魔しないんだからさっ!」

矢継ぎ早に放たれる言葉に、僕は相槌も打てない。

「いやいや、あの、別に全然そういう感じじゃないんですよ。ちょっとやめてくださいよ〜」とかとりあえずゴニョゴニョ言っているけど、心の中では「いや、言ったね?セッティングは是非もので頼みますよ?」と強く思っていた。

てかあの子、ヒナコちゃんって名前なのかぁ。

僕はこういう話題で盛り上がるのは嫌いじゃないので、これもまたなんだかすごく楽しかった。

なんとここまでが、先週のお話だ。

週が明けて月曜日。
目が覚めたら「めちゃめちゃ小野寺さんを意識しちゃってる僕」が誕生してしまっていました。

僕のデスクの隣にあるコピー機に来たり、階段ですれ違ったりする度に、胸のあたりがキューっとする感覚。

いやでも待てよ。「秘書課」て。
ものすごく偏見だけど、この職場内に部署のヒエラルキーがあるとしたら秘書課はトップであり、一軍だ。学生時代の部活動で言うところのダンス部レベルである。

文化部だった頃のメンタルが消えない僕なんかは、よほどの用事がないと話しかけられないし、話しかけちゃいけないランクの人だ。

でも、今度コピー機のところへ来たら、せっかくだし話しかけてみちゃう?

話題はあるわけだし。
お母さんと会ったよ、つって。
いや、無理だな。

なんて意識しまくりの日々を過ごしていたら、あっという間に週末になっていた。

結局話せなかったなぁ、と思いながらトボトボ帰るとき、小野寺さんと階段ですれ違った。

なにか話を振らないと。
今が最大のチャンスであり、今週最後のチャンスだ。

目が合っている。綺麗な目だった。
どうしよう、何を言おう。何か言おう。

「あ、お、つかれさま、でした……」
「お疲れさまでした〜」

スタスタスタスタ……
小野寺さんの足音が遠ざかっていき、1週間のお仕事が終わった。お疲れさまでした。

帰宅してシャワーを浴びながら、ああ言えば良かった、こう言えば良かったと、頭の中で緊急の大反省会が開かれた。

昔のゆうすけくん。
こういうの得意だったじゃない。
ちょっと気になる異性との距離の詰め方をさ、今のゆうすけくんに教えてやってくれよ。

(2021年6月4日)

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