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書評 #42|逆ソクラテス

 伊坂幸太郎の『逆ソクラテス』は少年少女の視点を読者に届ける。そこから見つめる世界は常識や偏見などの定形であふれている。それは社会の大多数を占める大人たちによって決められたルールであり、そこに人々が集う。『逆ソクラテス』はその群れの内と外を行き交う。物語には苦味がある。しかし、著者特有の軽快な筆致により、最後には清涼感が突き抜ける。

 本著は大人たちの襟も正す。子どもたちが持つ無限の可能性。それは大人たちの言葉や行動一つで芽吹く形を変えてしまう。生まれたての果実のような、強くも柔らかい存在であることを再認識させられる。

 それと同時に子どもたちの感情はむき出しだ。その感情は純粋であり、時に刃物のように鋭く、人を傷つける。歳を重ねることは、その鋭さに丸みをつけることなのかもしれない。しかし、その力強さはどのようにすれば、みずみずしさを失わずにいられるのだろう。『逆ソクラテス』は「成熟」することの意味を再考させられる。


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