食レポ|づゅる麺池田
ゴルフクラブを選ぶように、食を吟味した。ドライバーではない。アイアンだ。意識の素振りをし、狙いを定める。つけ麺で埋めるためにできた凹凸。これは他の食事では埋めることができない。
「づゅる麺池田」に向かう途中、権之助坂の視界が開けた場所に出た。午後三時近く。遠くから太陽が顔を照らす。陽光のシャワーを浴びるようだ。意識と身体が弛緩した。理想的な前奏が体内を駆け巡る。
店先で食券機のボタンを押す。「つけ麺」を注文した。細長い空間に客は僕一人。白壁にダークブラウンのカウンター。ミニマルな作りと落ち着いた色合いのせいか、眼前へと意識が誘導される。
麺の水を切る店主。その音が食欲をそそる。短過ぎず、長過ぎない。適切な合間を取り、「つけ麺」は運ばれる。麺の表面は光を反射する。その佇まいを眼にしただけでもコシを感じた。スープは赤みのある茶色。チャーシューやキャベツなど、具が顔をのぞかせる。
スープが入った丼を左手で持ち、麺をなみなみと浸す。麺が茶色をまとう。丸みのある麺。弾力のある食感。流れるような喉越し。たっぷりと盛られた麺を見て、小さな笑顔が咲く。
鶏。野菜。鰹とサンマ節。受け売りだが、このスープにはそのすべてが凝縮されているように感じる。凹凸は魚を中心とした、この味わいを求めていた。スープを流し込む。適度な辛味が口の中に刺激をもたらす。
具を捕まえるようにして麺をスープに絡める。ラーメンにはなく、つけ麺にしかない、幸福の瞬間。丼から麺は消え、凹凸も埋まった。満たされた気がする。その感触を確かめるように、僕は権之助坂を上った。