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食レポ|おにやんま

 しなやかな美味。「おにやんま」の讃岐うどんは懐が深い。この一杯はその内へと意識を引き込む仕掛けであふれている。涼やかな口当たり。豊かな食感。適切な刺激。四季の彩りを楽しむように、眼前の一杯と向き合ってきた。

 仕事で五反田を訪れる。薄暮を迎えようとする時間帯。僕は山手線のガード下に構える「おにやんま」へと足を運んだ。

 「とり天&ちくわ天 ぶっかけ(並盛)」をいつも注文する。水色の透明なプラスチックコップに水と意識を注ぐ。つかの間のポーズ。うどんに気持ちを向けた。

 素晴らしき邂逅。雲間から登場するかのように、眼の前から丼が差し出される。存在感を発揮するちくわ天。ネギの青みは食欲を一層そそる。その脇に添えられたとり天。白く輝く麺。透き通った琥珀のスープ。

 隙間を埋めるように、天かすを上から振る。薬味スプーンですくえる最大限のおろし生姜をスープに溶かした。これが欠かせない。最後に醤油を一振り。自分自身が抱く理想と寸分の狂いもない。

 このスープは僕を安心させる。何かに包まれ、遠くに運ばれるような感覚を覚える。麺は新鮮であり、その弾力は快い。ちくわ天にかぶりつく。麺と同じく、さくさくとした衣も食感と味わいの両方で口に良質な刺激を運ぶ。ちくわ本来の香りとうまみが弾けた。

 この一杯はとり天を抜きにしては語れない。柔らかな口当たり。あふれ出る肉感と肉汁。コショウが存在感を放つ下味は僕を魅了し続ける。浮かぶ天かすがスープに染まる。スープと天かすが最後まで意識を握って離さない。

 静かに息を吐く。水で喉を潤し、店員に感謝と別れを告げた。身体を満たし、僕は桜田通りを南に歩き出した。その一歩は強く大地を踏む。


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