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食レポ|博多天神 渋谷南口店

 その場所は「外れ」と呼ぶには近く、「駅近」であることは事実だが、街の象徴からは距離を感じる。渋谷の「裏庭」が感覚に近いだろうか。十年前。仕事の合間に入った初めての訪問が記憶に刻まれている。

 早く、うまく、安い。「博多天神 渋谷南口店」は僕にとってはその三つを象徴する店だ。味の素スタジアムへと向かう隙間に腹を満たすため、半年ぶりに訪れた。

 基本の「ラーメン」しか注文したことがない。満たされなかったことは、一度としてないからだ。麺と豚骨スープの二つだけでも、僕は充分だと思う。

 奥のカウンター席へと腰を落ち着けた。厨房の盛りと外気が混ざり合う。熱さと冷たさが混濁したかのような空気に、ほんの少しの贅沢を僕は感じる。

 一分。感覚としては秒で白の丼は差し出された。アイボリーのスープは光を受けて輝く。スープの香りが鼻と食欲を刺激する。純度の高い、懐かしさも覚えるスープ。味わいが口の中で広がる。まろやか。そんな一言が頭上に浮かぶ。シンプルであっさり。しかし、中心に適度な肉気と塩気を帯びる。

 硬く茹でられた細麺。豚骨のエキスをまとった、絹のような食感。口に運ぶごとに、充足感が高まっていく。替え玉はばりかただ。辛子高菜を添えたスープにほんのりと赤みが浮く。唐辛子の味わいにより、食欲が勢いを増す。こねるように、麺をスープに絡めた。

 渋谷の裏庭に存在する、五百円の快楽。自宅の近隣にあればと願って止まない。


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