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食レポ|らーめん一郎

 瀟洒な街並みに、こぢんまりした看板がなじむ。「らーめん一郎」。潔い。その佇まいは喧騒の中にある隠れ家のようだ。地下へと通じる細い階段の先に厨房とカウンターが広がっていた。「いらっしゃい」。飾り気のない言葉が僕を出迎えてくれる。

 カウンターの中央へと腰を落ち着けた。注文した「特製醤油らーめん」の到来をしばし待つ。その瞬間はすぐに訪れる。期待した和の趣がそこにあった。自然の風合いを感じさせる白い丼に茶色のスープがよく映える。

 レンゲでそのスープをすくう。風味が体内を駆け抜けていく。その味わいは動物的であり、無限に広がる海をも連想させた。そのスープに芯が残る細麺が絶妙な調和を生み出す。「この麺は好きだ」と心が小さく叫ぶ。丸々した大ぶりのチャーシューも忘れられない。その弾力。その肉感。そのチャーシューを中心とし、青菜やメンマも異彩を放つ。しかし、それらは互いに互いを引き立てる。すべてのトッピングが他のトッピングへと線で結ばれている。そんな絵を僕は想像した。

 背後には世界に名を馳せた、イチローのバットが黒光りしていた。そんな輝きに見送られ、僕は地上へと舞い戻る。銀座の鼓動が風に乗って耳の奥へと届いた気がした。


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