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書評 #32|「サッカー」とは何か 戦術的ピリオダイゼーションvsバルセロナ構造主義、欧州最先端をリードする二大トレーニング理論

 壮大なタイトルだ。読者を魅了し、先へと誘う文体も印象に残る。その工夫に、筆者の想像力やコミュニケーション力がほとばしる。

 「奥深さ」という言葉をつい使ってしまう。しかし、それはサッカーの魅力を語る上で、最適な言葉なのだろうか。そこに僕は限界を感じてしまう。サッカーは限界がなく、宇宙のように広がり続けるからこそ、世界中の人々から愛されている。僕はそう思う。本作はその魅力の一片を世に届けている。

 無限にも近い選択肢の中で、監督を中心としたチームは戦略を築く。理想は何か。現実との乖離。選手同士や相手との相性。天候。それはサッカーを構成する要素の一部でしかない。一センチの違いが未来に変化を及ぼす。その果てしない広がりにこそ、この競技の妙が秘められている。

 その広がりを「普遍性」と言い換えれば、サッカーは一般的な仕事にも応用できる。「自己構造化」という言葉がとても印象に残った。自らの特徴を理解し、世界の中でどう生き抜いていくか。それはサッカーであれ何であれ、個人が自分を見つめ、願う形で成長していく指針であり、探求と表現しても差し支えない。

 人生は正解のない旅路だ。生きる日々の中で、正解と思う道筋を歩んでいき、現在へと至る。大袈裟かもしれない。しかし、目まぐるしい変化が起こるサッカーも、正解のない答え探しをするかのような魔力を持ち合わせている。

 そして、サッカーを愛する者であれば、監督という立場や、その視点に興味を抱いたことが一度はあるのではないだろうか。自分が監督だったら。何度も頭をかすめた思いだ。しかし、担うべき役割や実行すべきタスクを想像しただけでも、自らの常識からは逸脱しているような気がしてしまう。

 刻々と変わる世界の住人。それは大海を小さな船で冒険するような仕事なのかもしれない。そんな難儀を自分事化させてくれる。「自分が監督だったら」という思いにほんの少し、現実の色をさしてくれる。林舞輝はそんな作品を書き上げた。


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