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食レポ|むぎとオリーブ 銀座店

 久しぶりに訪れた銀座。凛とした品を乗せて、中央通りを清風が抜ける。僕たちが住む世界は様変わりした。他者との物理的交流の排除。それが新世界の掟だ。しかし、肌を流れる風のように、日常で訪れない土地に赴き、体内にも風が入り込んだような涼やかな気持ちになる。

 GINZA SIXのゆとりある空間は良質なブランケットのように僕を包み込んでくれた。日傘を差しながら、大通りを闊歩する貴婦人たちのクールな佇まいは街のスタイリッシュな趣に合う。そんな思いを抱えながら、僕は名店と名高い「むぎとオリーブ 銀座店」に入店する。

 初めて訪れた。木目の壁やテーブルの表面には街の落ち着きが沈む。「特製鶏SOBA」を注文し、突き当たりの席に座った。意識は右隣に座る客に向き、仕事と僕をつなげるスマートフォンに向き、透明な空気の隙間を埋めた。漂う意識にその一杯は重みを落とす。

 盛られた三つ葉と万能ネギが眼にも鮮やかだ。初夏の太陽を浴びた午前中の木々を彷彿とさせる。醤油の味わいが広がり、その奥底には鶏のうまみが凝縮されている。山芋の食感は新鮮であり、三つ葉の風味が鼻を抜ける。森林浴をしているような感覚を僕は覚えた。二重に重なる鶏と豚のチャーシューは静謐な森に野性味をもたらす。

 桃色のナルトは野に咲く一論の花のようであり、食における「色味」の大切さを物語る。初夏の森を抜け、僕は新橋方面へと歩みを重ねた。


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