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地道な努力で過去を知り未来を予測!「で、チバニアンって結局は何だったの?:その2」【地質応用編:No.1】

チバニアンとは「地質時代」の名前です。(※前回はコチラ
約77万年~13万年前の地球を代表する地層と国際学会で認定された千葉県の地層名(千葉セクション)から名付けられました。
ではなぜ?千葉セクションは「代表する地層」と認められたのでしょう?
(※トップ画像は千葉セクション周辺の地質図:千葉セクションGSSP提案チーム、2019より)

認められる条件とは?

チバニアン以外にも、既に「代表する地層」と認められて名前が付けられた時代がたくさんあります。

国際年代層序表

国際年代層序表:日本地質学会ホームページより

この様に沢山の時代に分けられていて、一定のルールで認定されています。

そのルールを簡単にまとめると以下の通りです。

①詳細なデータを一か所でまとめて見ることができる
 地層は長い年月をかけて泥や砂などがたまってできました。
例えば100年かけて1mm溜まる地層より、100年で1m溜まる地層の方が詳しく調べられます。
 また一か所の露頭(崖)で連続で見える方が良い。
②できた当時の状態を保っている
③多様なデータの年表がまとめられている
 地層の研究では、化石や化学成分、古地磁気などの分析で当時の環境を調べます。
 かつ、地層がどんな場所だったか?(浅い海か深海かなど)も考慮したデータを「年表」としてまとめているか?が重要になります。(※世界中の同時代の地層と比較するため)
※「年表」は専門用語では地質層序(そうじょ)と言います。
④いつでも誰でも見に行ける 

千葉セクションはこれらの条件を満たしており、さらに「この時代ならではの条件」で重要なデータが得られ、それが高い評価を受けています。


この時代ならではの条件とは?

チバニアン時代の一番の特徴は地球磁場が逆転した最後の時代(一番最近)というものです。
地球には磁場があります。そしてこの磁場は太陽からやって来る有害な粒子(太陽風)や宇宙線などから地球を守る、大切なバリアーです。
(※詳細はコチラ☟)

現在は北極がS極で南極がN極ですよね。
でも長い地球の歴史の中で、何回もS極とN極が入れ変わっています。
これを地磁気逆転と言います。

でもまだどの様に変わるのか?どんな影響があるのか?詳しく分かっていません。
地磁気逆転の予兆を察知でき、逆転する時にどんな環境変化があるか?が分かれば事前に対応できるので、人類にとって重要な研究テーマです。

ですので地磁気逆転がハッキリ分かる地層か?も条件の1つでした。

そして千葉セクションの研究では地磁気逆転時期の特定だけでなく、その前後の約1万年間に地球磁場が弱くなることが分かったんです!!
世界でこれまでなかったほどの詳細なデータでした。

これもチバニアンが認められた理由の1つです。

チバニアンのデータを基準に世界の同時代の地層との比較研究が進めば、地磁気逆転についての解明が進むでしょう。

画像2

地磁気逆転の記録が保存されている露頭写真 火山灰層が目印になる
国立極地研究所ホームページより


「人間活動」以外は同じ条件だった!

地球の環境は色々な事が複雑に絡み合って変わっていきます。
ここでは詳細は省きますが、主に
①大陸の位置関係
②太陽と地球の位置関係
によって環境が左右されます。

そしてチバニアンの時代は①、②の条件が現在とほぼ同じです。
違うのは「人間の文明活動の有無」だけです。

現在、人類活動が地球環境に影響しているのは間違いないですが、それがどの程度なのか?を知るためにも、チバニアンの時代の研究は重要なんです。

つまり、過去を知ることで未来を予測することができるのです。


地道な努力が実りました

「千葉セクションGSSP提案チーム」の代表者の1人である茨城大学の岡田教授は、実は私の大学生時代の研究室の先生です。(※当時は助手)
直接の指導教官ではありませんでしたが、古地磁気やその他色々と御指導いただきました。
当時はチバニアン云々は全く無く、房総半島の地層の年表づくりのための研究を続けていました。地道に、コツコツとデータを積み重ねる姿を間近で見ています。

層序表

地層の分析でまとめられた層序の一例(千葉セクションGSSP提案チーム、2019より)

もちろん岡田先生だけでなく、チームの他の研究者、また過去の地質学者達がコツコツとまとめた地質の年表が世界に認められ、その結晶がチバニアンなのです。

地質学は他の科学分野に比べれば地味な存在ですが、非常に重要な学問だとお分かりいただければ嬉しいです。
若者達がもっと地質学に興味を持ち、後に続いてくれることを願います。

以上、お読みいただき、ありがとうございました。


参考文献

千葉セクションGSSP提案チーム(2019) 千葉セクション:下部-中部更新統境界の国際境界模式層断面とポイントへの提案書(要約).地質学雑誌,第125巻,第1号,5–22ページ.

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