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ぶらりウィーン旅行2日目(鑑賞編)緑爺さんロイスワインバーガーについて

9月の半ば、思い立ってバスに飛び乗り行ってきたウィーン。2日目後半はこの旅の目的である緑爺さんの展示を見にいってきた。

「Lois Weinberger」(ロイス ワインバーガー)

自然や植物を用いて環境や社会問題への提起をユーモラスさを交え作品にし自然と人間を結ぶ橋渡しをしているアーティスト、詩人。個人的に緑爺さんと呼んでいる。

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「グリーンマン」2004 カラー写真

まさに緑黄色人間。彼から溢れる自然への愛とお茶目さのような物が人を惹きつけてやまない。現代芸術やコンセプトアートにあまり詳しくなかった私だが彼の存在に完全K.Oされた。

日本でも2019年にワタリウム美術館での展示やReborn art festivalへの参加もしてる。

ベルヴェデーレミュージアム

ウィーンで有名なベルヴェデーレ21現代美術館にて、彼の個展「Basic」ベーシックが7〜10月末までの4ヶ月間行われた。

ベルヴェデーレは宮殿美術館と現代美術館で敷地が分かれる。
去年訪れた宮殿美術館の方はまさに豪華絢爛だった、オーストリアを代表する芸術家クリムトやエゴンシーレの絵画や幅広い年代の作品が揃う。

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宮殿美術館から少し南に歩いた場所に今回訪れたベルヴェデーレ21がある。1985年の世界博覧会オーストリア・パビリオンのために設計、その後1962年にウィーンにおける20世紀芸術博物館としてオープンしたモダンな建物。

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© Belvedere, Wien

宮殿美術館の方とは対照的にこじんまりしておりシンプルな空間、中に入ると右手にショップ、その先にバーがある。地下のロッカーでリュックを預け、館内に入り先に一周してから入り口に戻りグループで作品を見て回れるワインバーガーツアーに合流する。

ワインバーガーツアー、とても美味しそうな響きのツアーである。

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音声ガイダンスが流れるのかと思い英語版があるか聞いてみたが、案内人の喋っている声をマイクを通してを聞くためのイヤホンだった。私の赤ちゃんレベルのドイツ語力でなんとか乗り切るしかない。むしろオーストリアがドイツ語圏でまだ助かった。

作品紹介

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「侵略」2009  多孔菌 木に勝手に生えるサルノコシカケを思い出す。

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「スカルプチャー」2020 靴底、低木、砂利

人間が作った製品である靴底がまるで葉や果実であるかのように植物によって運ばれている。

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奥 グリーンマン 2007 アクリル/ 手前 グリーンマン 2010 ごぼうの花

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「研究所-ハッピーサイエンス-」1991-2020 木の机の上の文明のゴミ、瓦礫、植物

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「リーフトリップ(葉の旅)」 2009年ヴェネツィアビエンナーレ、オーストリアパビリオン

巨大な廃棄植物が腐葉土に変化していく山。時間経過とともに多様な因子により形を持たず崩壊、変化していく不確定な自然を表す作品。世界最大のアートの祭典で出展しているのがシビれる。アートの空間は「良い地球を作る」場所(文化的行為)を反映していて、そこでは錬金術のプロセスのような何かが起こっているという。題名が「葉の旅」なのが絵本のタイトルのようで可愛い。

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制作中の映像ではゴミ袋にパンパンに詰め込まれた腐葉土がトラックの荷台にたくさん乗せられ運ばれてきて、本人が「これ1袋50€(6500円)だよ、50€、こんなにあるよ、参っちゃうよ、アーティストなんて金がないのにさ〜」としきりにぼやいていた。

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「移動する庭」1994-2020 "移民が使用するビニールバッグ”、地球、自生植物

ヨーロッパと移民問題の関係は深い。移民が荷物を運ぶためによく使用されるのが大きく耐水性があり安価なビニールバッグ。そのバッグに土を入れ、風や鳥が運んだ植物が勝手に自生していくのがこの作品。 作品の材料の一つに"地球”が入っているのがかっこいい。

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「ワイルドキューブ」1991, 2011  リブド鋼でできた人里植物の囲い

現代の美術館やギャラリーの真っ白な立方体展示空間を「ホワイトキューブ」という。その言葉をもじって「ワイルドキューブ(野生の立方体)」ともじっているところがキュート。

鉄で囲まれた園、人間はそこから締め出され動植物の亡命の場となる。動物や風によって運ばれた自生植物が囲いの中で優雅に揺れる。2011年にこのベルヴェデーレ21に設置されたが、自生植物が育つまではなかなか大変だったという。とはいえ人間の手入れは不要なので見守るしかできない、生えるも枯れるも自然次第。そんな作品。

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「デブリスフィールド」

ワインバーガーの生まれ育った実家から出てきた1000点を超えるモノ達。彼の実家はオーストリア、チロルにあり農家を営んできた。何世紀にもわたる歴史溢れる農具や衣服、猫のミイラなど実家から出てくる様々なものたち。

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  グリーンマン 2020 水彩

グリーンマンシリーズ最新作。

グリーンマンとは?

いくつものグリーンマンシリーズを残している緑爺さん、ピッコロ大魔王を連想させるお茶目さがある。最初は単純に緑×人間という意味かと思っていたが、どうやら「グリーンマン」という言葉は中世ヨーロッパの美術や建築で用いられていたモチーフという認識がヨーロッパにはあるらしい。

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キュレーターのSeverinDünserは二つの物語を照らし合わせて作品解説をしている。

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カフカの変身やギリシャ神話から引用し、自然と文明の衝突、具体化を引き合いにグリーンマンの作品の深みを出している。現代美術のキューレーターとはとんでもない知識と引き出しと感性を持っているんだなともはやキューレーターに脱帽。

そのほかにも沢山の作品があり、閉館まで1人で作品をぼーっと眺めた。

最後の展示Basic

今回のベルヴェデーレ21での展示は2018年秋から計画が進んでいたらしいのだが、ロイスワインバーガーは2020年の4月、心臓の病気で急遽帰らぬ人となった。その後彼とともに制作を支えてきた奥さんが美術館と手を組み今回の展示を完成させた。これは追悼展ではなく彼の最期の展示であった。

急すぎる死、自然と文明社会を考えてきた彼が最期の時何を考えたんだろう、ゆっくりと自然の一部である死というものと向き合った場合の彼の作品も見てみたかったなあと思う。

彼の作品に浸り、彼が住んでいたウィーンの地で森を歩き、私が自然に対して感じている何かに一歩近付けたように思う。

今回のBasic展が分厚い本にまとまっているので購入して翻訳しながらゆっくり読み進めている。

最後にいくつか彼の詩を残しておこうと思う。  

at night a shadow followed me
the moon kept shining indifferent
-夜、影が私を追いかけ、月は無関心に輝き続けた-
I have seen animals being born seen how they lived and how they died
I have seen everything
-私は動物がどのように生き、死ぬのか見てきた 
私は全てを見てきた-
when it comes to us every life is revolution
subversive and expansive
two meters toward the morning four meters toward the afternoon six meters toward the evening
there is nothing to understand
-私たちに関していえば
すべての人生は革命である
破壊的で広大
朝に向かって2メートル午後に向かって4メートル夕方に向かって6メートル
理解することは何もありません-
I-weed YOU-weed HE-weed SHE-weed IT-weed WE-weed YOU-weed THEY-weed
- 私-雑草 -