見出し画像

ロシアの落下傘兵の体験記「ZOV」 : クリス・オウエンのツイートから: パート(6)最終回-ロシア軍の問題点

最終回となるこのパート6では、元ロシアの落下傘兵パヴェル・フィラティエフの回顧録をもとに、ロシア軍の現状とウクライナでの成績がなぜ悪いのかについての彼の解説を見ていこうと思います。何が間違っていたのか、内部からの視点が参考になる。

全文リンク

フィラティエフが戦前、クリミアの第56親衛空襲連隊で過ごした6カ月間の訓練について語るパート1。リンク

2月24日の侵攻開始直前と直後をカバーするパート2はこちら

パート3では、組織化されていないウクライナの抵抗に直面し、行き当たりばったりで無秩序なロシアのへルソン占領を強調している。リンク

パート4では、へルソンの占領が始まり、ロシアがミコライフとオデーサを奪おうとした時のフィラティエフの体験が語られている。リンク

パート5では、フィラティエフが病院に避難し、141ページに及ぶ痛烈な手記を発表して戦争に反対する決意を固めたことを取り上げる。リンク

回想録にあるように、フィラティエフは30年近く同じ部隊、第56親衛空襲連隊(旧旅団)と関わりを持っていた。彼の父親は、第2次チェチェン戦争(1999年~2009年)で、チェチェンの分離主義者と戦い、勝利した時に、この部隊に所属していたのである。

フィラティエフは、「質的にも根本的にも異なる軍隊であった」と正しく書いている。現在のロシア軍とは異なり、主に徴兵制の軍隊だった。2007年から2012年にかけて国防大臣アナトリー・セルジューコフが抜本的な改革を行い、軍隊の性質が変わった。

セルジューコフの最も重要な改革は、将校団の規模を大幅に縮小し、軍管区の数を減らし、大規模な徴兵制から小規模な契約兵への転換によって、ロシア軍の専門化を図ったことであった。

2012年、プーチンはセルジューコフを汚職事件で解任し(リンク参照)、代わりに現国防相のセルゲイ・ショイグを起用したが、彼はそれまでの改革をいくつか取りやめた。軍部の腐敗はショイグの下で著しく増加した。

フィラティエフは、2007年から2010年、そして2021年から2022年にかけて再び従軍し、改革の前と後の軍隊を経験した。「当時は全てが完璧と言う訳ではなかったが、12年経った今、当時の兵役はずっと(真剣に)扱われていたと理解している。」

「俺は子供時代を15まで56部隊で過ごしたが、17年経った今、全てが......変わり、かつての空挺部隊との共通点は何もなくなった。人は変わり、輝きは失われ、目の輝きも消え、今は名前だけが残っている。」

比較的高給取りの契約兵と、低賃金で酷使される徴用兵の間に、激しい亀裂が走っていた。「契約兵は掃除をしろという命令を無視することが多く、徴用兵は草刈りや無駄な運搬をさせられている」。

2021年に再入隊したフィラティエフは、兵舎のベッドが使えず、制服や靴も軍から支給されず、自分で買わなければならないなど、多くの物流上の問題を経験した。彼の訓練は "紙の上 "でしか行われなかった。

「ほとんどの軍人がアメリカやヨーロッパのモデル、更にはウクライナのものまでも買って着替えていることからもわかるように、我々の弾薬や制服は快適ではなく、品質も悪い」とフィラティエフは書いている。

ウクライナに出征した時、彼の部隊には古い車両や、途中で故障して放棄された機材が装備されていた。錆びて壊れた機関銃を渡され、ブレーキの効かない弾薬トラックで国境を越えたが、途中でクラッシュした。

「我々の装備は絶望的に時代遅れだった。UAZ(車)やウラル(トラック)、BMD-2、機関銃、自動擲弾筒など、全て50年前に使われていたものだ!」と。50年前だ⁉︎もちろん、それらは素晴らしい車両や兵器たが、もう50年も経ってるんだ!」

「戦術もまだ祖父達と同じだ! 祖父と同じ戦術なんだ! 我々はUAZで戦場に送られた空挺突撃大隊なのに!」フィラティエフは、軍隊やその装備を盲目的に賞賛することは、単に「自滅」につながると言う。

フィラティエフは、ウクライナ南部の塹壕で1カ月間、休む間もなく砲撃され続けた。(一方、第一次世界大戦では、西部戦線のイギリス軍が最前線の塹壕にいるのは平均4日間であった。)

驚くには値しないが、彼はこう結論づけた。「トップは我々のことなど気にかけていない。奴らは俺達が奴らにとって人間じゃなくて、家畜と同じ扱いをした。」彼は「我が軍のひどい腐敗と混乱、道徳的・技術的な陳腐化」のせいにしている。

フィラティエフは、「20 年間、軍事機関は賄賂と汚職によって侵入されて来た。軍に仕えた最も思想的で立派な人間の多くは、体制と戦っても無駄だと悟って、軍を去っていった」と書いている。

「出世はコネと体制への忠誠心で決まる。今の軍隊では、問題を起こさないためには、たとえ全く無意味なことを言われたとしても、言われた通りにしなければならない。」

「軍事研究所のシステムや将校の階級制度は時代遅れになっている...。将校はいまだに徴兵制の軍隊の運営方法を教えられており、若い将校は契約兵より年上のことも多く、プロフェッショナルな軍隊の運営方法は教えられていない。」

「本当に有望で進取の気性に富んだ契約兵士が出世するためには、どうしたらいいか?方法はない!」

「学校(義務教育)の後、軍事研究所に行き、21歳の陸軍中尉として入隊し、官僚主義、混乱、屈辱の地獄サイクルを100周しなければならない...。」

「...中隊長になり、副大隊長になり、また地獄の繰り返し。だから、大量の将校が脱落して去っていくんだ。」

「より高いランクに到達した者は、自分の地位に座って歯を食いしばり、反抗しない。そうやって多くのことに耐えて得た地位だ。そうしてる内にも、(この腐敗)体制が自分自身を食い潰してるは、奴らが声を上げないからだとは気付かない。」

「こんな状況で、強くて結束力の強いチームを作るのは不可能だ......。」このシステムは、最も有望で、最も強く、最も賢い者を昇進させるのではなく、それに適応できる者が(好まれ)、上に行けば行くほど、より汚くならなければならないのだ。」

フィラティエフは、「こうした多くの理由から、本当に有望で軍隊に興味のある人の多くは、(代わりに)民間軍事会社、つまりワーグナー・グループのような傭兵組織に行っている」と書いている。

また、戦場での将校の指導力についても厳しく批判している。「俺の戦場での記憶では、全てのくだらないことを普通の契約兵がやらせている間、多く(の将校)は酔っぱらって普通の要塞に座り込み、兵士の引率に悩んでいるような将校はいなかった。」

軍を牛耳っている腐敗したキャリア達に責任がある、とフィラティエフは言う。「内部から全体の混乱を見ている者達は、自分にも周りにも、悪いことばかりではないとうそぶく。奴らは(戦う)動機が違うし、引退まであと少ししか時間がない・・・」

「典型的な指揮官は、肩に大きな星をつけて、そのために一生を費やし、常識を無理矢理押し殺し、この腐ったシステムの中で出世するためなら、何年でも何にでも耐える。」

陸軍はまた、戦地にいる自軍の兵士の面倒を見ることもしなかった。兵士達は、食料も医薬品もなく過ごしていた。彼が(戦場を)脱出した時には、死と病気と傷で「連隊の半分以上がいなくなっていた。」

それは、「安全や、食べたり飲んだりするものを誰も気にかけてくれない戦争」だった。家族や友人から送られた小包が盗まれることもある。人道的援助が前線に届かず、全ての(価値のある)物資は第二線(後方)にある司令部に集まる。」

「ある男が行方不明になったが、その男が死ぬのを見たという目撃者が名乗り出ても誰も気にしない。親族が補償されず、多くの負傷者や病人が補償や保険を拒否された。」

勇敢な行動が認められないことが多かったと、フィラティエフは言う。「賞は与えられるべき人に与えられるとは限らない。我々の連隊では、死後にしか表彰された人はいなかった。」

多くの国では、兵士には「軍事協定」が保証されている。国のために命を捧げるという兵士の意思を認め、国が彼らのニーズとその家族を見守るという協定だ。しかし、ロシアではそれがないように見える。

フィラティエフは苦々しくこう締めくくった。「こんなことになるとは思わなかったが、この戦争で、奴らは我々の死体をウクライナに投げつけることに決めただけだし、女達はまだもっと(子供を)産むだけだろう」 /終


ロシア語の本文へのリンク
CNNで紹介された記事 リンク






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?