だめだめホテルマン、タハラ君から教わること
タハラ君(仮名)とは、私が2年あまり働くビジネスホテルでの後輩です。
タハラ君は、
とんでもなく不器用。
だから先輩達に呆れられてる。
だけど腐らない。
ホテルマンとしてのやる気が誰よりも熱い。
今日もゴールデンウィークの満室で大忙しの中、やる気満々にミスを連発していました。
でも、私はそんなタハラ君から教えてもらうことが多いです。
タハラ君は23歳。
社会人としてはまだまだ初々しい、線の細い男の子です。
とても熱心だけど、力の入れ具合がズレているということは、面接に20分も前に来ちゃった時点で何となくわかっていたこと。
でも若いし、やる気あるし、何より男性スタッフ不足なので、すんなり入社してきました。
あれから1年、彼はいまだに研修バッチをつけたままです。
通常、入社3ヶ月くらいで自分の名前のバッチになるので、1年も研修バッチは長すぎる。
悲しきかな、彼はこの職場の諸先輩方に、ふわっと見放されているのです。
私がこのホテルの職場環境を観察してきたところによると、新人研修が「なーなー」です。
全国に70店舗以上展開していて、しかもまぁまぁ複雑なシステムを使うのに、専任の研修トレーナーがいるでもなく、かといって完全なマニュアルが揃っているでもない。
そう、主に口頭伝承です。(何時代!?)
教える人はピンキリ。
それに、大学生のアルバイトだろうと、私のように同業種経験者であろうと、同じ教え方です。
そのため、この職場において、誰に教わるかはもちろん、新人の「教わるスペック」も重要。
新人の最初のゴールは「チェックインがひとりでできるようになること」で、大体1〜2ヶ月。
それ以降は、内線対応(客室からの電話対応)、そして、外線対応(外部からの電話対応)ができるようになれば、研修バッチが外せます。
タハラ君は、チェックインができるようになるまでが長かった。
なぜなら彼は、研修をしてくれていた先輩を何人もキレさせたからです。
(大きな声では言えませんが)普段から短気な先輩たちが多いとはいえ、タハラ君も教わる態度が良くなかった様子。
でも、教え方が上手な先輩のときはタハラ君も素直なので、相性もあったのかと。
私は短気な先輩に対して上司が動くと期待していたのですが、なんと動かず。
(そうだ、この職場のベースは「事なかれ主義」でした)
そして、短気な先輩達は匙を投げました。
タハラ君の研修を放棄したのです。
電話対応の研修もうやむやにされ、雑用ばかり押しつけられるタハラ君。
果敢にチェックインに挑みますが、その熱心さはスルーされ、ミスがあると吊し上げられています。
私が「でもやる気がすごいですよねぇ」と味方をしようもんなら、「あなたはタハラ君とそんなにシフトも被っていないから分からないのよ」と牙をむく先輩方(おぉ怖い!)
気の毒なタハラ君。
私だったら病む。
彼はもう病んでいるだろう。
そう思っていました。
が、タハラ君はめげていませんでした。
雑用を言いつけられると、
「かしこまりました!」
「まかせてください!」
「もちろんです!」
と、良く通る声で返事をする。
フロントにお客様が見えると、
「こちらで承ります!」
と、前のめりに手を挙げる。
自分が教わった業務(雑用)は率先して片付ける。
先輩に何か教わったり、サポートを受けたら、どんな小さなことでも必ずお礼を言う。
研修をしようと言われるのを待つのではなく、「今日、お時間あるときに研修をお願いします」と自らお願いする。
「最近、僕の処理のミスはなかったですか?」と、聞いてまわる。
愚痴らない。
悪口も言わない。
すごいなぁ・・・
そして、私が最もグッときたのは、ある業務について。
「インスペクション」と呼ばれる、客室の清掃チェックをする業務が毎日あるのですが、これが地味なのに結構大変で、でも大事な業務。
不備を見つけると、チェック表に印をつけて、清掃さんに提出するのです。
その業務を、ほぼ毎日タハラ君が担当しています。
ある日、私が調べ物をするために、そのインスペクションのチェック表を見たとき、なんとタハラ君が備考欄に、
と、毎回書いているのを見つけたのです。
そうです。清掃さんにとって、インスペクションというものは、揚げ足をとられるというか、重箱の隅をつつかれるというか、まぁ良い気持ちにはならないものです。
それをまさか、何も褒められることのない、いつも怒られてばかりのタハラ君が・・・
タハラ君は、実は誰よりも達観しているのかもしれない。
仕事はできるけどやる気のない人と、
仕事はできないけどやる気のある人。
仕事はできるけど怖い人と、
仕事はできないけど誰にでも誠実な人。
一緒に働いていて楽しいのはどちらも後者です。
私も、「仕事熱心だけど周りに気を遣わせるような人」だったので、こんなこと書いていて心が痛みますが、我が身を振り返らせてくれるタハラ君と先輩たちに、感謝しようと思うのでした。
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