【短編】男友だち

どうして友だちなんだろう…

出会いかたの問題なのか、それからの付き合いかたの問題なのか、彼とは友だちだ。

もう10年ほどになるだろうか。
ひょんなことから出会い、たぶん出会った当時、彼には下心があったと思われる。
自惚れではなく、何度かそういうことを言われていたし、体を寄せてくることもあった。
その雰囲気を壊していたのは私、だ。

彼には奥さんがいる。
出会ったときから知っていたから、私の中でブレーキがかかっていた。
だから、そういう雰囲気になりそうなとき、わざと話をそらしたり、体を外したりしていた。

そのうち私に彼氏ができると、彼も諦めたようで、そういうことが望まれなくなっているのを感じていた。

なんだかビジネスでの付き合いみたいだな…
そう思いながらも、時間が合えば、会ってお酒を飲みながら、楽しい時間を過ごしていたが、お互いの仕事が忙しくなるとその回数も次第に減っていった。

つい先日、仕事でつらいことがあり、かなり落ち込んだ。
これまでも人生の岐路で、彼に相談をしてきたので、いつものように彼にメッセージした。
女友だちと違い、ニュートラルにものごとを捉え、一時の感情ではなく、長いスパンで判断するように導いてくれたし、人との関係を大切にする価値観を持つ彼のアドバイスを信頼していた。

週末を前にした金曜日のランチタイム。
立ち直れずにうじうじしていると、ケータイが震えた。
「近くまで来ているんだけど、今日、どう?」

夕方4時を少し過ぎた駅前広場は学生たちでごった返していた。
直接会うのは何か月ぶりだろうか。
少しだけウキウキする気持ちを抑えて、待ち合わせ場所に急ぐと周りを見渡した。
相変わらず垢抜けたファッションで、すぐに彼だとわかった。
「久しぶり…」
なんとなくぎこちなく言葉を交わして、目線を外すと、偶然にもすぐ近くに職場の同僚がいることに気がついた。
向こうも気づいたようで、急に電話をかけはじめて遠ざかっていった。

不倫だな…
金曜日とはいえ、平日の午後4時過ぎだ。
就業時間内にこんなところに来ているなんて。
私も同じ穴の狢か…
否、私は"なにも"悪いことはしていないし、しようともしていない。
そういうと嘘になる、かな。

それから、近くの観光地まで歩きながら話をして、早めの夕食に地元名物の店に入って向かい合った。

「実は少し心配だったから、声かけたんだよね」こういうところが憎い。
男っぽくて、亭主関白なタイプだけど、実は繊細で思慮深く、相手への配慮を忘れない。

それから、彼の慰めのことばが続いた。
彼の話は、もとい、声が心地よかった。

たぶん、私はこの声が好きなんだ。
こう弱っていると、うっかり雰囲気に流されてしまいそうだな…
そういうときに限って、彼はあくまでも自分が「マジメ」であることをアピールし、隙を見せない。

「友だちでも、こんなに長く続いてる人って、いないかも」

友だち、かぁ…

夜景のきれいなバーに移っていた。
この青いカクテルの名前はなんだったかな…そんなことを考えていた。


※あくまでフィクションです。実際のできごとではありません。





※これはフィクションです。実際に起きたことではありません。


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