「Jターン犬」のモーニングルーティーン
1.シティ犬からローカル犬へ
我が家には、犬がいる。雌の黒い柴犬、なつめだ。彼女は、昨年から私たち家族と地方で暮らしている。彼女は、北海道で生まれ、生後しばらくの間、ブリーダーに育てられ、東京に住んでいた私の叔父に引き取られた。2年間を東京で過ごした後、岐阜県にやってきたのだった。彼女は、今年4歳にして、都市と地方を行き来した経験を持つ、「Jターン犬」だ。
Jターン:地方で生まれ育った者が、都市(三大都市圏)へ移住し、その後生まれ育った地域でない別の地方へ移住すること。ー『国土交通白書2015』より抜粋
なつめは、約2年間を東京という場所で、私の叔父と2人で暮らしていた。彼女の暮らしといえば、東京の街を散歩し、公園で開かれる「わんこの会」に出席したり、叔父と一緒に深夜にコンビニに行ったりと、まさに「シティ犬」として堂々とシティライフを送っていたようだった。彼女は、叔父が会社を設立してから、叔父と一緒に事務所にも通っていたこともあり、人間同様のライフサイクルを体感している。それゆえ、彼女は、犬のようで、人間(の子供)のような、そんな素振りや反応を見せる生き物である。
2.ローカル犬の暮らし
なつめは、ローカル犬としての暮らしをスタートさせる。地方に移住したばかりの当時、彼女は慣れない音や匂いに過敏になっているようだった。例えば、田んぼから聞こえるカエルの声、夜に現れる鹿などの動物の気配等。彼女は、北海道で生まれているとはいえ、東京で過ごした期間が長く、物心ついたときには東京での生活を送っていたシティ犬だ。それゆえ、地方の豊かな自然や多様な生き物たちに過度な興奮を覚えていたのだろう。
また、彼女は夜中に散歩へ行きたがった。東京で暮らしていた当時は、叔父に連れられて、夜中にコンビニへ行くこともあったという。一方、地方では、まず徒歩でコンビニに行くことは不可能だ。そもそも夜中に出歩くことは、野生の動物に遭遇する危険性もある。さらに、地方に住む私たち家族には、夜中に出歩くという生活習慣が無かった。したがって、私たち家族側が諦めて、渋々彼女を夜中の散歩に連れて行ったこともある。
彼女にとって、2020年は大きな変化が起きた年であったに違いない。(そもそも彼女・犬が時間を認識するのかどうかはわからない。また、私たち人間だって時間は存在すると認識して生活しているものの、時間が本当に存在するのかはわからないところである。)彼女は、自分の意思とは無関係に、同居人・飼い主、住む場所、生活習慣の強制的な変更と別れを余儀なくされ、それに適応することを求められたのだ。そう思うと、なんだか可哀想だなと思えてくるが、それでも彼女は今を楽しく生きている。少なくとも、家族の1人である私には、そう見えるのだ。
3.ローカル犬のモーニングルーティーン・水浴び
なつめは、毎朝5〜8時の間に1時間ほど散歩する。彼女としては、毎朝2時間くらい歩きたいようだが、家族の都合で1時間になることがほとんどだ。彼女は、毎日とても元気で、家族の中で一番に目が覚める。特に、よく晴れた日は、散歩に行くことが待ちきれないようで、家族を順番に起こしに来る。一方、雨の日は一番遅くまで寝ようとする。私たち家族はそんな彼女を「やる気が無い」と表現するのだが、雨の日は、本当にやる気の無いグウタラな犬に成り変わるのだ。
彼女は、散歩のときに、大抵家の近くにある川に水浴びに行く。春から秋頃までは、川に入っても気持ちの良い温度だ。彼女は、足首を川の水にくぐらせて、川の中を散歩したり、川の水を飲んで水分を補給したりする。時々、川の中を水蛇が泳いでいるから、要注意だ。
また、彼女は川辺を散歩するのがとても好きそうだ。歩くたびに左右に触れるおしりと尻尾を見ていると、脳内で「ルンルン」というテロップや楽しげな効果音を入れたくなるほどだ。川辺には、雑草が生えており、生き物が住んでいたり、キャンプやバーベキューに来る人々がいたりする。生き物好きな彼女には、楽園である。
川を訪れる人々や地域の人々に可愛がってもらっている、我が家の犬・なつめ。彼女の人生には大きな変化があったものの、今を幸せそうに暮らしている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?