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インスタグラムを使うヴィオレッタ!?ヴェルディ作曲現代版「椿姫」をウィーン国立歌劇場で観劇してみた

音楽の都・ウィーン。筆者は、音楽を専門にしているにも関わらず、一度も訪れたことがなかった。

インターネットでウィーンについて調べても、ウィーンに関する本を読んでも、どこにでも"音楽の都"と書いてあるが、実際のところどんなに素晴らしい街なのだろうかと興味津々であった。
ヨーロッパ内では、ワクチンの普及により、新型コロナによる移動や観光等の様々な制限がかなり緩和されてきた(2021年9月時点)ので、先月9月にコロナ後初・約1年半ぶりに飛行機に乗り、筆者在住のミラノからオーストリアのウィーンに向かった。

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結論から言うと、やはりウィーンは、街中どこにでも音楽が溢れた"音楽の都"であった。筆者自身、ヨーロッパの大都市をいくつか回り、主に文化・音楽について注目して見てきたが、ホールやコンサートの数も多く、ウィーンは別格のように感じた。

今回・次回の記事は、ウィーンの音楽事情について取り上げる。

前編: ウィーンの中で一番有名な歌劇場(オペラ座)である「ウィーン国立歌劇場(Wiener Staatsoper)」
後編: ニューイヤーコンサートでも知られる「ウィーン楽友協会(Wiener Musikverein)」

筆者が実際に現地で撮影したウィーンの街並みの写真を交じえながら書いていこうと思う。

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ウィーンの歌劇場・コンサートホール

ウィーンは、モーツァルトベートーヴェンシューベルトなど、数多くの作曲家が活躍した。そして、世界でも名が知られる歌劇場・コンサートホールも存在する。挙げ出したらキリがないのだが、今回は代表的なものだけを取り上げる。

●ウィーン国立歌劇場/ ヴィーナー シュターツオーパー(Wiener Staatsoper )
世界で最も有名な歌劇場の一つ。

ウィーン・フォルクスオーパー (Volksoper Wien)
主にオペレッタ・ミュージカル・バレエ公演やコンサートの会場として使用される。ウィーン国立劇場に次いで2番目に大きな劇場。劇場名の「Volksoper」は「大衆オペラ座」のような意味である。

●ウィーン楽友協会/
ヴィーナー・ムジークフェライン (Wiener Musikverein)  
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地。大ホール (Großer Musikvereinssaal グローサー・ムジークフェラインスザール)は、毎年ウィーンフィル・ニューイヤーコンサートが開催される場所である。

●ウィーン・コンツェルトハウス (Wiener Konzerthaus)
 ウィーン交響楽団の本拠地。

●アン・デア・ウィーン劇場 (Theater an der Wien)
1980年代からはミュージカルの舞台として役割を果たしたが、2006年より再びオペラが上演されるようになった。

●ローナッハー劇場 (Ronacher)
1872年に「ウィーン市立劇場」として設立。現在はミュージカルの魅力的な大舞台及び最新の技術を誇る劇場である。


ウィーンの演奏団体


また、これらの歌劇場・コンサートホールを支える演奏団体もまた、数多く存在する。ニューイヤーコンサートで知られるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は、日本でもご存知の方が多いのではないだろうか。

●ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団/ウィーン・フィル (Wiener Philharmoniker))
ウィーン国立歌劇場のオーケストラであるウィーン国立歌劇場管弦楽団(6管編成・150名ほど)の団員から選ばれたメンバーによって構成されたオーケストラ(5管編成・120名ほど)である。数あるオーケストラの中でも最も有名なオーケストラの一つである。本拠地はウィーン楽友協会大ホール。毎年元日にはマチネーでニューイヤーコンサートを開催する。

●ウィーン交響楽団 (Wiener Symphoniker)
1900年、オーストリアの指揮者・フェルディナント・レーヴェによりウィーン演奏協会管弦楽団(Wiener Concertverein Orchester)として設立された。本拠地はウィーン・コンツェルトハウスだが、ウィーン楽友協会でも相当数の演奏会を行っている。

●トーンキュンストラー交響楽団 (Tonkünstler-Orchester Niederösterreich)
ニーダーエースターライヒ州の州都ザンクト・ペルテン及びウィーンを活動拠点とするオーケストラ。正式名称にNiederösterreichとある通り、ニーダーエースターライヒのオケであると明確に名前に刻まれている。日本では、ウィーン・トーンキュンストラー交響楽団という呼称で呼ばれるが、それは日本のみである。


●ウィーン放送交響楽団 (Radio-Symphonieorchester Wien)
オーストリアの首都ウィーンを本拠地とする、オーストリア放送協会(ORF)所属の放送オーケストラである。レパートリーは古典派から現代音楽まで幅広く、特に現代音楽に強みがある。毎年10月、ウィーン・コンツェルトハウスで映画音楽をオーケストラが演奏する「ハリウッドinウィーン」を行っている。


●ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団 (Volksoper Symphonieorchester Wien)

ウィーン・フォルクスオーパーの付属オーケストラ(Orchester der Volksoper Wien)の別名。1978年からコンサート時の名称を現在名としている。例年年末年始に訪日し、サントリーホールのジルヴェスターコンサートにも出演する。

●ウィーン室内管弦楽団 (Wiener Kammerorchester)
オーストリアのウィーンを本拠地とする室内オーケストラ。


●ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス (Concentus Musicus Wien)
1953年に指揮者・ニコラウス・アーノンクールとその妻アリス・アーノンクールを中心としたウィーン交響楽団のメンバーによって設立された古楽器オーケストラ。


●アルバン・ベルク弦楽四重奏団 (Alban Berg Quartett)
1970年にオーストリアで結成された現代最高の弦楽四重奏団の一つ。ウィーン音楽大学教授でウィーン・フィルのコンサートマスターも務めていたギュンター・ピヒラーが同僚と結成。ウィーンの伝統を守りつつ、演奏会では必ず20世紀の曲も取り上げるポリシーを掲げていた。2008年限りで解散。




ウィーン国立歌劇場とは?

ウィーン国立歌劇場/ ヴィーナー シュターツオーパー(Wiener Staatsoper )は、世界的に最も有名な歌劇場の一つである。1920年まではウィーン帝立・王立宮廷歌劇場(k.k. Hof-Operntheater–Neues Haus)と呼ばれていた。


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(Wikipedia より)

ウィーンはドイツから北イタリアを支配していたハプスブルク君主国の首都であったこともあり、ドイツ・オペラのみならずイタリア・オペラにとっても中心的存在であった。積極的な上演活動により、世界のオペラをリードする位置にのぼり、現在に至っている。
しかし、モーツァルトの時代には間に合わなかったり(着工1863年、竣工1969年)、その後ドイツオペラをリードしたヴァーグナーやリヒャルト・シュトラウスの初演拠点にもならなかったりしたことから、有名作品の初演歴という点では他国の劇場に一歩を譲っている。


ウィーン国立歌劇場の専属オーケストラであるウィーン国立歌劇場管弦楽団が、世界でも一、二の人気を争うオーケストラであるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の母体である。

●ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団/ウィーン・フィル (Wiener Philharmoniker))
ウィーン国立歌劇場のオーケストラであるウィーン国立歌劇場管弦楽団(6管編成・150名ほど)の団員から選ばれたメンバーによって構成されたオーケストラ(5管編成・120名ほど)である。数あるオーケストラの中でも最も有名なオーケストラの一つである。本拠地はウィーン楽友協会大ホール。毎年元日にはマチネーでニューイヤーコンサートを開催する。

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(公式ページ より - なんと日本語に翻訳されている)

ちなみに...
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は、英国「グラモフォン」誌や日本「レコード芸術」誌のオーケストラ・ランキングでは常に3位以上を維持している。


ウィーン国立歌劇場管の歴代の総監督には作曲家であるリヒャルト・シュトラウスやグスタフ・マーラーも就任している。その他の総監督もその時代を代表する指揮者であり、世界から注目される劇場である理由が分かる。

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(グスタフ・マーラー Wikipediaより)

歌劇場収容人員は2280人で、オペラシーズンは9月〜翌年6月であるが、注目すべき点としては、「レパートリーシステム」を採用しているという点である。

レパートリーシステムとは?

フランス語の「レペルトワール」Répertoireを使うのが普通である。ミラノ・スカラ座などは一つの演目を1~2週間繰り返すやり方の「スタジオーネ・システム」を採用しているが、「レパートリーシステム」では、演目が3~4日ごとに変わる。
これはオペラが貴族の独占的な楽しみであった時代と違い、新興ブルジョワジーが観劇するようになって増大した需要に応えるためだったそう。
参考: 野村三郎『ウィーン国立歌劇場』「第一章 レパートリー・システム」


また、オペラチケットの販売だけでは赤字であるので、会費または寄付の額によりメセナ会員スポンサー会員後援会員その他の一般会員からなる「友の会」があり、会員になるとプレミアのゲネプロ鑑賞や、入場券の優先販売、年報発行配布など様々な特典がある。これら会員の会費、寄付によって赤字圧縮につとめているそうである。2002年にはトヨタ・レクサスのメセナを獲得した。

メセナ(フランス語でmécénat)とは...
企業が主として資金を提供して、文化・芸術活動を支援すること。

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歌劇場のチケットは度々売り切れるのだが、パブリック・ビューイングが無料で屋外公開され、潜在需要を掘り起こすことに役立っているそう。

ドイツやオーストリアのオペラ座は、イタリア国内の劇場に比べ、ハードなスケジュールであると聞くが、先に挙げた様な「レパートリーシステム」を始めとする、様々な取り組みによるものであると分かった。音楽家にとっては、負担が大きい印象を受けるが、ビジネスとして成り立たせようとする姿勢は、やはり世界を代表する歌劇場、と言われる所以なのだろうか。


ヴェルディ作曲の現代版《椿姫》をウィーン国立歌劇場で鑑賞!

筆者のウィーン滞在は、オペラ公演が開催されている期間を選んだのだが、今回はヴェルディ作曲の「椿姫」を観劇することができた。筆者が実際に撮影した写真とともに、ウィーン国立歌劇場の外観・内観、公演の様子をご紹介していきたい。

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(ウィーン国立歌劇場の外観。ライトアップされ、素晴らしく綺麗な建物。)

まず、入り口を入ると美しいホワイエ。天井の装飾や照明、スタッフの無駄のない動きが印象的である。

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以前ザルツブルク音楽祭に行った時にも感じたのだが、オーストリアの劇場では、イタリアの劇場より、よりフォーマルな服装をしている人が多い気がする。このことが、この歌劇場の雰囲気をよりエレガントにしている様に感じた。

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今回の座席は、最上階の下手側(舞台を正面に見て左側)だったので、正面の階段ではなく、脇の階段から歌劇場の中へ。

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途中マーラーの名前がついたSaal (直訳すると「部屋」)も発見。

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9月18日夜公演だったのだが、夜は肌寒かったので上着を着て行ったため、クロークへ。俊敏な動きでみるみるうちに対応しているスタッフの方に感動。

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学生と思われる若い世代も多数。ドレスアップして、とても華やかだ。

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いよいよ席に到着。上品な赤の椅子に、演目の台本が上演中に表示されるミニスクリーン。今回の公演は、イタリア語の公演で、英語とドイツ語のみであったが、日本語が表示される時もあるそう。

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そして19時に開演。

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上演中の写真は残念ながらないのだが、今回観劇した「椿姫」は、現代版の演出であったので、主人公のヴィオレッタがインスタグラムやWhatsapp(ヨーロッパではよく使われるLINEの様なメッセージツール)で、アルフレードと連絡を取り合ったり、オンライン銀行の残高が大型スクリーンに映し出されたりと、驚きの数々だった(現代演出には賛否両論がありそうである)。

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(公式ページより)

しかし、歌手も素晴らしく、個人的にやっと来ることが出来たウィーンでオペラを見たことは、大変感慨深かった。

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休憩中には、歌劇場の中を探索して見たのだが、どこを切り取っても素晴らしい建物で、ため息が出てしまう。

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2回の休憩を挟み、22時に終演。後ろ髪を引かれながら帰路に着いたのであった。

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終わりに

今回は、ウィーン前編として、ウィーン国立歌劇場を取り上げた。冒頭でも書いた通り、やはりウィーンは、"音楽の都"と言われるだけあって、音楽に溢れた素晴らしい街であったし、それを興行として成り立たさる様々なシステムがあったように思う。次回の後編は、楽友協会を取り上げる。



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