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1F事故から12年、“反省と教訓”は何処へ

台風が過ぎ去り、暑さが戻ってきた17日〜18日、1F関連の会合が相次いで開催された。原発推進に舵を切った我が国だが、1F事故後の課題はどうするつもり?地域・市民の理解は得られているの?ALPS処理水の放出が間近に迫る今、政府の姿勢は?各会合のメモを記す。(各論には踏み込んでません…)


原発事故被災者への改善を求める

17日午前、原発事故被災者への支援施策等の改善を求める要請書手交・ヒアリング。
「原発事故子ども・被災者支援法」推進自治体議員連盟と福原発震災情報連絡センターから要請書が手交された。10年以上に渡り、交渉活動を継続されているとのこと。関係省庁(復興庁、国交省、総務省、文科省、厚労省、経産省、規制庁など)関係者、約20名からヒアリングを実施。
冒頭、同議連共同代表の佐藤和良議員(いわき市議会)より挨拶と要請書が手交された。「被災地においては、処理水の問題をはじめ、廃炉と復興をどのように続けていくかという課題がある。支援策の拡充は必要だ。そして、被災者の支援を国としてどのように進めていくかは継続課題である」と佐藤議員。

要請書では、
1.避難者の実態調査と支援策について
2.住宅の確保について
3.避難者を支える民間団体への支援について
4.原発事故の損害賠償について
5.「福島県の子供達を対象とする自然体験・交流活動支援事業」等について
6.リアルタイム線量測定システムについて
7.放射線副読本について
8.医療・福祉支援について
9.財源確保について
の各項目が申し入れられた。

PDF(スキャン版)は下記よりご覧ください

一貫して言えることは、被災者・避難者の方の実態をきちんと把握・調査すること

本稿では、7.放射線副読本についての申し入れと回答を紹介する。
ここでいう、副読本は文科省HPに掲載されている。
その目的は、あくまでも「放射線について、学ぶ・考える」というものだが、中身は下記リンクを参照されたい。

◯2021年度改訂版の放射線副読本について、これらの内容は全面的に改訂するか、現在の内容はHPから削除し、教育現場での活用を求めないこと。活用する通知がすでに出されている場合は、それを撤回すること。
(理由)
全国の小中高校で使われている放射線副読本については、再三指摘している通り、福島原発事故による汚染の深刻さなどの記載が無くなり、被ばく線量と健康影響のとの関係に関する記述についても「安全神話」に基づく一方的かつ一面的なものである。文科省は「専門家の検討を踏まえた」ことを強調するが、「3.11」原発事故前に「専門家」によって確認された副読本の記述が間違っていたことは事実として明らかであり、その反省が活かされていない。地元の多くの自治体・市民や全国の漁業関係者の反対を押し切って強行されようとしている汚染処理水の海洋放出についても、その安全性を一方的に強調する資源エネルギー庁・復興庁のチラシが副読本とともに教育現場に押し付けられているが、異論や反論、課題などの情報が示されていないのは科学的公正性を欠く。教育現場は政府の政策を押し付ける場ではなく、原発や汚染水放出の「安全神話」を全国の教育現場に広めることは容認できない。

【回答;文部科学省】
学校教育においても、原子力を含むエネルギーや環境問題、放射線についての地気などを生徒児童が身につけていくことは重要です。放射性副読本は、児童生徒が放射線に関する科学的な知識を身につけ、理解を深めることができるよう、学校関係の有識者や放射線の専門家等のご意見を伺って、科学的な根拠に基づき、児童生徒の発達段階に応じて表現を工夫しながら、必要な内容を精選したものです。この副読本が、児童生徒が放射線に関する科学的な理解を深めるための一助になり、副読本で学んだ内容をもとに様々なことを考えるきっかけとなることを期待しており、撤回については考えておりません。(以下略)

ヒアリング配布資料より抜粋

上記に加え、文科省の補足回答は下記の通りだが、教育現場で起きた実態を把握していたのか・いるのかは甚だ疑問。
・副読本がどれくらい使用されているかは、明確にはわからない
・現場によって、使用をやめるというところもあると聞いている
・放射線の知識を知ることは重要であると考える
・他方、(3.11関連事象による、いじめ問題など)こうした現状については理解する。そのような意見(後述)も真摯に受け止めていく。
・3.11後、(編集等にあたる)専門家委員も変わった。その前とは性質は異なる副読本になったと理解している。

ここで、震災後避難を続けておられる方も意見を述べられていた。
(保養についてのご意見も抜粋させていただく)
・子育て世代のお母さんは、子どもたちや自分たちの健康をどのように守るかを考えて今に至っている
・避難=保養し続けていることであり、別物ではない
・避難保養庁を作るべきでないか
・副読本のせいで(子どもが)いじめられることもあった
・避難者いじめに遭った人の声を受け止めるべきでないか

また、同議連共同代表の中山均議員(新潟市議会)もこのように指摘された
・原発がどのようなことをもたらしうるかを説明すべきでないか
・原発の“安全神話”が記載されているだけではないか
・事故による、反省・教訓を生かすべできでないか、その内容は?
・放射線の安全性を教えることで、(いじめなど)差別をなくすことはできるのか
・これでは基本的考えは変わらないのではないか。
他にも、GX脱炭素電源法で原発が推進されようとしている中、被ばく(放射線)防護までも教えるべきではないだろうか。脱原発へ歩むまでも書くべきでいないかとのご尤もな意見も。

参加していた国会議員からは、「原発を推進したい思いからできた副読本であるが、“間違った”ものであることは理解すべきだ。(中略)作っといて、あとは現場任せというのは違うのではないか。何をやろうとしているのかがわからない」と厳しい指摘。重ねて、「(文科省も他省庁も)当事者意識を持つべきだ、実態を見ているか。被災者の声を聞いて、目を向けてほしい」と述べられた。

1F事故をめぐっては、爆発による放射性物質の拡散、土壌汚染、処理水など多岐にわたる課題が残っているが、そこに暮らしていた方々の生活が突如一変させられた。家族の離反、いじめ、故郷を失うということ…震災後12年、私たちは事故を風化させてはならない。
【参考】
・満田夏花『「原発事故子ども・被災者支援法」の実施をめぐる課題」』国際人権ひろば No.113(2014年01月発行号)

ALPS汚染水の海洋放出をめぐり省庁と会合

続いて同日午後は、ALPS汚染水の海洋放出をめぐり省庁と会合。
呼びかけ団体は、原子力資料情報室No Nukes Asia Forum Japan国際環境NGO FoE JapanGreen Peace East Asia
※QAだけ知りたいよという方は、下記FoE Japan様のリンクよりご覧ください。
<質問書>  <回答(経済産業省、東電)>

処理水の放出をめぐっては、地域の理解を前提とした上で、政府は今夏にも放出をしようとしているが、実際はどうか。IAEAの“お墨付き”だけでは不十分ではないかとの指摘が出ている。その他、放射性物質の汚泥(スラリー)を保管するHICの状況など、放出に付随しての課題は山積。
筆者も「福島第一原発の今 ALPS処理“汚染水”をめぐって」で紹介した。

会合では、「福島第一原発で貯蔵中の汚染水の海洋放出方針を撤回してください 地上での保管と固化方針への切り替えを求めます」という署名が提出された。

内容は下記の通り
・長期にわたる放射性物質を海に放出することへの懸念
・トリチウム以外の様々な放射性物質の総量が示されていないこと
・漁業関係者をはじめとした国内外の市民への理解が得られていないこと
・放射性物質は集中管理が原則であること
・陸上保管・処分の代替案の提案

処理水をめぐっては、経産省トリチウムタスクフォースで議論され、当時は、海洋放出以外の選択肢もあった。
・地層注入
・海洋放出
・水蒸気放出
・水素放出
・地下埋設
こうした状況下、原子力市民委員会等からはモルタル固化案が提案されてきたが、政府はいまだに蒸発(気化)を問題視し、根本的な解決でないと理解しているようだ。(質問主意書参照)

原子力市民委員会HPをもとに筆者作成

八 ALPS処理水の海洋放出の代替案として、セメント化による活用やモルタル固化による陸上保管案がPIF専門家パネルや国内識者から提案されてきた。モルタル固化については、経済産業省がコスト面等から選択しない検討を行ったが、セメント化による活用案は検討されたことはあるのか。検討されたのであれば、いつどのように行われたのか。

八について 経済産業省において、有識者を含めて、平成二十五年から平成二十八年まで開催した「トリチウム水タスクフォース」及び同年から令和二年まで開催した「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」において、セメント系の固化材を用いた固化を含め、ALPS処理水への対応について、風評による影響など社会的な観点も含めた総合的な議論を重ねた結果、セメント系の固化材を用いた固化による対応については、トリチウムの水蒸気の放出を伴うなどの課題が多いものであると指摘されたところである。

阿部知子衆議院議員提出「ALPS処理水の海洋放出の科学的評価等に関する質問主意書」
より抜粋、太字部分筆者加筆

モルタル固化という代替案については、太平洋諸島フォーラムの有識者からも提案されていたが、経産省は、当該諸島フォーラム(PIF)との“対話”議事録等は、出せないと回答。報告書が出たのに、なぜ詳細は出せないのかが全く謎。
このことについては、国会答弁でも同様に、「先方との協議・理由云々…」と全く理由にならない言い分で現在に至っている。

他にも、タンクの耐用年数についての議論も。
東電は、「耐用年数を数10年としているが、その詳細は不明。継続して、適宜点検・補修をしていく」とのことであるが、経年劣化は進んで当然。一体これもどうなるか…。

また、7月11日に福島大学の元学長など有識者らの有志8人が、立ち上げた処理水の処分方法をはじめとする廃炉の進め方に市民の意見を反映させようと立ち上げた「福島円卓会議」の話題に。
当該会議主催者は、政府(経産省)・東電にも参加を求めたが、参加をしなかったとのこと。
回答は、「個別の案件であり、その扱いについてお答えするものでない」とした。これも国民・市民の理解を蔑ろにしていると言えないだろうか。参加せず、説明がない中で理解を求めるなど、どう考えても無理がある。

約2時間にわたるヒアリングでは、処理水をいつ放出する気なのか
(繰り返しになるが)IAEAお墨付きでいいのか、説明・理解を十分にできているか
ということが一貫して議論された。とはいえ、政府は対応を変えるのかどうか…
下記図の赤線部にある政府方針を問うていくべきではないか。

経産省HPをもとに筆者作成

汚染水を海に流すな!8.18首相官邸要請行動・集会

翌18日、汚染水を海に流すな!8.18首相官邸要請行動。
集会に先立ち、官邸前で要請行動が開催された。(TOP写真参照)酷暑の中、多くの方が訴えられた。筆者が見てきた原発関係の集会で最も参加者が多かった気がする。
集会では、経産省と東京電力に申し入れも。
なぜ、海洋放出がいけない、まずいのか。正しいことからの理解なくしては、放出は断じて許されないのではないか。何より、そこに暮らす人の声を聞くべきだ。

“安全神話”に陥らない・風化させてはならない

「原子力明るい未来のエネルギー」、という安全神話は、1F事故により崩壊した。
筆者はようやく原発関連政策に携わり1年が経とうとしているが、つくづく思うのは、賛成・反対問わず関連報道が少なくなっていること、同時に国民の関心事も減っているということだ。
また、勉強会や集会で若い方を見かけることが少ない。
“電力逼迫のため、コスパも良い、CO2も排出しない原発は環境に良いエネルギー”というような文言が一人歩きするにしても、事故が起きたら人智ではどうすることもできない。
今、使用済み核燃料の処分(地)をどうするかも問題となっている。住民を分断するエネルギーが私たちの未来にあって良いものなのだろうか。
推進をする以上、政府は国民への十分な説明をすべきである(どんな政策にしても…)
と、結びを書いている時、処理水の放出時期についてのニュースが。
結局、結論ありきの政策遂行なのでしょうか。GXから始まる出来レース…。


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