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福島第一原発の今 ALPS処理“汚染水”をめぐって

東日本大震災発生から12年。福島第一原発事故は、甚大な被害をもたらし、現在も廃炉作業が進められているが、完全廃炉はいつになるのか。
増え続けるALPS処理“汚染”水が今夏にも放出されようとしている中、“1F”の今をまとめてみた。

ALPS処理水とは

7月4日、東電福島第一原発(以下、1F)から発生し続けているALPS処理水について、IAEA(国際原子力機関)から政府に対して、「国際的な安全基準に合致する」とした「包括報告書」が手渡された。各報道で詳報されているので内容は割愛するが、そもそもALPS処理水とは何か。

まず、ALPSとは、「多核種除去設備」を指す。
では何を除去するのか?

Googleで検索すると、トップヒットするのは、経産省HP(https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/alps.html
ここには、処理水とは何かが、“わかりやすく”書いてある。
動画もあり、「果たして安全なのか?」という問いから始まるもの。
一見、「ふむふむ、なるほど」と思うところであるが、実際はどうか?
筆者も本件に関わることもなかった一国民であれば、その程度だったかもしれない。

他方、汚染水(後述)について
この汚染水をALPSで希釈、海水と混ぜてトリチウム濃度を国の排水基準の40分の1未満にし、沖合約1キロに建設した海底トンネルから放出するというわけだが、IAEAの“お墨付き”をもらったからいいのか?
それが今問われている。

なぜ処理水が発生するのか

そもそも原発を動かすにあたっては、大量の水が必要だ。
その理由は、使用済み核燃料を放っておくと、温度が上昇し、水素爆発を起こす恐れがあるなど、とにかく大量の水が必要=水を確保しやすい海岸近辺に原発が立地しているということだ。これらの水はもちろん放射性物質と混ざることはない。
ただし、これは、日本の場合であり、海外では「冷却塔」がそれを担っている。
ではなぜ、処理水の問題があるのか?


出典;東京電力HD「「冷やす」について (福島第一原子力発電所の2・3号機の場合)」

“自然”を破壊して、建設。津波対策は何処へ

1Fの立地状況について、福島民報の記事を引用するが、結論を言えば地層等を無視し建設した結果、津波対策も不十分に。

■掘削
 東電は福島第一原子力発電所を大熊、双葉両町にまたがる海岸段丘地帯に建設した。段丘の海側は切り立った崖であり、その地表面は、基準とした海面(小名浜ポイント)から30メートル程度の高さにあった。
 段丘の上部は比較的、崩れやすい砂岩だった。発電所の建屋が地震の強い揺れの影響を受けにくいようにするため、固い地盤が必要とされた。安定した地層は海面より4メートル低い地中にある泥岩層だった。
 東電は段丘を掘り下げた。主な建屋を設置する敷地の地盤の高さは、予想される津波の高さ、作業スペース、原子炉や発電機が入る建屋の出入り口の高さ、掘削費などを考え合わせ、最終的に決められた。
 主な建屋の敷地は1~4号機(大熊町)が海面から10メートル、5、6号機(双葉町)が13メートルの高さにある。
 東日本大震災で発生した巨大な津波は敷地の高さを超えた。冠水は1~4号機側の区域が激しく、建屋周囲の浸水深は最大で約5.5メートルに及んだとされる。タービン建屋地下に設置された非常用ディーゼル発電機や電源盤が水に漬かり、使用できなくなった。この結果、原子炉などを冷やす重要機器のための電源を失う「電源喪失」につながった。
 「これまでの津波評価で敷地レベルの高さまで津波が襲来するとは考えていなかった」。東電原子力・立地本部原子力品質・安全部長の福田俊彦(54)は震災前の津波対応を振り返る。

東日本大震災アーカイブ【巨大津波 遅れた対策8】東電の備え不十分 最新研究成果生かせず

それが震災時の約13メートルともされる津波により、「電源喪失」、上述の使用済み核燃料(プール)への注水・冷却手段が喪失。1号機、3号機、停止中の4号機の水素爆発へと繋がったのである。
そして、この時に破壊された原子炉内に雨水だけでなく、デブリの冷却水、さらには、もともと1Fの下を流れていた地下水とが混ざり、高濃度の放射性物質を含んだ“汚染水”が発生する(以下、東電図参照)

東京電力HD「汚染水対策の状況」

図を見ても明らかなように、地下水は海岸に向かって流れていくので、何も対策を講じないと、爆発を起こした原子炉からセシウムやストロンチウムといった放射性物質を含んだ“汚染水”を海に放出し続けることになる。そのため、“汚染されてしまった”地下水を汲み上げ、浄化処理を施し、海洋放出しても、地球・環境汚染につながらないレベルまで浄化・処理しているものをALPS処理水としているが、トリチウムは除去しきれないのである。
この汚染水、1日に約90トンのペースで発生という現実…タンクの保管場所も確保できなくなりつつある。
(また、汚染水から取り除いた汚泥(スラリー)の保管場所も満杯へ近づいているという報道も。朝日新聞4/11「東電の見通しの甘さ、ここにも 福島第一原発で放射性汚泥の満杯迫る」)

政府は、冒頭のIAEAの安全基準をクリアしたとし、海洋放出しようとしているが、果たしてどうか。近隣諸国からも批判が出ているところである。そこで、今回の視察ダイジェストを以下述べる。
(ご参考)
なお、1Fの地震・津波対策について何が起きていたかは、島崎邦彦(東京大名誉教授・元日本地震学会会長)『3.11 大津波の対策を邪魔した男たち』をぜひお読みいただきたい。

社民党と韓国・正義党議員団視察

6月22日〜23日、韓国の正義党議員団が来日。ALPS処理水海洋放出をめぐって、社民党議員団と1F視察を行った。
筆者は、超党派「原発ゼロ・再エネ100の会」の事務局として同行させていただいた。(※同議連では、韓国・共に民主党とも東電および経産省等へのヒアリングをズームで開催してきた。)
韓国では、処理水については国民の多くが反対しており、与野党問わず大きな政治問題となっていると聞く。実際に議員団からも科学的根拠が不十分にもかかわらず、海洋放出をするのか?と意見が相次いだ。

東京電力への申し入れと市民団体の意見交換

超党派「原発ゼロ・再エネ100の会」および、市民団体等の意見交換を実施。その間には、東京電力本社前での「海洋放出撤回を求めるデモ」も。
韓国でどのような意見が出ているのか、国際的な議員のネットワークなどを構築し、声明等を出すべきではないかとの提案もなされた。

東京電力本社前にて。マスコミも駆けつける

富岡駅に降りたって

その後、常磐線富岡駅へ。
東京駅から特急ひたちに乗車し約3時間。
車内では、改めて震災から現在に至るまでを考えつつ、一つの記事に出会った。

駅に降り立つと、駅舎に「空間線量率」を示すモニター。
宿泊先は、富岡ホテル。とても綺麗で快適に過ごさせていただいた。
夜は、串揚げ居酒屋の串誠さんにお邪魔した。
震災から12年、復興はさまざまな形で進んでいる。しかしながら、都内に住んでいたら何もわからない・知ることもできない。そんなことを感じ、寝床についた。

筆者撮影;富岡駅舎
同筆者撮影

1F入構に先立ってブリーフィング

翌朝は、長沢啓行さん(大阪府立大学名誉教授)、振津かつみ医師(福島県民会議・チェルノブイリ救援会)からのブリーフィングでスタート。地元記者さんらも参加され、同視察の注目度も垣間見えた。
ブリーフィングでは、上述した1Fの地層構造や処理水タンクの状況についてのお話を伺った。
ちなみに、朝食後の新聞トップ面に注目されたい。
県内外での報道の差というか、問題意識・関心事の高さというものを考えさせられた。

福島民報 6月23日朝刊

いよいよ1F構内へ

入構前に立ち寄ったのが、東京電力廃炉資料館

筆者撮影。報道各社の取材もあり。
若い方も見学に訪れていた。


ここで入構時の注意事項等が説明される。
大型バスに乗車し、1Fに向かうわけだか、帰宅困難区域が解除されたとはいえ、震災後手付かずの建物等には蔦が絡まり、一部通行止めのフェンスなどもあった。
さらには、除去土壌の搬入施設なども通り、いかに1F事故が多岐に渡る被害をもたらしたかを考えさせられた。
到着後は入構手続き。
・金属探知機
・ホールボディカウンター通過
・ポケット線量計を装着
・バスに再び乗り換え

大量に並べられた汚染水のタンク、震災後から構内に残る車を見つつ、いよいよ水素爆発を起こした1号機等が見える展望スペースへ。
ポケット線量計は鳴り響き、目に見えない放射線は、毎時60マイクロシーベルトにも達していた。(この時には記念撮影も…)
そのような状況の中、廃炉処理に従事されていた作業員の方の姿も。
後日記載するが、1Fにおける“被ばく労働・(労災)”問題も重要な課題である。

その後、震災時の津波の力でつぶれたままのサプレッションプール水サージタンク倒壊したままの鉄塔などをバス車内から説明を受けた。
東電担当者によれば、若い社員の方への事故の深刻さを伝えることや現役社員も忘れてはならないとし、残しているとのことであった。(確かに重要)

一連の見学を経て、最後は被ばく線量の計測。
筆者は、0.02mSv(歯のレントゲン2回分くらいとのこと)
それが果たして人体への影響がどれくらいあるか…環境省のページを参照されたい。

出典;環境省HP

なお、1F構内は基本的にスマホ等は持ち込み禁止。ICレコーダーは事前申請なら可能とのこと。
筆者は、見た光景とその時のメモをノートに記載。

視察のまとめ

視察後は廃炉資料館で東電との質疑の時間が設けられた。
その際、韓国議員団から「(海洋放出をめぐり)科学的検証等が不十分、空いている土地があるならば、それらを活用し、検証をし終えるまでタンクを増設し、計画を見直すべきではないか」との意見もあった。
その後は、視察総括ミニ報告集会を開催し、日程が終了した。

報道では、地元の漁業組合からも反対の意見が出ているが、こうした中、政府は市民の声を聞いているのか?非常に疑問としか言えない放出計画ではないだろうか。
視察と肌身で感じた現地の声を是非多くの方にも知っていただきたい。

太平洋諸島フォーラム(PIF)の指摘

ALPS処理水をめぐっては、太平洋諸島フォーラム(PIF)の有識者パネルからの指摘に加え、ヘンリー・プナ事務局長からも強い懸念・表明がなされたところである。
先の「原発ゼロ・再エネ100の会」では、6月15日に同パネルのアジュン・マクヒジャニ博士(米エネルギー環境研究所所長)からヒアリングを行った。
同博士によれば、IAEAの安全基準(GSG-8)に照らし合わせるならば、「(海洋放出は、)利益が生じない、海洋“投棄(dump)”である」と同計画の見直し、またはコンクリート固化などの代替案が提起された。
なお、ヒアリングについては、まさのあつこ氏(フリーランスジャーナリスト)が詳報されている。

政府の見解

こうしたことをめぐり、政府の見解は改めてどうか。
「ALPS処理水の海洋放出の科学的評価等に関する質問主意書」(阿部知子衆議院議員提出)の答弁をここに引用する。
ポイントを絞れば、
・丁寧な説明を今後もしていく
ロンドン条約でいう、「投棄」にはあたらない
・PIFとの議事等は示せない(何故!?)
・GSGー8については、規制庁で参照することはあまりない
・セメント系(モルタル含)固化の代替案は、「トリチウムの水蒸気の放出を伴うなどの課題が多い」と考えている。

※他方、原子力市民委員会では、「ALPS 処理水取り扱いへの見解」についての補足で“固化”についてまとめられている。

【質問】
 東京電力(以後、東電)による福島第一原発ALPS処理水の海洋放出については、政府が二〇二一年四月に方針を決定し、実施の準備が進められている。他方、太平洋諸島フォーラムの専門家パネル(以後、PIF専門家パネル)や近隣諸国(韓国・中国など)からは日本政府から提供されるデータの質と量が不十分で、生物濃縮に関する考察が著しく欠けているなどの懸念が表明されてきた。こうした状況下で、政府の見解を以下、質問する。

一 今年二月及び四月、合計三度にわたり、外務省、経済産業省は、PIFと会談を実施。また、PIF専門家パネルは原子力規制委員会と東電とも会談を行ったと聞く。PIF専門家パネルからは、生物濃縮に関する影響評価の欠如などが指摘されているが、政府はどのように対応するのか。対応しないとすれば、それはなぜか。

二 ALPS処理水には「放射性廃棄物」が含まれており、PIF専門家パネル有識者からは「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(以後、ロンドン条約)でいう「投棄」であるという批判がなされている。ロンドン条約第三条で「投棄」とは「海洋において廃棄物その他の物を船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物から故意に処分すること」と定義されている。東電による地下トンネルからの海洋放出は、「その他の人工海洋構築物から故意に処分すること」ではないのか。

三 ロンドン条約の下で締結された「千九百七十二年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の千九百九十六年の議定書」(以後、ロンドン議定書)でも、「海洋環境を保護し、及び保全し、並びに人の活動を管理するため、投棄による海洋汚染を防止し、低減し、及び実行可能な場合には除去する更なる国際的行動が遅延なくとられ得るもの」となることを目的に、第一条4・1で「投棄」についてはロンドン条約と同様に定義されている。さらに第一条4・2「投棄」の除外規定でも、「人工海洋構築物及びこれらのものの設備の通常の運用に付随し、又はこれに伴って生ずる廃棄物その他の物を海洋へ処分すること」に当てはまるとは到底考えられない。なぜなら「通常の運用」とは違い、事故に伴って特別に構築された設備だからである。そもそも放射性物質を拡散させた原子力災害事故の処理のために、特別に設備を設けて、更に放射性物質を海洋に拡散することは、ロンドン議定書の目的に反するのではないか。政府の見解を明らかにされたい。

四 質問一に関連して、政府とPIFとの会合内容については、経済産業省ホームページ等に簡略に報告されているだけである。
 議事録・概要等詳細を公表すべきではないか。

五 IAEAの「環境等への被ばく防護に関するセーフティガイドNo.GSG-8」(以後、GSG-8)によれば、放射性物質拡散値等が最低限度であって、かつ弊害を上回る利益が個人や社会にあった場合のみ、海洋放出が正当化されるものと理解する。政府は、ALPS処理水の海洋放出による利益にはどのようなものがあると認識しているか。

六 GSG-8については、原子力規制委員会のホームページには掲載されていない。他の「IAEA安全基準シリーズ」は翻訳・掲載されているが、GSG-8が掲載されていないのはなぜか。また、翻訳されていないとすれば、その理由はなぜか。

七 IAEAタスクフォースは、ALPS処理水の海洋放出にあたってGSG-8で定めた「正当化」の考え方は検討しないと聞くが、PIF専門家パネルは、GSG-8全体を準拠すべきだと指摘している。原子力規制委員会は、国際的な慣行に依拠するのではなく、GSG-8を準拠すべきではないか。

八 ALPS処理水の海洋放出の代替案として、セメント化による活用やモルタル固化による陸上保管案がPIF専門家パネルや国内識者から提案されてきた。モルタル固化については、経済産業省がコスト面等から選択しない検討を行ったが、セメント化による活用案は検討されたことはあるのか。検討されたのであれば、いつどのように行われたのか。
 右質問する。

令和五年六月十六日提出 質問第一三二号
ALPS処理水の海洋放出の科学的評価等に関する質問主意書 提出者  阿部知子

【答弁】

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon_pdf_t.nsf/html/shitsumon/pdfT/b211132.pdf/$File/b211132.pdf

今夏放出、果たしてそれでいいのか

IAEA包括報告書の要旨(Executive Summary)には以下の通りある。

1)包括的な評価に基づき、IAEAは、ALPS処理水の海洋放出へのアプローチ、並びに東電、原子力規制委員会及び日本政府による関係する活動は関連する国際的な安全基準に整合的であると結論付けた。
2)包括的な評価に基づき、IAEAは、東電が現在計画しているALPS処理水の海洋放出が人及び環境に与える放射線の影響は無視できるものと結論付けた。
2.また、IAEAは、同要旨の中で、放出前、放出中及び放出後もALPS処理水の放出に関し日本に関与することにコミットし、追加的レビュー及びモニタリングが継続予定であることは、国際社会に追加的な透明性及び安心を提供するものであると述べています。
3.日本政府は、同報告書の内容を詳細に確認した上で、透明性をもって国内外に情報発信してまいります。また、今後とも、IAEAに対する必要な情報共有を継続するとともに、ALPS処理水の海洋放出について、国際社会の一層の理解を醸成していくことに努めます。

経済産業省
「IAEAが東京電力福島第一原発におけるALPS処理水の安全性レビューに関する包括報告書を公表しました」

3項目目、「ALPS処理水の海洋放出について、国際社会の一層の理解を醸成していくことに努めます。」とあるが、果たしてどうか。
韓国だけでなく、中国、北マリアナ諸島等からも「生活を脅かす」と声が上がっている。

1F事故の汚染水に含まれるトリチウムは、溶け落ちたデブリなどさまざまなものが混在している。
「処理したから安全だ」「IAEA評価があるから大丈夫だ」
では済ませてはならないのではないだろうか。
単に、「薄めれば大丈夫」。そんな簡単な問題ではない。
我が国の某党代表は、「直近に迫った海水浴シーズンは避けたほうがいい」とした発言をし、釈明。
海洋“汚染・投棄”を認めた発言と捉えられかねないのではないかとの指摘も。

見通しの立たない廃炉計画の中、“原発回帰のGX政策”に舵を切った我が国のエネルギー政策はどこへ向かうのか。
今一度計画の見直しをすべきではないだろうか。
ALPS処理“汚染水”放出は認められない。
海は、共有財産だ。

【ご参考】
東京電力廃炉情報誌「はいろみち」
東京新聞『福島第一原発の処理水海洋放出、完成した設備の全容 東電担当者「心配の声ある以上は説明。放出後も」』(7月3日)
東京新聞「<社説>原発処理水 放出「強行」は禍根残す」(7月6日)

廃炉資料館及び、1F入構時に受け取ることができる

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