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太平洋諸島フォーラムの専門家:「ALPS処理水」の海洋“投棄”は正当化できていない

東京電力の福島第一原発(1F)の処理水の海洋放出について、超党派議員連盟「原発ゼロ・再エネ100の会」が6月15日朝、太平洋諸島フォーラム(PIF)の専門家パネルのメンバーであるアジュン・マクヒジャニ博士(米エネルギー環境研究所所長)からオンラインでヒアリングを行った。

同博士は1F汚染水の海洋放出は国際原子力機関(IAEA)のガイドラインに違反しており、「汚染の解決策は希釈だ」という慣行を止めるべき時だと語る。

東電はIAEA安全基準GSG8に違反

IAEAの安全基準の一つに「人と環境を守るためのIAEA安全基準」(以後、GSG8)がある。東電の海洋放出はこのGSG8に違反している部分があるとして、博士は「あえて私は海洋“投棄”と申し上げる」として以下の点を述べた。

  • GSG8は人々や環境に害を及ぼす活動には正当化が必要だとしている。

  • 東電や日本の原子力規制委員会は、それが正当化できない限りはいかなる活動も実施すべきではない。

  • GSG8の2.11は「正当化とは、総じて有益なのかどうか、つまり、その活動を開始または継続することによって個人や社会が受け得る利益が、活動の結果生じる放射線障害を含めた害を上回るかどうかだ」としている。

  • 今、提案されている海洋放出計画は、太平洋地域における日本の隣国には何の利益もない一方、どんなに小さくても影響を与える。

「東電はIAEAの安全基準に準拠していると言いますが、利益がゼロで害はある限り、GSG8には違反していると私は思います。」(マクヒジャニ博士)

IAEAは正当化について検討しない

ではIAEAは何をしているのか、とマクヒジャニ博士は次のように語った。

「IAEAのグロッシー事務局長は、2021年4月、IAEAのタスクフォースが組織される前に、すでに海洋放出に同意を与えています。彼は、放出は大量であり、他にはない複雑なものだが、技術的に可能で、国際慣行にも合致していると述べたのです。しかし、他国がGSG8に違反して放出しているからといって、日本がGSG8を無視して良いということにはならない。

私たちPIF専門家パネルは、東電、原子力規制委員会、外務省と会議を持ちました。東電と規制委員会には、GSG8に関する国境を超えた分析を行ったかと尋ねましたが、聞く限りでは行われていない。

PIF専門家パネルは、数日前、6月8日、9日のIAEAとの会議で、この放出計画は太平洋諸国には害だけがあるのに、どう正当化されるのかと聞いたが、GSG8による正当化については検討を行わないという回答だった。IAEAが自分たちで定めた基準なのにと聞いたら、この部分はやらないという。ルールブックがあったら、その全てを準拠しなければならない。ここは従うけど、ここは従わないということはあり得ない。」

「IAEAとの前回の会議でもGSG8の話をした。IAEAは『これは私たちの責任ではなく日本の原子力規制委員会の責任だ』と述べた。しかし、IAEAは原子力規制委員会に対して、そのような指示も出していません。」

PIF専門家パネルの代替案

PIF専門家パネルは、海洋放出に代わる案も提示した、とマクヒジャニ博士は説明した。ALPS処理後のトリチウム水をコンクリート作り、たとえば防潮堤など人間が日常的に近づかない構造物に使う案だ。

この代替案について、次のように説明した。

「東電は、『それはもう検討した』と言ったが、専門家パネルが提案したものとは違う。東電の提案は、ALPS処理をせずに汚染水をコンクリート固化して、廃棄物として埋設処理することでした(*)。私たちの代替案はALPS処理してからコンクリートにして使うことです。廃棄物の量が増えるわけではない。私たちは、これをやれと言ってるのではなく、何ができるのかを真剣に検討すべきだということです。この代替案を検討もしないことは太平洋諸国も日本国民も無視することだ。特に漁業者を無視している。この海洋投棄は延期されるべきです。代替案を検討すべきです。」

マクヒジャニ博士は、また生態系への環境影響評価はやり直しが必要だと言及。現在の評価では参照種が3つしかない。ヒラメ、カニ、褐藻だが、太平洋地域特有の参照種が欠けている。ストロンチウム90を含む放射性核種の生物濃縮が十分に考慮されていない。また例えば、ある研究は魚卵が1500ベクレル/ℓより低濃度のトリチウムでも影響を受けるとの結果を示しているが、考慮されていないと述べた。

ヒアリングには韓国の「共に民主党」の議員のほか、近藤昭一衆議院議員、阿部知子衆議院議員、笠井亮衆議院議員、原口一博衆議院議員ほか、多くの議員スタッフや有識者、報道が参加した。政府(経産省、外務省、原子力規制庁)および東電は、議連からの参加依頼に応じなかったという。

(*)筆者注:2016年6月、経産省のトリチウム水タスクフォース報告書では「トリチウム水」のコンクリート固化・埋設案が記されていた。ここで言う「トリチウム水」は「トリチウム以外の核種の除去」後の水であるとされた。しかし、実は、ALPS処理後でも大半が基準越えであることが、2018年8月に開催された説明・公聴会の直前、報道で明らかになった。その後、東電は、2018年10月の経産省「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」で「多核種除去設備等処理水の性状について」で、基準以下(62核種の告示の濃度の総和が1以下)に処理できたのは一部であり、大半が基準越え(最大約2万倍近い)汚染水だったことを明らかにした。東電は、現在までに、トリチウム以外の放射性物質は、海洋放出前の段階で、国の規制基準値を確実に下回るまで何回でも浄化処理すると説明している。しかし、東電の情報や技術への信頼も回復できていないのではないか。

出典:2018年10月経産省「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」
東電資料「多核種除去設備等処理水の性状について」

関係サイト

【タイトル写真】

太平洋諸島フォーラム(PIF)専門家パネルメンバー、アジュン・マクヒジャニ博士(米エネルギー環境研究所所長)のZoom画面を筆者スクリーンショット。



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