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PFAS汚染を追って〜基地で使用されていた泡消火剤の行方

PFAS問題に関する報道が増えている一方、血液検査は「かえって不安が増す」のではないかという会議も。国は今後の対策をどうしていくつもりなのか。
今回は、千葉県鎌ヶ谷市へ。最大値21,000ng/L(2PFAS合算)という超高濃度検出が発覚した中、自治体が積極的に対策にあたる方針を示した。


鎌ヶ谷市の先んじた対策

8月15日発行の鎌ヶ谷市の広報「広報かまがや」の一面は、「有機フッ素化合物(PFOS/PFOA)について」。
これまでと今後の市の対応策が紹介されているが、井戸の追加調査をすること、暫定指針値(50ng)を超えた井戸水を飲用していた人や事業者を対象に、浄水器費用の助成等をすること。そして、血液検査の費用助成を希望者を対象にすることなど、今まさに国が求められていることが示された。
市は、この間、高濃度汚染が確認された地域での意見交換会を実施されたとのことだが、少しでも住民の方の不安を解消すべく積極的に対応にあたられようとしていることを国は受け止めるべきではないだろうか。このことについては、後述するが、そもそも汚染源はどこなのか。

筆者撮影

環境省が実施している「公共用水域水質測定結果及び地下水質測定結果について」というものがある。この中の、「PFOS 及び PFOA の水質測定結果」、令和元年から最新の4年度までのものを一覧にして見てみると、現在各地で起きている汚染エリアとその分類(PFOAかPFOSか)が見えてくる。
例えば、PFOAで圧倒的に高いのが、大阪の摂津だ。某企業の工場があるからではないだろうか。
他方、PFOSが高いのは、沖縄。米軍基地内で使用されていたとされる泡消火剤の影響であると言える。
工場(排水・廃棄物)=PFOA
基地(等での消火剤)=PFOS

と整理すると、わかりやすい。

そして、千葉に絞り込むと以下のような結果になる。
最も高濃度検出がされているのが、柏市と白井市の境を流れる水路「金山落」(かなやまおとし)や名内橋だ。

環境省資料をもとに筆者作成

また、これとは別に、2007年にも「有機フッ素化合物の千葉県内公共用水域における汚染実態 」という調査がされており、金山落(名内橋)でPFOS 230ng/Lが検出されていたのだ。

「有機フッ素化合物の千葉県内公共用水域における汚染実態 」より抜粋。赤枠部筆者加筆。

以上を見てもわかるように、10年以上も前から汚染の兆候が現れていたということだ。このことは、PFAS問題を追い続けておられる諸永裕司氏も指摘されていた。

筆者自身、本事例については、あまりウォッチできていなかったが、「(7月)17日、同市軽井沢地区の井戸31本の水質調査結果を発表した。13本が国の暫定指針値(1リットルあたり50ナノ・グラム)を超え、1リットルあたり91~3万5000ナノ・グラムを検出したという。」という報道を目にしてから、ただ事ではないという思いが燻っていた。近日中に視察に行きたいと思っていたところ、佐久総合病院で地域医療に関するシンポジウム「第63回農村医学夏季大学講座」に参加していた際、偶然にも元千葉県議の藤代政夫氏とお会いしたことで実現した。

視察は、8月9日、茹だるような暑さの中、鎌ヶ谷を含めた千葉13区で活動されるみやかわ伸前衆議院議員(立憲)、同市議会議員の津久井清氏河内いちろう氏にアテンドいただいた。
まず、藤代氏からレクを受けた。
「自衛隊基地からの汚染であることはほぼ確実」
「基地での消化訓練で使用された消火剤が原因ではないか」
「工場等からの由来ではないと考えられる」
をはじめ、地理的状況や地域住民と自治体との意見交換会などの様子を伺った。

また、津久井市議は、基地内での消化訓練を実際に見られた際、大きな黒煙と共に、泡消火剤が使用されていたことを目撃している。泡は相当な量で、基地内の特定箇所でしか使用されていないと考えられると。加えて、この間の発覚で、市に300件ほど、「自宅の井戸水は大丈夫か」という問い合わせが殺到していたという。(6月頃)
宮川氏は、工業団地等が汚染源ではないかと考えたこともあったが、さまざまな事象を照らし合わせた際、やはり基地からの影響ではないだろうかと。
基本的には、米軍基地も自衛隊基地もPFASを含む泡消火剤を使用しない方向で処分を進めているとされるが、今こうして高濃度検出が発覚していることは、“フォーエバーケミカル”と呼ばれる所以であることは間違いない。
“製造も輸入も、使用もしていないから問題ない”

繰り返される政府答弁ではなく、現実に起きていることへの対策と予防は待ったなしだ。

自衛隊基地内における消火剤の在庫と処分状況も今後重要な課題

給水場が置かれた地域

視察では、県が調査したであろう地点をいくつか巡ったが、タイムリーにその結果が発表された。冒頭でも記したように、最大値は、21,000ng/L(合算)という驚異的な数値だった。

海上自衛隊下総航空基地の正門が、水路Bのあたり。その下、少し色が濃い箇所が基地の敷地だ。筆者らは、地図の下の方、新鎌ヶ谷駅から大津川6、そこから右に軽井沢方面水路A→Bを中心に回った。

千葉県HP「金山落に流入する水路上流及び大津川におけるPFOS及びPFOAの調査の結果について」
(8月9日)

まず、大津川付近の6及び5。この辺りは、藤代氏の予想通り?低い数値であった。川の流れは緩やかだが、PFAS関連成分が沈澱することもなかったのかもしれない。

大津川6と想定:8.8ng
大津川5と想定
同5と想定:9.4ng

次に、軽井沢地区へ。
地図で言うと、水路Aの付近だ。
この辺りには、20から30の金属工場等が点在し、ほぼ水の流れがない沢のような箇所がある。
ここが今回、最大21,000〜15,000ngを検出したとされる。基地との位置関係で見ると、基地より低く、土に染み渡り、沢へ沈澱していってもおかしくない。仮に、この水を汲み上げ井戸水、ひいては飲用していたら問題であるが、同地区で市が4月24日に採水、5月後半に発表した結果によれば、17本の井戸のうち、7本の井戸から50ng超を検出。そのうち飲用していた井戸は5本で、12,000〜160であったという。
さらに、6月3・4日に採水、7月18日の発表では、31地点のうち13地点でも、35,000〜91という結果だった。

水路A1〜3のいずれかを想定:21,000〜15,000
同上。水の流れはほとんどない

次に、さわやかプラザ軽井沢へ立ち寄った。クリーンセンターしらさぎの余熱を利用した「エコロージースパ」とのこと。目的はそこでの休憩ではなく、「飲用配給水栓」を見るためだ。先述した結果を踏まえ5月頃に設置にされたという。利用されている方もおられると。

「どなたでもご利用可能」と
駐車スペースもあり

なお、さわやかプラザ軽井沢は、基地より標高が高く検出はされていないが、同地と基地に挟まれた水路(クリーンセンターしらさぎ横)では、1,000ng(水路A)が検出されている。ここは、谷間のような形になるので、汚染が蓄積されてもおかしくないエリアだ。藤代氏曰く、3,300ngが検出されたこともあるという。

さらに車を進めて、たどり着いたのが白井市との市境。新興の戸建住宅が並ぶが、幸い20ngくらいの数値とのことであった。

基地は、写真奥の木々のさらに上の方に位置する
水の流れは、写真手前へとなる

地図で見る、名内橋に向かって、水路Bの記載があるあたり、セブンイレブン沼南藤ヶ谷店前の交差点付近から、これまで見てきた水の流れが再び現れる。
ここでは、410~560ng検出されたともいう。基地をはじめ様々な生活排水が混ざることで高濃度になっていることは間違いないが、上流部に比べ“薄まって”いることがわかる。(とはいえ、異常値!)他方、上流の住宅街付近の方が低いのはなぜか。水の流れが読めない…。

前述した、水路Aや住宅地近くを通って、出てくる

最後に、基地正門方面へ向かう。正門正面の横道から下ったところが、今回2,100が検出されたとされる場所だ。当初から1,800前後が確認されていたようだが、明らかに基地由来と言えそうだ。
藤代氏は幾度かここを訪れていたとのことだが、初めての発見をされたと。それは配管がさらにもう一つあったと言うことだ。どこからどこへとつながっているかは定かではないが、仮に基地からだとしたら、高濃度検出の答えは自ずと出てくる。
加えて、土壌への汚染もあるのではないか。各地の汚染状況を筆者なりに見てきて感じることは、大気・土壌といった“自然環境”からの汚染拡散の問題だ。
基地周辺は、緑も豊か。仮に配管だけを対策しても汚染を食い止めることはできるのだろうかと危惧する。

おそらく水路Bの1or2の箇所。2,100か33ng

“蓄積・沈殿”する!?泡消化剤ー多角的な対策を

視察後、鎌ヶ谷市の関係者の方と意見交換の時間を設定いただいた。
市としては、汚染発覚を受けて、早い段階から対策を講じ、冒頭記載した、広報にあるような取り組みを今後進めていくが、費用等懸念はあるとのこと。
例えば、血液検査の実施については、市は積極的に対策するが、1万1千円程度の費用がかかることや、結果を聞くのは直接採血を受けた方が行くこと。(※検査は、都内多摩地域の病院で実施されるとのことでその送迎はどうするか等)仮に、血中濃度が高いとすれば、健康状況を継続して調べることになるが、となれば、血液検査も一回でも意味はない。今後は、半年あるいは、一年後にやると考えている。
また、井戸水の検査も同様に、またやらせてもらいたいと思っているが、いずれにしても、国が方針を示せず“自治体まかせ”であってはならないと受け取れた。

鎌ヶ谷市庁舎

この間、各首長連名で自衛隊側に対策にかかる要望も出している。また、例えば、遮水壁を設置し、基地外への汚染を抑えようとしても、有効かどうかという懸念も。とにかく、市民の方のためには基本的に求めることは全てやるとのことであった。
なお、基地内の調査は、7月29日に県と周辺自治体が実施したという。
防衛省によれば、今後基地内の井戸も調べる予定とのこと。方法や業者との契約等のプロセスを経てとなるが、早い時期に結果が出ることを望む。

6月27日付、基地側への調査依頼

藤代氏をはじめとした、市民の動きも活発だ。
5月31日付けの市への要望書を以下に掲載するが、市側の回答が今回の対策に反映された形だ。
他自治体も予算の兼ね合い等もあると思うが、こうした対策にあたれると望ましいでのはないだろうか。なお、同市は引き続いて、県と白井市、柏市とも連携していくという。

自衛隊基地内におけるPFAS等を含む泡消火剤の状況

防衛省は、「防衛省におけるPFOS処理実行計画」を令和2年に策定し、本年9月を目処に、基地内のPFAS含泡消化薬剤の処理を進めている。
これによれば、下総基地は入っていないので、今後周辺地域でのPFAS汚染が広がることは考えられない(はずだ)。

防衛省「防衛省・自衛隊が保有するPFOS含有泡消火薬剤等の処理について」(令和6年6月21日)

他方、「防衛省・自衛隊が保有するPFOS含有泡消化薬剤等の処理完了予定時期等について」(令和5年10月6日)には、「薬剤・水槽水の保有状況等の再調査について」、そして全国の基地内の水槽水内のPFAS状況が記されている。
この水は、ただの水というと雑だが、泡消火剤は、放水?するときに原液と水を混ぜて使用されるという。水槽水は、本来、水なのに、鹿屋航空基地は3,300,000ng/L(合算)、岩国航空基地は、2,500,000ng/L(同)という数値が出ている。(※那覇航空基地も高い)消火剤原液の濃度が高くなるのは当然だが、なぜここまで混ぜる水が高いのか。配管や放水時の圧力で逆流・混在してしまったのか。理由は定かではないが、この結果によれば、下総の2つの水槽はいずれも低い。(11と3.4)
ここからわかるように、今回の汚染可能性はやはり、これまで蓄積されたものによるものかもしれない。

防衛省「防衛省・自衛隊が保有するPFOS含有泡消火薬剤等の処理完了 予定時期等について」(令和5年10月6日)より抜粋。赤枠部筆者加筆。

PFASを追ってちょうど1年が経過したが、ただでさえ目に見えない汚染は非常に厄介だ。今回は、基地からと思われる地下の配管を通じて、河川等に流出していると指摘されるが、そもそも配管がどこを通り、繋がっているかがわからない。
もしかしたら、土壌から染み渡り地下水となり、汚染が広がっているのかもしれない。
また、最後に述べたように、自衛隊基地内の水槽には原因不明の高濃度汚染が発生している。これらは、産業廃棄物としての処分過程を経て適切に処理するというが、かねてより指摘される工場労働者の健康管理同様、自衛官でこの作業に従事される方はどうなるのかという疑問もあるが、一貫して言えることは、人体への健康影響を少しでも低減させることだ。

昨冬に行った岡山・吉備中央町同様、鎌ヶ谷市民の皆さん、そして市(自治体)の迅速な対応には頭が下がる思いだ。こうした対策へのうねりを国はどう受け止めるか。
今一度思い起こしたい、「令和の水俣」にならないよう、できることを早急に。
あらゆる問題で岐路に立たされている環境行政への期待とともに、国民を守る規制と法令の更なる議論を切に臨む。

※今回の動画ダイジェストは、本文と数値のズレがある点があるので、その点ご留意ください。

【参考記事】
諸永裕司のPFASウオッチ

中川七海  公害「PFOA」(Tansa)

国会での審議状況等まとめ「PFAS汚染を追って〜どうなる!?使用済み活性炭、食品など新たな対策」

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