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PFAS汚染を追って〜どうなる!?使用済み活性炭、食品など新たな対策

4月5日、衆議院環境委員会でPFAS問題が立て続けに審議された。
大河原議員は、多摩地域の現状、泡消火剤の動向、吉備中央町の事例を紹介し、環境省へ今後の更なる対策を要望した。
阿部議員は、広がる汚染エリアを例に、これまでの水質対策や血液検査の必要性はもちろんだが新たな汚染の食い止めも必要だと指摘。
というわけで、後者の質問を中心に紹介する。


PFAS最近トピックス

広がるPFAS汚染。筆者もここ1年各地を見てきたが、水質管理や血液検査(バイオモニタリング)は最重要とはいえ、新たな課題も。

国内ではようやくさまざまな会議体が動いてきたものの不十分。
環境省「PFASに対する総合戦略検討専門家会議」が昨年1月から昨年7月まで開催。「PFOS、PFOAに関するQ&A集」と「PFASに関する今後の対応の方向性」が示されたが、同会議は、このQA等を示した形で一旦終わりか?
環境省は、自治体との情報共有・連携、モニタリングなどを主体的にすべきであることは当然だ。
そうした中、国内外の世論はどうなっているか。

・ストックホルム条約において、昨年11月28日にPFAS等の代替物質であるPFHxSも追加。製造使用禁止、6月から輸入もできなくなる。
・昨年12月、IARC国際がん研究機関がPFOA をヒトに対して発がん性がある (グループ1) 、PFOS をヒトに対して発がん性がある可能性がある (グループ 2B) と分類した。
・1月2日に発生した羽田空港での事故時に使用された泡消火剤には、規制されたPFASは含まれていなかった。(大河原議員への参考人答弁)
・3月14日、米EPAから昨年3月に提案されていた第一種飲料水規制案、PFOS 4ng/L、PFOA、4ng/Lが、この度了承された。(省庁間レベルでの調整の模様)
・他方、我が国では3月31日に大阪摂津市での国内最大規模の血液検査(1192人)のうち、459人分の結果が発表。最もPFOAが高かった人は596.6ng/mlで、国平均2ng/mlの298倍。上位5人のうち、少なくとも3人がダイキン元従業員で、ドイツの「HBM-II」基準値:PFOA10ng/mlを超えている人が、5人に1人以上という計算に。原田氏(京大)は、「私が分析した中で最高濃度」と言及。
・内閣府食品安全委員会(有機フッ素化合物(PFAS)ワーキンググループ)が募集したパブコメが3,952通(インターネット1,742通、ファックス1,117通、郵送1,093通)に。現在集約中。
・環境省(国)は、PFAS関連予算として、24年度予算案に関連経費2億600万円を計上、前年度補正と合わせ3億5600万円を当て、「PFAS対策推進費」と「総PFAS対策等検討事業」として、活用されると思うが、実効性を伴わなければならない。
・29日に公開された、「令和4年度公共用水域及び地下水のPFOS及びPFOA調査結果」によれば、38都道府県、1,258地点(河川:732地点、湖沼:32地点、海域:112地点、地下水:382地点)、そのうち、指針値:合算で50ng/Lを超過した地点は16都府県、111地点(河川:36地点、湖沼:1地点、海域:0地点、地下水:74地点)大阪摂津の地下水からはPFOA21,000ng/Lが検出。R2調査では、5500ng/Lが大阪市の地下水から検出となっているので、悪化。
※なお、令和3年度と令和4年度の公共用水域等水質測定結果を比較し、新たに暫定目標値を超過した都道府県数と地点数は、34地点、3県とのこと。

環境省提供資料

以上、最近のトピックだが、資料からもわかるように、汚染箇所は増えている。

環境省の検査は自治体丸投げ?か

他方、これまでの環境省調査をみると“低減・減少傾向”という言葉が並ぶ。
果たしてそうか。ここに示されているのは、環境省「化学物質環境実態調査」。2009年〜22年まで貝類・魚類等についても検出状況が調べられている。
後述するが、昨今の報道を考えるとミスリードしかねないのではないだろうか。

環境省提供資料

また、「令和4年度公共用水域及び地下水のPFOS及びPFOA調査結果」については、令和元年から実施されているが、一番の問題は、自治体から上がってくる情報を集約するだけになっていないか、ということ。
令和元・2年度は、環境省も検測地の選定にも携わっていたというが、全国的な汚染発覚を受け、より主体的になるべきだ。

植田武智氏提供資料


また以下に示す4年分の統計を見ていただきたい。
傾向から、PFOS=基地周辺、PFOA=工場等周辺という、汚染パターンが分かる。

環境省資料を4年分編集

また、環境省は令和2年調査時に合わせ、自治体に調査地点の選定のために送付した要領には、既に“汚染源の特定”“パターン”を把握していると言えるのではないだろうか。

もちろん、検査にかかるさまざまな負担(人材、検査にかかる費用等財源など)もどうするかである。

食品(魚・かい類)からの検出

環境省「化学物質環境実態調査」の中身を見てみると、pg。ピコグラム表記となっている。とても高い数値のように見えるが、最近使用されているng(ナノグラム)変換すると、15ng。確かに低い。

環境省提供資料

他方、東京新聞と原田先生らが実施した調査では、カワムツの肝臓から、14万ngと高濃度検出している。

このような現状を見た時、口からの暴露対策も進めるべきだ。
ちなみに、中国産の缶詰アサリからも高濃度の検出が見つかっている。植田武智氏(科学ジャーナリスト)がご自身の講演でもその点指摘されていたが、“身近な”PFAS問題が広がっている。

植田武智氏勉強会資料(2024/2/21)
植田武智氏勉強会資料(2024/2/21)

なお、農林水産省では、平成24年〜26年度まで食品群に含まれるPFAS等の分析をし、令和3〜4年度も実態調査をした。そして、農水省令和5年度リスク管理検討会(3/26)でも、農・畜・水産物がサーベイランス・モニタリング年次計画の調査候補となっており、対策が進むことが期待される。

使用済み活性炭の処理は?

PFAS除去のために使用された、使用済み活性炭が由来とされる汚染も広がっている。
詳細は、岡山視察記事を参照いただきたいが、現地では、3月22日、町が希望する住民を対象に、PFASの血中濃度を調べる血液検査を実施することを決めた。自治体としては、全国初とのことだが、他方環境省は、「PFOS等の血中濃度と健康影響の関係を評価するための科学的知見は十分ではない」と答弁している。

活性炭が置いてあった資材置き場は、その後の検査で、750,000ng/Lと驚異的な数値を検出した。
活性炭の再利用については、環境省「PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項の策定について」をもとに処理されていると理解するが、業者は「一部は再利用していた」というものの、その方法が不十分または確実に実施されていなかったとも考えられる。

活性炭の再処理は今後も増えていく分、2次的な汚染対策は急務。800〜900℃の高温加熱で元の活性炭の性能に復元し、繰り返し使用できるというが、3月15日・環境委員会では、屋良議員が、沖縄北谷浄水場を例に、「活性炭は、中国から多く輸入しており、今後も増える」と指摘。政府参考人は、今後の活性炭の必要量については、「把握していない」と答弁。
また、沖縄県が4千〜5千万かけて再処理をしていることにも言及、こうした費用が事業者含め今後も嵩み続けると指摘している。

ますます増えるであろう再利用は、産廃業者に処理が任され、土壌等に埋められると考えられる点でも、事業者への指導・助言等も必要だ。
そのために、(活性炭の)再利用の基準はどうなっているのか。
再処理過程をどう捉えているかが懸念事項だが、まだ“ルールがない”

使用済みの活性炭の再生利用については、現時点においては、特にPFOS等に関する何らかの規制がないというふうに承知しております。(略)PFASの処理に用いられる活性炭の処理性能等についても知見を今収集しているところ(略)

4月5日:環境省答弁

廃棄物としての扱いはどうするか?

昨年9月兵庫県明石市でも汚染が発覚した。
独自調査した、丸尾牧氏によれば、明石川の橋、支流を38カ所のうち、暫定指針値超が20カ所。40ng/Lを超える支流10カ所と複数の汚染が確認された。

さらに、産廃処分場(赤丸:産廃処分場、黒丸:産業団地)の2カ所、排水が流れ出ている水路のPFAS濃度も調査。1つ目水路は10万ng/L(安定型)、2つ目水路は210ng/L(管理型)を計測。
1つ目水路は、安定型処分場であるため、処分場の底が遮水されておらず、周辺広範囲の土壌が高濃度のPFASに汚染されている可能性あるとのこと。
左端の産廃処分場(安定型)の周辺河川の水質は、74ng/Lと高く、こちらも汚染源である可能性が高いとのこと。

丸尾氏は、「明石川のほとんどがPFOA汚染。ダイキン由来の可能性はあるが、今のところ汚染原因である産業廃棄物処分場内の廃棄物(使用済み活性炭かどうかなど)は不明。」と指摘する。
同氏は、神戸市と明石市に対し、明石川の水質再検査の実施と汚染源の撤去対策を要請し、現在も調査継続と。
12月には、大臣宛文書も発出されているが、事務方での共有に留まっていると。
これだけタイムリーな事象なのにあまりにもレスポンスが遅すぎる。

廃棄物埋立処分場で発生する浸出水について、PFAS 汚染が生じているという報告(PFAS 濃度、21,400~682,000, mg/L)もあり、産廃由来の対策は急務であるが、国内では関連法令は未整備だ。

・本事案、神戸市西区の産廃処分場は、安定型もあり、広範囲にPFAS汚染している可能性が高く、汚染土壌対策に多額の費用を要し、1事業者や1自治体だけでは、根本解決が難しい。政府の金銭的な支援が不可欠(丸尾氏)
・PFAS含廃棄物は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」において、特定管理廃棄物に規定されていない。この法律に基づいて、必要な処理基準を設け、通常の廃棄物よりも厳しい規制を行うべき
・PFAS 類は「水質汚濁防止法」における有害物質に指定されておらず、排水基準も設定されていないが、規制強化等への見解は如何か。
・ フランスのエコロジー移行・地域結束省は2023 年1 月に発表した、PFAS に関する2023 年から2027 年のアクションプラン(行動計画)の中で、食品環境労働衛生安全庁(ANSES)が自然界、特に水中のPFAS 濃度値の上限を決定し、工業用地や排水処理場など PFAS を多く排出する事業活動の可視化を強化するとし、また、大量のPFAS を排出する可能性のある産業施設を特定し、PFAS の排出量が多い業種の工場には、排出物に含まれるPFAS の分析義務を課すなどとしている。こうした諸外国の例を国も生かすべきでないか。

こうした問いに対し、大臣の答弁はあまりにも薄い。
排出された後をどうするか。そうでないと、話は戻るが、河川・海への汚染が拡散、さらに魚・貝にも。
静岡の事案もそれに近く、“令和の水俣病”になりかねない。

大気に汚泥、広がる・戻るPFAS汚染。次の課題か?

大気汚染については、2008年大阪摂津市で、京大チームの調査で、淀川製作所からの排出煙(PFOA)が、東は愛知県、西は広島県、北は石川県、南は和歌山県にまで及び、季節によって風向きを変えながら1年中拡散されていたことが判明したが、当時国や自治体は何ら対応しなかったという。

PFAS問題を追っておられる諸永氏が紹介された、デュポン社内部文書「PFOA 最善策(Best Practices)」(2007年7月16日)では、労働者が体内に取り込む曝露経路を3つ紹介しており、曝露が圧倒的に多いのは「吸い込み」で、「手袋とマスクの装着」や「使い捨ての服の使用」さらに「排気フード下での作業」を推奨するなどと記されていたと。ただし、そうした防護策が導入されたのは健康被害が相次いで見つかるようになってからとのことだ。

そうした大気・空気からの汚染については、現在はPFAS関連物質の排出(煙)はないとされても、活性炭フィルターを再利用する際に発生するという指摘がある。

PFAS除去のために使用されるのは、粒状活性炭がほとんど。
粒状活性炭残渣の処分・再生方法についても、完全密閉=完全密閉型書システムが必要とも指摘されている中、“永遠”の化学物質の製造等を止めても、残り続けるのだ。その点でも、大気における規制も考えるべきだ。

最後に、汚泥の件。今後審議すべき重要事項と考える。
我が国でも、バイオソリッド(=農場の肥料として活用されている下水汚泥)が使用されている。以下に農水省の資料を抜粋するが、“安全性・品質を確保”とはいえ、絶対はない。

農林水産省資料

昨年10月に琉球新報と京都大学が実施した独自調査によれば、3,767ng/kg(沖縄県地下水汚泥肥料PFOS)、66,324ng/kg(佐賀県地下水汚泥肥料PFOA)だったと。米ミシガン州の使用禁止値は、125,000(PFOS)なので、それよりは低いとしても、対策を早めないと、大阪摂津市のように食物からの体内暴露につながりかねない。

なお、米メイン州では2022年4月からバイオソリッドの肥料利用禁止に、しかもそこまで高くない数値からだ。カナダも同様である。これをどう評価するか。

3月29日に公表された、2023年沖縄県の全県調査では、離島を含め全ての市町村の土壌からPFASが検出。PFOSが最大で久米島92ng/L,PFOAが最大、名護95ng/L。県は、「(基準値が定められていないので、)調査結果に対しての安全性、危険度の評価はできない状況」としている。

沖縄県資料を編集

土壌汚染は、一昨年8月、宜野湾市立普天間第二小学校内で採取した土壌からも確認されていたにもかかわらず、基準がない。

土が汚染されているということは、そこで育てる野菜・食物への影響は避けられない。さらに、汚染肥料に高濃度PFASが含まれているとなる、汚染されていない土壌で育てても体内への暴露を避けられない。

PFASを製造停止しているから問題ない。
もう世には新たに存在しないとしても、これでは汚染サイクルは“永遠”に消えない。

No rule, No checkではなく、積極的な規制へのアクションが必要だ。


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