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PFAS汚染を追って〜岡山・吉備中央町〜

拡大するPFAS汚染の発覚。これまで原因のほとんどは、PFASを製造・使用していた工場や米軍基地周辺からの流出であったが、岡山では、PFASを除去する活性炭が原因ではないかとの憶測が広まっている。
現地の方のお話を伺うべく、吉備中央町へ向かった。


原因が工場からの排出ではない

12月26日、所属先の年内最後の視察。
2日間にわたる行程の1日目。岡山県のど真ん中、吉備中央町へ。新幹線で新横浜から乗車、岡山駅下車。ここから車で1時間という距離。
デジタル田園健康特区に指定され、人口10,380人(男5,012/女5,368/世帯数5,190)規模の町。
そんな自然豊かな同地でPFAS汚染が発覚したのは、11月10日。
詳細は、視察に先立ってレクチャーくださった諸永さんの記事を参照いただきたいが、要約すると、町内の円城浄水場で、2022年10月の検査で暫定目標値(50ng/L)の28倍のPFASが検出、10月16日から飲料水としての使用を控えるよう呼び掛けられた。その対象は、円城地区522世帯、約1000人。
そして11月22日、水道水の飲用制限を同日正午で解除され現在に至っているが、浄水場周辺の22地点で実施された検査では、最も上流の地点からは62000ng/Lもの値が検出された。
そして、このことは3年前の調査でも目標値を超え検出されていたが、2年前の調査同様、町は対応を取っていなかったというもの。

周辺にPFASを使用・製造した工場はないのに、なぜか…。
それは、PFASの除去処理をする使用済みの活性炭が入ったフレコンバックが野積みされていたからではないかと指摘されている。
河川や水道のPFASを除去したから〝安心〟ではない。何が起きていたのか。

行政の声ー国の規制基準は?

20日、2歳から80歳の27人の血液検査の結果が公表された。
住民有志の方が自ら実施したというもの。
結果は、全員のPFOAの数値がアメリカのガイドラインで要注意とされている20ng超

視察時提供資料

町は、11月17日に吉備中央町健康影響対策委員会を立ち上げ、多角的に議論を重ねているが、そもそもPFASについては、水質基準(暫定目標値)が設けらてているものの、法的拘束力(罰則)はなく、大気と土壌については、基準値すら設けられていない。(例えば、「土壌汚染対策法」)
町の対策も注目されるが、国が先立って基準値を示すべきではないだろうか。

(ご参考:土壌汚染対策法)
第一章 総則(目的)
第一条 この法律は、土壌の特定有害物質による汚染の状況の把握に関する措置及びその汚染による人の健康に係る被害の防止に関する措置を定めること等により、土壌汚染対策の実施を図り、もって国民の健康を保護することを目的とする。

土壌汚染対策法

その点で言えば、令和2年からできたのではないか。
厚労省からの文書からもそれは明らかだ。

当該文書には、「技術的助言」と記載あり。
予測が甘すぎないか…

また、当該浄水場からの給水を受けていた住民を対象に過去3年分の水道料金を返還する関連費用を盛り込んだ予算案が町議会で可決されたが、町(自治体)まかせであってはならない。

吉備中央町

綺麗な水、豊かな自然。汚染はいつから…

前述の諸永さんも紹介されておれるが、同地は自然豊かな場所だ。
汚染されているなんて、誰しもが予想できなかった。
いつから飲んでいたかも、どのくらい飲んでいたかもわからない。

お話を聞かせていただいた阿部順子さんの想いを紹介する。
継続した対策と検査は必須であるが、住民の不安・健康被害への懸念を早急に解消することが最優先だ。

円城浄水場 PFAS 問題有志の会の皆さんと

令和5年12月26日(水)
円城浄水場 PFAS 問題有志の会 阿部 順子

今回、小泉昭夫京都大学名誉教授と原田浩二京都大学准教授による血液検査の発起人をさせていただきました有志の会の阿部順子と申します。

私はこの町に12 年前に家族 3 人で越してきました。その時、息子は生後半年でした。幼い息子は近所の皆さんにたくさん可愛いがってもらいました。6 年間通った小学校の同級生は 9 名。保護者の皆さんとも仲良くさせていただきました。子育てを通じて地域に住んでおられる、大勢の方々にたくさんお世話になってきました。円城地区は引っ越しを何度も繰り返して 育った私にとって、ここに一生住もうと決めた、特別な場所です。住人同士のあたたかい交流がある、豊かな自然が素晴らしい、大好きな地域です。

その場所でどうしてこんなことが起こったのか、今でも信じられない気持ちでいます。

10 月に町から 3 年前から PFAS 問題があったことを告げられ、動揺しました。町に対して、 騙されていた、と感じました。それから、連日のように度重なる町の不祥事を告げられ、汚染状況がとても酷いことがわかりました。子供が将来、健康に問題を抱えることになったらどう しよう。もしかしたら、もう何かの症状がでているかもしれない。泣きたい気持ちで一杯でし た。

第一回住⺠説明会では、水道水が汚染されている事の重大さを理解しているのか分からない山本雅則町⻑の発言に失望しました。血液検査への要請には否定的な返事が返ってきました。 調べてみると、住⺠の求めに応じて血液検査を実施した自治体は日本中どこにもない事がわか りました。そして、水道水から PFAS が 1l あたり1000ng以上検出された事例は日本中どこにもない事もわかりました。桁違いの汚染状況だということがわかりました。

PFAS 問題を告げられて 5 日目、今すぐにでも動かないと、いつまでたっても何も変らない。このままではこの地域の子供たちの未来を保証できないかもしれない。そう思いつめ、各地の PFAS 汚染に関わられている小泉昭夫先生に思い切って助けを求めました。その一本の電 話が今回の血液検査の実施につながりました。

町の説明会にはすべて参加し、その都度希望者全員の血液検査を要望しましたが、山本町⻑からの返事は否定的、もしくははっきりとしないものでした。やはり、町は血液検査をやらないのではないか。そう思いながら打ち合わせを重ね、11 月 26日に血液検査を実施していただくことになりました。

当日は小泉先生に来ていただき、岡山民医連、京都民医連のご協力の元、採血をしていただきました。
27 名の検体を原田先生がいち早く分析してくださり、12 月に入ってすぐに検査結果の通知を個々に郵送して頂きました。

結果は、参加者全員がアメリカでの健康指標の20 ng/mlを超える数値でした。結果を待つ参加者のみなさんに「検査結果の数値が高いからと言って、今すぐに症状が急変することはないので安心してくださいね。」という伝言がありまし た。安心してください、という伝言内容とは裏腹に、送られてくる数値が高いことを想像し、 一体どんな数値なのだろうと、届くまで緊張しました。数日後に届いた結果を見て数値の高さにショックを受けました。それでもやはり「受けて良かった、自分の数値を知れて良かった」 と思います。参加者の皆さんも同様に、「数値が高くてショックだった。それでも自分の数値 を知ることができて良かった」と言われました。参加した子供たちからも高い数値がでたので、「自分よりも高い数値が子供からでている。大丈夫なのだろうか。心配だ。」という声もありました。

先月行われた健康影響対策委員会の中間報告では、町の特定検診のデータから見ると町内の他の地域との健康状況の差はなく、2022 年のデータでの健康被害はない、としていましたが、 納得がいきませんでした。町の特定検診を受けずにかかりつけの病院や職場で健康診断を受け る人も大勢おられますし、実際に健康被害が出ている方は通院先の病院で検査を受けられることがほとんどだと思います。私は特定検診をまだ一度も受けたことがありません。

先程申し上げた通り、参加者全員がアメリカで健康に影響があるとされている数値を超えています。検査を受けられた皆さんに影響はでていないのだろうか。参加者の皆さんに申し訳な いと思いながら、立ち入った事を聞かせて頂きました。半数以上の方から PFAS 関連の症状名を聞きました。

私が伺った症状は高コレステロール値、妊娠高血圧症、出生時低体重、流産、難妊化、精子 減少、前立腺炎、肝機能障害、甲状腺疾患、腎盂腎炎です。

お話を伺った際に多くの方が、「症状について思い当たる節がなく、ずっとなんでだろう、と思っていた。」「PFAS 汚染を知って、関連性を疑った。」とおっしゃいました。

私にも関連が疑わしい症状があり、ずっと思い悩んでいました。私の家族は 3 回泣きました。ここに住んでいなかったら、ひょっとして、違う未来があったのではないか、そう思うとたまらない気持ちになりました。

検査を受けた 27 名の中に、同居のご家族に癌で余命宣告を受けられた方がおられます。検査当日に参加できなかった方もおられます。PFAS 問題を知らされた頃に癌だと分かった方です。その方は、発熱のため退院できず、参加できませんでした。

「永遠の化学物質」を大量に摂取したわたしたちは今後 20 年、30 年と健康リスクを抱えることになります。関連性の疑いのある症状がたくさんでていても、現状では因果関係を証明できません。

今回の血液検査は円城浄水場からの水道水を飲んでいた約 1,000 人の中のたった 27人です。

町は他の全ての住⺠の血中濃度と健康被害を調べるべきだと強く思います。

先週開かれた第 2 回の健康影響対策委員会後の会見で頼藤貴志委員⻑は年明けに住⺠の声を聞きたい、と発言されていますが、どうして年明けまで待たなければいけないのでしょうか。

既に頼藤委員⻑は 11 月 22 日の住⺠説明会で何度も何度も住⺠から血液検査を求められてい ます。頼藤委員⻑から住⺠に対して要望されたアンケートも既に提出しております。11 月 10 日に提出した 3 年間の水道料金の返還と血液検査を求める署名 1,038 筆の内、当該地域住⺠か らの署名は 373 筆です。12 月 4 日に円城地区連合自治会から出された要望書には血液検査の 実施も含まれており、当該地区すべての自治会⻑の直筆署名があります。

山本町⻑は先週末に開かれた住⺠説明会で何度も何度も意志を表明されました。2 か月前と全く変わっていました。山本雅則町⻑は住⺠が確認する度に「私は希望者全員に対して血液検 査をしたい。どんな事があってもこの意志はかわりません。」と発言されました。年度を超えると、町外に進学、就職する方もおられます。血液検査を受けるべき人が受けられなくなります。

一刻も早く、年内に血液検査の実施を宣言すること、そして年明けに予定している健康影響対策委員会からの説明会では、既に十分聞いた住⺠の声を聞くのではなく、血液検査をどこでどんな風に実施していくか、今後、継続して健康保障を受けれるように、当該区域での疫学調 査を含む、私たちの未来にとって大事な健康調査をどのように実施していくかを説明していただきたい。

地域の大切な子供たちの未来に影響が出てからでは遅すぎます。働く世代も病に倒れたら家 族を支えていくことが困難になります。

先月末、伊藤信太郎環境大臣は閣議後に「引き続き PFAS 対策の強化、国⺠の安全安心の確保に努めてまいります」と発言されました。

土壌問題がまだ残っています。今まで使用していたダムは使用できなくなりました。ダムからの放流水は、町外の下流域も汚染し続けています。PFAS 対策は強化されているのでしょうか。深刻な汚染の被害を受けたことが分かっても、今後の保障の道筋は示されていません。

私たちの大事な子供たちに安全安心が確保されているのでしょうか。

この町でずっと安心して暮らしていきたい。安心して子供を育てていきたい。 そのためにできる対策を町に、県に、国に求めます。

ご本人提供

水は、土に染み、沢、そして川へ流れていく

汚染が発覚した浄水場だが、その原因は、野積みされたフレコンバックとされる。この中身は、使用済みの活性炭。
PFAS除去に効果を発揮されるとされ、多くの自治体が導入しているが、その処分方法は燃焼でとなっている。しかしながら、今回は、その燃焼が不十分だったのか。または、蓄積によるものなのか、原因は未だ解明中だ。

1.分解処理方法
現時点では、焼却処理(PFOS含有廃棄物:約850℃以上、PFOA含有廃棄物:約1,000℃以上(約1,100℃以上を推奨) )はこれらの要件に該当すると考えられるが、この場合であっても、燃焼ガスの十分な滞留時間を確保する必要があることに留意すること。

環境省「PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」

フレコンバックが置かれていた空き地。
ここは、活性炭の再利用をする地元企業の資材置き場で2008年から約600個が保管されていたとのこと。16年以降は約300個が野積み状態だった。
今回の件を受け、11月21日に県が450万ナノグラム/Lの濃度をフレコンバッグのサンプルから確認した。ここから漏れ出たPFASが土に染み、沢・川へと汚染を広げたのではないかと言われている。
10月下旬には、〝空き地〟状態になっていたという。

フレコンバッグの面影はない。

位置関係としては、水平方向で同じくらいの標高?の浄水場へ足を運んだ。
浄水場は、川から水をポンプアップしているというが、標高が低いところに滞留してしまった高汚染水が集約されてしまったことで、当該浄水場からの配水を受ける住民の方に被害が出てしまったということだ。

2020年度以降、国の暫定目標値を大幅に超える1400~800ナノグラムを検出

続いて、日山谷川観測地点(西側沢F1)へ。ここでは、最大62,000ng/Lという結果が出ている。地元の方にとっては散歩道。犬もこの水を飲むなど、見た目は綺麗だ。しかし、汚染は目に見えない。フレコンバック置き場から染み出したPFASは流れ続けていたのだ。

写真上部が、フレコンバック置き場=標高高
下流側。土、そして河川へと水は染み流れていく

最後に、河平ダムへ。ダムの観測地点では、1,100ng/Lという値が出ている。
対策が始まったとはいえ、汚染の滞留・沈殿は長期渡り生じていた。今後は、ダムより下方の状況も注視する必要がある。

関係車両が入るであろう舗装された道の下あたりで検出された

健康調査、水以外の基準値策定…国主導の対策を

「答弁を差し控える」という常套句を今国会で何度聞いたことだろうか。
PFASについても、「科学的知見の集積中」という言葉が繰り返されてきた。

ようやく政府の対策姿勢が見えてきたことは、前回の記事でも言及したところだが、今回の事案は工場周辺で起きたこととは全く違う様相で「産廃由来の汚染となると、問題も根深い」と大阪のPFOA問題を追いかけるTANSAの中川さんも指摘する。

1月からは始まる国会では、
・エコチル調査の状況
・国主導の血液検査等バイオモニタリングの実施について
・水以外の、土・大気における基準値の策定
・そして、産業廃棄物として処分のあり方
などを問う必要があるだろう。
また、内閣府食品安全委員会有機フッ素化合物(PFAS)ワーキンググループでの議論も注目したい。

水だけではない、目に見えない曝露の恐れ。
「こんなことで、誰一人亡くしたくない。」

住民の方が語られた言葉である。

いのちと人間のかけがえのない営みを守るためにできることは何か。
取材を通じて筆者も提起していきたい。

(謝辞)
・今回の視察に際してお世話になりました、吉備中央町の皆様に感謝申し上げます。
・視察に先立ち、レクチャーいただきました諸永様にも大変お世話になりました。この場をお借りして、御礼申し上げます。

(参考記事:これまでのまとめ)




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