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私の足跡『たびらのたび』

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ノンフィクション小説形式でお届け! 大学時代に核問題を学んでから、被爆体験を継承した「次世代の語り部」としての旅の足跡を書いています。 語り部をやっている若者や仕事と両立しながら…
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#平和

第6章 命日 ⑦「勲さんへ」

第6章 命日 ⑦「勲さんへ」

 勲さんへ―

 私は先日、あなたのことをよく知る被爆者の大庭さんとお話をしてきました。

 大庭さんが被爆者健康手帳を取得するにあたり、勲さんが被爆者相談員としてご尽力なさったそうで、そのことにとても感謝しておられましたよ。
 そして、勲さんの平和を願う思いや、真面目で立派なお人柄、何事にも真摯に取り組むお姿を称えていらっしゃいました。何より「惜しい人を亡くした」と残念そうに語っていたのが印象に

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第4章 出発 ⑦「15歳で使命を自覚した女の子」

第4章 出発 ⑦「15歳で使命を自覚した女の子」

 こうして講話を終え、学校によっては生徒に感想文を書いてもらい、後日郵送していただく。

 何よりも一番嬉しい感想は「勲さんが大事にしていた『戦争ほど残酷なものはない、戦争ほど悲惨なものはない、平和ほど尊いものはない』という言葉が一番心に残った」というものだ。
 私の役割は勲さんの被爆体験と平和への思いを正しく伝えることにあるから、このような感想をいただくことは、証言者冥利に尽きる。

 その次に

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第1章 原点 ②「学生最後の四苦八苦」

第1章 原点 ②「学生最後の四苦八苦」

 こうして核問題のイベント準備と勉強に取り組む日々が始まった。この間に「ナガサキ・ユース代表団」の存在を知り、自分もその一員になりたいと思った。
 真っ先に両親に相談すると、快く背中を押してくれた。公務員試験があるのに行っていいのか、ということは正直悩んだ。だが、1年に一度必ず受けられる試験より、一生に一度の大チャンスである国連を選んだ。
 結果的にこれは正解だった。倍率の高い公務員試験には不合格

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第1章 原点 ①「就活中なのにNYへ?」

第1章 原点 ①「就活中なのにNYへ?」

 「私、来週からニューヨーク国連本部に行ってきます」

 大学の指導教官と学務係の職員にそう報告したのは2014年4月中旬のことだった。1週間後の渡米を報告すると、意外にも応援してくれた。

 実は前年の12月8日、私は「ナガサキ・ユース代表団」第2期生の一員に選ばれた。これは、長崎に住む若者らが核兵器廃絶の分野で自ら行動できる人材になるための人材育成プログラムのことだ。
 ユースのメンバーは、N

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『たびらのたび』 プロローグ

『たびらのたび』 プロローグ

「なぜ核兵器は悪なのか」―あなたはこの問いにどう答えるだろうか。

 私は長崎大学経済学部の3年生だった2013年、大学で核問題の講義を受けている時にこう問われた。教員から学生全体への問いかけで、皆が真剣に考えたと思う。私なんか今までそんなこと考えたこともなかった。

 そんな私は現在、「被爆体験継承講話[1]」を全国各地の学校で行っている。2019年5月、大阪府門真(かどま)市の中学校で上記の質

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