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私の足跡『たびらのたび』

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ノンフィクション小説形式でお届け! 大学時代に核問題を学んでから、被爆体験を継承した「次世代の語り部」としての旅の足跡を書いています。 語り部をやっている若者や仕事と両立しながら…
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#被爆

第3章 始動 ⑤「叶わぬ約束」

第3章 始動 ⑤「叶わぬ約束」

 この日の聞き取りは2時間だった。
 勲さんは、本当にたくさんのことをお話してくださるのだ。そして何より、知識の多さに驚いた。ご自身の被爆体験や平和への思いだけではなく、核兵器そのものや核問題を論じながら縦横無尽に話を広げる。
 「これは自分も相当勉強しなければいけないな」と私はますますやる気になった。

 聞き取りを終え、次回の約束をする時間になった。
 「今度は、10月下旬にしようか。次は聞き

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第3章 始動 ④「様々な被爆者」

第3章 始動 ④「様々な被爆者」

 2回目の聞き取りは、他の2人が都合が悪かったので私1人で原爆資料館に行った。この日は被爆体験というより、原爆の実相や核問題を巡る世界の動きといった理論的なことをお話してくださった。中でも印象に残っているお話は「被爆者の分類」についてだ。

  私達がいつも想像する「被爆者」は、直接原爆の被害に遭った方のことだろう。彼らのことは「1号被爆者­=直接被爆者」という。しかし被爆者はそれだけではないんだ

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第3章 始動 ②「吉田勲さんのご生涯」

第3章 始動 ②「吉田勲さんのご生涯」

 2週間ほど経っただろうか、受け継がせていただく被爆者が決まった。被爆当時4歳11か月だった吉田勲(よしだ・いさお)さんだ。
 私は、勲さんの明るくフレンドリーなお人柄と、被爆体験講話や核兵器廃絶活動を国内外で活発に行っておられるところに惹かれた。私の第一希望は勲さんだったので、希望が叶ってとても嬉しかった。

 ここで、勲さんについてご紹介したい。
 1940年8月24日に長崎市で生まれた。父は

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