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拝啓 犬口さま (『とこしえの犬』を読んで)

暑い日が続きますね!

本日は、先日届いた犬口マズルさんの第一歌集『とこしえの犬』の感想を綴らせていただきます。
犬口さん(@dog_muzzle)とは、昨年のナナロク社さん主催の岡野短歌教室(0期生)をきっかけにその後も交流させていただいています。
歌人として7年目ということで、作りためた作品を一つの区切りの気持ちも込めて今回歌集としてまとめられたとのこと。

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手元に届いた瞬間、まず装丁にしばし度肝を抜かれます。表紙のデザインもさることながら、三方小口染め(ナナロク社の村井社長が、三方小口染めは高いって何かで言ってました!)に、表紙をめくった見返しの部分は星空のような特殊な紙が使われていて、紙好きとしては何の紙なのか知りたいところです。。!
7年間の結晶の1冊という言葉に何度も頷いてしまう素敵なデザインでした。

内容もとても読み応えがあります。いくつか特に好きな作品をご紹介させていただきます。

曇天に神の梯子が差し込んで僕を産もうと決めた両親

やめとけと言いたいのになきみはその人が好きで、仕方ねぇよな

息を呑むエンドロールが明けた後最後の一人と気付くシアター

ぽけぽけと息をしている老犬を撫でてサイドカーに乗るの一生

くさいねと言えばふすふす返事するように寝息を立てる老犬

大丈夫ぼくはめちゃくちゃ弱いけど好きなバンドは最強だから

            <『とこしえの犬』より>

全体を通してストーリーを感じさせる構成なのですが、最初の章の冒頭1首目にある「曇天に…」が犬口さんの独特な言い回しを象徴しているように感じます。
例えば私でであれば、空からの梯子で「自分が生まれた」と詠んでしまうだろうなというところを、「産もうと決めた両親」と表現するところに犬口さんの力強い個性を感じます。
この最初の章全体が、しずかな疾走感と神秘的な世界観に満ちていて、冒頭からワクワク読み進めることができました。

2首目は、結句のインパクトが強烈で面白いです。3首目もそうなのですが、読み進めていく中で想定外の思わぬ地点に着地する歌が紛れていて、とても好きです。
「仕方ねぇよな」なんて、私もいつか男性の筆名で詠んでみたいです。

そして、この歌集は犬口さんの構成力もとても秀逸です。例えば3・4首目の作品は「幸せのかたち」という章に入っているのですが、この章は表と裏を思わせる二項対立のような形で2首ずつ歌が配置されています。
犬口さんの世界観を「A面・B面」のように深く味わうことができるとても印象的な章でした。(そして、この章の最後の1首でストンと着陸する感じもたまりません!

4首目と5首目はオトマノぺがとても心地良い歌で、タイトルにもなった「とこしえの犬」という名の章に収められています。
これまでに出会った犬への愛情あふれる歌が並んでいて、特に犬好きさんにはたまらない章だと思います!(でも犬口さん、実は猫も好きということです!)

構成的にも、第2・3章で深い心の叫びのような歌が続くのですが、後半からは主体が新たな居場所を見つけ、この犬の章でやわらかな読了感に浸れる、オアシスのような章だと感じました。

6首目は、「ボーナストラック」の中から。
これ、すごいわかるー!!と思わず頷いてしまいました。私も学生時代から好きなバンドがいて勝手に国宝に認定しているのですが「国宝級のバンドを好きな私もすごい!」みたいな、謎の自信が生まれるときがありますw

こちらの「ボーナストラック」というページからも伺えますが、全体を通して、この歌集を手にとった読者へのあふれるサービス精神というか、犬口さんの気遣いを感じるとても読み応えのある一冊でした!

個人的には、夏の夜空の一つ一つの星たちを、愛おしく見つめるような歌集だと感じました。
あとがきにもありますが、いつかは変わってしまうものたちを歌にすることで、永遠に閉じ込めておきたい、という熱い想いを感じます。

今からすでに、犬口さんの第2歌集を待ちわびています。。

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