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その名前は雲のように
飛行機の足跡をくぐり、私は傘を広げた。もうすぐ夕立がやってくるだろう。綿のTシャツは夏の暑さと湿気を吸ってへばっているが、この雨が降れば秋が来てしまうので暑さも少々名残惜しい。
隣を歩く君の瞳はカメラのレンズのように辺りの風景を読み取り、一心不乱にメモリに保存していた。
ちぎれた記憶の中では君も傘を差している。暖かそうなウールのセーターを着込んで雪を降らせる空を見上げる。羽根が落ちてきている
僕+彼=theme ∴僕=?
僕にはずっと、なにか足りないという思いがある。それがなにか分からないまま、氷塊だらけで冷たい大地をあてもなく一人さまよっている。
ある日氷原を歩いている人影を見つけ、必死に追って声をかけた。
「あのっ、初めまして」
「どうも。私はマル」
「マル、さん」
違う。僕が求めているものを彼は持っていないだろう。足りないものを特定していないのに瞬時に僕はそう感じた。
あれから歳月は流れ一人旅に慣
重さ、約7.4グラム
私は絵が下手だ。
ただ下手なだけではない。
昔、飼っていたネコのミーを描いたら、ミーの口は私が描いた通りに耳元まで避け、縦一列に並んだ四本の脚で歩きにくそうに擦り寄ってきた。それから私は絵を一切描かなくなった。
ある時友人が戯れに描いた私の似顔絵を見せてきた。私が気にしている糸のような目をそっくりそのまま写したその似顔絵は、腹立たしいほど私に似ていた。
私はそれが気に入らなかったので持っ
no moon, new moon
「今日お月さまいないね」
暗くなった空を見上げてサクが口をとがらせた。
「まだ出てないんじゃないの?」
そう答えてなにげなく壁に目をやると新しいページに替えたばかりのカレンダーの枠内に黒い丸が描かれていた。そっか、今日は朔の日だ。
「サク?」
「新月だよ」
「しんげつ?」
「お月様は出ているけど見えない日」
「お月さまいるのに見えないの?」
不思議そうに首をかしげるとおかっぱの先が