僕+彼=theme ∴僕=?

 僕にはずっと、なにか足りないという思いがある。それがなにか分からないまま、氷塊だらけで冷たい大地をあてもなく一人さまよっている。
 ある日氷原を歩いている人影を見つけ、必死に追って声をかけた。

「あのっ、初めまして」
「どうも。私はマル」
「マル、さん」

 違う。僕が求めているものを彼は持っていないだろう。足りないものを特定していないのに瞬時に僕はそう感じた。
 あれから歳月は流れ一人旅に慣れた頃、変わり映えのない氷原の彼方から人影が現れた。

「どうも。俺はテン」

 目の前に立つ彼から名前を聞いてようやく出会えたと思った。冷えきったこの世界で異質だった僕が、彼の側にいるだけでやっと周りと同じになれた。

Twitter300字ss お題:氷(2017.2.4)

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