no moon, new moon

「今日お月さまいないね」

 暗くなった空を見上げてサクが口をとがらせた。

「まだ出てないんじゃないの?」

 そう答えてなにげなく壁に目をやると新しいページに替えたばかりのカレンダーの枠内に黒い丸が描かれていた。そっか、今日は朔の日だ。

「サク?」
「新月だよ」
「しんげつ?」
「お月様は出ているけど見えない日」
「お月さまいるのに見えないの?」

 不思議そうに首をかしげるとおかっぱの先が揺れる。それに頷くと目の前の幼い女の子は、いるのに見えないのが自分に似ていると言った。

「サクの名前は月から借りたんだよ」

 それを聞いたサクは納得したように笑うと「だからお月さまが好きなのね」と嬉しそうに半透明の体を跳ねさせた。

Twitter300字ss お題:月(2016.10.1)

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